守は衝撃を受けていた。
すすきので怪獣騒ぎがあったがそれ以上の衝撃だ。
なんとこれまで怪獣と戦っていた巨人から卵が孵るようにマリアが出現したのだ。
「やべぇどうしよう……」
自宅の部屋で例の写真を見ながら考えていると父親が怒鳴り込んで来る。
「守! 塾行かなかったのか⁈」
塾をサボった事が電話でバレたようだ。
怒鳴りつける父親だが守はそれ以上に恐れる事があり話が全く耳に入らなかった。
「(もし俺が巨人の正体を知ってしまったとして……マリアさんが気付いてたら口封じに消されるんじゃ⁈)」
得体の知れぬ巨人の正体。
そのため守はひたすら恐れた。
目の前で怒る父親より明らかに死が近いと感じたのだ。
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翌朝、恐れながらも登校した守は教室に入り席につく。
すると廊下から足音がズカズカと近付いて来た。
「え……?」
何やら外が騒がしい。
そしてその足音は守たちの教室の前で止まり思い切り扉が開かれた。
「ねぇ、神崎クン……」
そこには恐れていた存在、阿部マリアが焦ったように震えながら立っていた。
上級生がその様子で来たためざわついていたのだろう。
「あ、マリアさん……?」
顔を赤くしながら近付いて来るマリアにどんどん心拍数が上がっていく守。
「あの写真……」
その言葉で全身の鳥肌が立った。
やはりマリアは自分を消す気だ、そう本能が告げたのか守は席を立ち思い切り走り出す。
「くっ……!」
「あ、待って!」
当然の如く追いかけて来るマリア。
学校中で走り回る彼らは非常に注目されていた。
「(こんな所で死ぬ訳にはいかない……っ)」
心の中でそう何度も唱えながら走る。
先生が注意する声も聞かずにひたすら走った。
「待って、待ってよ……!」
マリアも息を切らしながら走っている。
人を避けていた守は無意識に階段を駆け上り屋上まで来てしまった。
「やべっ……」
フェンスという行き止まりに追い詰められてしまう守。
ジリジリとマリアが逃すまいと近付いて来る。
「や、やめて下さいっ! 俺は何も知らない、見てないですからっ!」
「知ってる人の言い方でしょそれ! 昨日の写真、消して……!」
「消した後どうするんですか、俺を殺すんですよね⁈」
「はぁ⁈ 何言ってんの! そんな事しないから消してよ!」
「絶対ウソだぁ!」
そしてとうとう守の目の前まで来たマリア。
恐怖で思わず目を閉じてしまう守。
するとマリアは本心を守に向かって伝えた。
「やっと普通の生活を体験できてるのっ、誰も何も知らない所で普通の女の子として生きれてるのにっ!」
「……え?」
「もし拡散されたら……もうここに居られなくなっちゃうっ!」
守は恐る恐る目を開けてみるとマリアの瞳に涙が浮かんでいるのが見えた。
「どういう意味ですかそれ……?」
思わずへたり込んでしまった守はマリアに問う。
「もういいや、君には知られちゃったし……」
するとマリアは一歩下がってからしゃがみ、守の視線と高さを合わせた。
「君が知った通り私が今まで怪獣"シナー"と戦って来た巨人、"セイント・マリア"だよ」
分かっていたがやはり衝撃のカミングアウトだった。
これまで会ったマリアと全くの別人に見えてしまう、仕方ないがどうしてもそう見てしまった。
☆
予想はしていた答えだったがやはり守はまだ信じられない、これまで生きて来た価値観が崩壊していくのを感じた。
「ねぇ、私はこんなこと望んでると思う?」
「……え?」
突然の問いに守は一瞬固まってしまう。
「小さい頃からずっと鍛えられて今は戦わされてる、聖女として……世界を救うためとか言われてもさ……っ」
「……っ」
「こんなこと望んでると思う? 知らない人達のためにボロボロになって……っ」
そう言うとマリアは突然制服の裾を捲った。
守は驚き一瞬目を伏せてしまうがすぐに驚く。
マリアの背中には昨日の巨人が受けたものと同じ傷痕が残されていたのだ。
「今年初めて学校に来たの。TVだけの存在だった所に私は通えてる、みんな私を聖女じゃなくて普通の女の子として扱ってくれる。それなのに……!」
そしてマリアは自分の望みを語り出す。
続けざまにマリアは守を指差して言った。
「その写真が拡散されたらもうここには居られなくなっちゃう、やっと普通の女の子になれたと思ったのに……!」
今のマリアの話を聞いた守は少し考える。
それでもなかなか答えは出なかった。
「……っ、何て言えば良いのか」
正直それしか言えない。
あまりに現実味が無いからだ。
それでもマリアは必死に懇願をしてくる。
「お願い写真だけでも消してっ! ……君なら分かってくれると思ったの!」
残念そうに項垂れるマリア。
しかし守はその一言が引っかかった。
「俺なら分かるって……?」
質問を受けたマリアは顔を上げて守に言った。
彼女が彼に抱いている感情だ。
「初めて会った時、君を羨ましいって思った。あんなに自由で今を生きてるようなロックを演奏してるんだから」
空き教室での一連だろう。
「でも話を聞く内に君も私と同じ不自由な人なんだなって思えて来たんだ、失礼だったらごめんね?」
「いや、間違ってないっすよ……」
「そう……私思ったの、あれだけ自由を求めたロックが出来る人なら私の自由を求める気持ちも分かってくれるかなって」
マリアはあの時、夕陽のさす窓に影になるロックシンガーを見た。
「思ったんだ、この人私と同じだって」
改めてマリアは守に質問をする。
それは守にとっても大きな事であった。
「君にとってロックって何? 教えて……!」
守はその事についてあまり深くは考えた事がなかった。
しかし答えてやりたい、だからこそ自分のルーツを探ってみる事にしたのだ。
「……俺がロックをやるのはやっぱり反抗心が強いっす」
両親への気持ち、そして認めてくれないこの世界への気持ちを思い出す。
「曲も歌詞も反抗的なのばっか作るし俺の原点はやっぱりそこ……」
いい機会だと思い両親への愚痴をここで吐露してしまう。
「勉強しろ、いい学校に行け、安定した職につけ? それが俺の幸せじゃなきゃ意味ないだろって話っす! それこそ俺を生きてない!」
もう愚痴は止まらない。
「そんなの両親の自己満だろって、嫌な事しかして来なかった奴らに何かしてやる義理なんて無いのに!」
思わず話しすぎてしまい慌ててマリアの方を見た。
しかしその話をマリアは瞳を潤しながら聞いている。
「……ありがとう話してくれて、やっぱり君は私と同じだ」
そのままマリアは儚い笑顔を見せて守に言った。
「いつか二人で自由になれなら良いのにねっ」
その笑顔を見た守は一瞬で心を奪われてしまった。
しかしまだ守はマリアがとんでもない真実を隠している事を知らない。
☆
その日、二人は校門前で別れた。
少し機嫌が良くなったように見える守を見送った後マリアは背後から声を掛けられる。
「何だ、学校で彼氏でも出来たのかい?」
振り返るとそこには守が彼氏だと思った金髪のハーフのような男が立っていた。
迎えの車から降りた所らしい。
「クラウス、学校前まで来ないでって言ってるでしょ……」
クラウスと呼ばれた男の顔を見たマリアは途端に機嫌が悪くなるようであった。
「何だよ、許婚の俺を差し置いて男と会ってる癖に」
ニヤニヤしながら車に寄りかかり詰め寄って来るクラウスの意地悪さにマリアは余計に機嫌を悪くした。
「母親の罪、ちゃんと償ってもらわないとな。だから俺以外の男と仲良くしようなんて思うなよ〜?」
冗談めかしくマリアの顎を優しく撫でるクラウス。
マリアは仕方なく彼の車に乗った。
「んじゃ、今日は禊があるから早く帰らないと」
その言葉を聞いて最悪な気分へと陥るマリア。
走る車の窓から普通に帰宅する同級生たちの姿を羨ましそうに眺めていた。
・
・
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そして車はある大きな建物に到着する。
その建物には大きく『M's』と書かれていた。
大きなセキュリティ厳重の扉が自動で開き車を招き入れる。
「ただいま帰りました"前"聖王さま」
車を降りたクラウスはマリアを連れてある場所にやって来た。
まるで玉座が聳えているような空間でクラウスはそこに座る男に挨拶をする。
「私はまだ現役だ、あまり驕るなよクラウス」
「はいはい、本当は俺のはずだったのになぁ」
重たい空気の中でも軽い冗談を交えるクラウスに聖王と呼ばれる男もマリアも苛立っていた。
「ではセイント・マリアよ、禊の準備をしろ」
仕切り直した聖王はマリアに指示を出す。
その指示を聞いたマリアは歯を食いしばりながら返事をしようとするがどうしても守の事が浮かび声が出ない。
「どうした? 禊には世界の命運がかかっているんだぞ?」
「はいっ、準備します……」
守との話を思い出す。
彼は何もしてくれなかった人のために動く義理はないと言う。
しかし今のマリアも彼と同様に恐れてしまい反抗する事が出来なかった。
「マリア、ごめんなさい……」
すると聖王の隣に立っていた初老の女性がマリアを涙目で見ていた。
「いいよ、もう……」
そのままマリアは覚悟を決めた表情で聖王を睨む、それを読み取った聖王は両手を広げた。
「さぁ! 第4のシナー"色欲のアスモデウス"の力、その身に受け継ぐのだ! 母の犯した大罪、その償いを!」
聖王がそう叫んだ途端、背後の大きな扉が開きそこから眩い光が差し込む。
マリアは息を飲みながらその光の中へと消えて行くのだった。
☆
一方その頃、家に帰った守は親に勉強しなさいと言われているが自室で隠れてスマホの作曲アプリと作詞ノートを開いていた。
「……よしっ」
いつ親が入って来ても良いように勉強道具は出しながら学祭のために作っていた曲を編集する。
そして新たに書いた歌詞を当てはめていくのだ。
新たに書いた歌詞、そのタイトルには
『思いのまま』
そう書かれていた。
恐らくマリアを思い浮かべながら書いたものなのだろう。
彼女が背負う更なる地獄を知らぬまま守はただ彼女を喜ばせようと作詞作曲に励むのだった。
つづく