美しい少女、阿部マリアとの出会い。
それはこれまで良い経験の少ない守を舞い上がらせるには十分な出来事だった。
明るい恋を唄ったロックナンバーをイヤホンで聴きながら帰宅すると両親の出迎えがあった。
「あ、ただいま……」
「おかえり、今日もバンド?」
バンドをやっている事に対して少し威圧感を与えるような言い方をする母親。
何やら少し真面目な話がありそうな様子なため守は恐る恐る靴を脱いで家の中へと上がった。
「うん、練習してたよ……」
「あそう、お父さんと話し合った事あるから荷物置いたらリビングに来て」
それだけで嫌な予感は的中していそうだ。
とりあえずロックシンガーのポスターだらけの自室へ入り荷物だけ置く。
そして嫌々リビングまで行くと両親がソファに座りドスンと構えていた。
「で、話って何……?」
この場合、守はソファに座らせてもらえないためカーペットの上に正座する。
それを確認した父親が話を切り出した。
「前のテスト、成績落ちてたろ? あれから母さんと話し合ったんだけどな」
「うん……」
「もっと塾の日数を増やしてやる事にした、成績が上がるまでギターも没収だ」
それは守にとってあまりに大きすぎる罰だった。
流石に厳しすぎやしないかと反論してみる。
「約束と違うっ、聖華高校に合格したらギター続けて良いって言ってたじゃん! 何のために受験頑張ったんだよ⁈」
「成績が疎かになっていたら意味ないだろう? 何のための約束だと思ってたんだ!」
あまりに感情がグチャグチャに渦巻くため良い反論が見つからない。
なのでとにかくギターだけは奪わせまいと守は策を考えた。
「お願いしますっ、ギターだけは奪わないで下さいっ!」
この場で両親に向かって土下座をしたのだ。
何度も何度も頭を下げては床に勢いよくぶつける。
「おいやめろっ、馬鹿になるっ!」
父親が駆け寄って来て何とか宥める。
そのまま仕方なくある条件を出した。
「わかった、ギターは没収しない。でもしっかり塾の時間は増やしてもらうからな、今日もあるだろ?」
「くっ、分かったよ……」
そして塾に向かう準備を済ませたら家を出る直前に父親に忠告するように言われた。
「しっかり勉強して安定した職に就きなさい。まさかギターで食っていこうだなんて思うなよ? これはあくまで趣味だ」
相変わらず威圧的に言う父親に最後まで嫌気がさしながら守は塾に向かった。
☆
塾に着き夜遅くまで勉強をさせられる守。
彼はずっと内心焦っていた。
「(クソッ、全然ロックが出来てない! 高校生になったらもっとバンド出来ると思ったのに……!)」
焦りながら授業を聞いているため何も頭に入らない。
そのため講師に態度を指摘されてしまった。
「おい神崎、聞いてるのか?」
近付いて来た講師は守のノートを覗き込む。
するとそこには気が付いたら書いてしまっていた歌詞とコード表があった。
「コラ、授業はちゃんと聞きない。親御さんも安くないお金出してくれてるんだから」
まるで過保護な両親に感謝をしろと言わんばかりの講師の言動に守は更に腹が立ってしまった。
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・
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その晩、塾から帰り寝る準備を済ませるが守はなかなか寝付けない。
両親もとっくに寝た頃だろうがギターが弾きたくてウズウズしてしまったのだ。
「(ダメだ、これじゃ寝られない……!)」
守は遂に決心する。
スタンドに立て掛けてあるギターを手に取りアンプに繋ぐ。
そしてアンプには音が漏れないようにヘッドホンを付けて自分だけに聞こえるようにした。
「〜〜っ」
そのままギターを掻き鳴らす守。
焦りからかどんどんタッチが荒くなってしまう。
そのままテンションを上げて行き怒りから立ち上がり思い切り頭を振った。
するとハプニングが起こる。
「あっ」
アンプに繋いでいたヘッドホンのプラグが外れてしまい大音量の歪んだサウンドが家中に響いてしまった。
当然寝ていた両親も起きてしまう。
「コラ! こんな時間に何考えてるんだ!」
そのまま部屋の中へズカズカと入って来た父親はアンプの電源を切りコードを抜き、そのままシールドケーブルで繋がったギターごと抱えて部屋を出て行こうとした。
「ちょっと、何してんだよ!」
「没収だ、もう我慢ならん!」
そのまま父親は怒り遂に守はギターを没収されてしまった。
焦燥感からその場にへたり込んでしまう。
そして沸々と湧き上がる怒りに震えベッドの上に登り思い切り枕を殴ったのだった。
☆
翌朝、起きて来た守は両親と全く話さなかった。
両親も朝食をとりながら見る朝のニュース番組ばかり注目して守とは話さない。
「はぁ……」
とりあえず用意されていた朝食だけ手に取りテーブルに持って行く。
行儀は悪いが両親から気持ちを遠ざけるためにスマホでSNSを見ながら朝食をとった。
するとある記事を見つける。
《東京ヤングバンドオーディション》
それは近いうちに東京で開催されるという若手バンド発掘を目的としたオーディションだった。
「良いな東京は、きっと自由がある……」
思わず小声で呟いてしまった。
しかし親には聞こえず、テレビのニュースに夢中になったままだ。
「3体目の怪獣、意外と近くに出たな」
「安心できなくなってきたわね……」
先日の怪獣関連のニュースが放映されている。
それを見て話している両親の言葉を聞いた守は勇気を出してある質問をしてみる。
「……怪獣いるならさ、北海道から出ないの?」
すると両親は一瞬キョトンとした顔をしてから口を開いた。
「出てどこ行くんだ?」
「えっと、……東京とか」
「あのなぁ……」
そのまま父親は守に説教する形で説明をする。
「世の中の経済を回すには色んな所に人が居なきゃならん、流通だったり生産だったり。その中で北海道は日本でも随一の生産量なんだぞ? そこから人が居なくなったらどうなると思う?」
「だからと言ってわざわざ俺たちが危険な所に……」
「最初に選んでしまったからには仕方ないんだ、今更変える事は出来ない。もし変えてしまったらその責任は重いぞ」
何を話しても親とは意見が合わない。
だからこそ守はそのまま唇を噛み締めて登校するのだった。
☆
登校すると校門の前でスグル達のバンドがビラ配りしているのを見つける。
彼らは守を見つけると物珍しそうに声を掛けた。
「神崎、今日ギターは?」
両親に取り上げられてしまったため学校用の鞄だけを持ち登校した守を不思議そうに見るスグル。
当然ながら守の家庭の事情なんか知る由も無いので純粋な疑問として聞いたのだ。
「……嫌味かよ?」
「えぇっ、そんなつもりじゃ……」
守もそんな事は分かっているがどうしても八つ当たりせずにはいられなかった。
「ごめん、流石に言いすぎた」
即座に少し反省した守は校門を潜り教室へと向かった。
しかしギターを持っていない事で感じる視線などが痛く、守は教室に居られなかった。
「っ……」
一限目が始まる前に静かに教室を後にする守。
しかし誰も気にしなかった、守に興味がない事の現れである。
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開放感を求めていると屋上へ向かう階段を見つける。
前から少し気になってはいたため向かってみる事にした。
鍵はかかっておらず扉はすぐに開く。
吸い込まれるように入って行くと青空の下にいる自分に求めていた開放感を覚えた。
「おぉ……」
求めている自由を少しでも感じられたような気がしたがそれは普段が不自由であるという事。
そのため少し複雑な心境でいると声を掛けられる。
「あれ? 神崎クンじゃん」
名前を呼ばれ上の方を見ると扉がついている所の上に昨日話したマリアが座っていた。
「隣おいでよ」
自身の隣にある空いたスペースを叩いて来るように誘導する。
守は自然と導かれ彼女の隣に座る。
「どうしたの、浮かない顔して」
「授業サボった話はしないんすか……?」
「サボった理由とも関係あると思ったからさ、私でよかったら聞かせてよ」
「てかそっちもサボってるじゃないすか」
「私はいつもの事だから。他に人来たの初めてだから気になるの」
少し溜息を吐いた後、守は抱えている想いをマリアに伝えてみる。
格好はつかないかも知れないが唯一彼女だけは何故か信頼できそうなのだ。
「バンドやりたいのに全然上手く行かない……」
思えば初めて他人に抱えている事を吐露しているかも知れない。
それほどにまで守は一人で抱え込んでしまっていた。
「学祭も出ようと思ってたのにメンバーみんな辞めちゃったし、親には勉強しろってギター取り上げられるし……やりたい事をさせてもらえないんすよ……」
頭を抱えながら初めてマリアに思いをぶつけてみる、するとマリアは同情したように微笑む。
「そっか……」
真摯に話を受け止めてくれる様子のマリア。
なので守は最後に思いを総括した言葉を告げる。
「神様が俺の邪魔してるみたいだ……」
遂には神の名まで出して自虐を行うとマリアが口を開き守を元気付けようとしてくれた。
「……思うままにやるべきだよ、本当にやりたい事があるならさ」
「え……?」
「後悔する前にさ、やれる自由がある内にやるんだよ」
そう言ってくれるマリアだが守は少し考えてしまった。
何故なら両親に言われた事もまだ心に渦巻いているからである。
「でも勝手に自由にしたら他の人たちから何言われるか……」
ロックの根本を覆してしまうような事を言ってしまう。
自分が勝手にする事で周囲に迷惑がかかってしまう。
それにより両親などから酷く詰め寄られる事を想像してしまった。
『何勝手な事してるんだ! もう親子の縁を切る、出ていけ!』
そう言われてしまえば行く当てがない。
それを恐れた守に対してマリアはこう言う。
「結局君は孤独になるのが怖いんじゃない? でも自分を縛って来る人と一緒にいて楽しい?」
「それは……」
「思い切って旅に出てみるのも一つの手だと思うよ」
確かに守の気持ちを考えて言ってくれているマリアだがそれでもまだ守は揺れていた。
なので焦りから少しキツい言い方をしてしまう。
「そういうんじゃ無いんすよ……自由って本当は迷惑な事でっ、そんなこと求められてない……っ」
頭を軽く掻きながら思ってもない事を口走ってしまう。
するとマリアは少し寂しそうな目をして答えた。
「……そんなの生きてるって言える?」
その言葉を聞いた守はハッと気付かされる。
「あっ……えっと、すみませんっ」
自分が言ってしまった事に気付き守は逃げるように屋上から出て行った。
その様子をマリアは寂しそうに見つめていたのだった。
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その日の放課後、流石にマリアに言いすぎてしまったと思った守はマリアに謝ろうと考え彼女を探した。
「あ……!」
玄関の外で待っていると外へ出て来るマリアを見かける。
声を掛けようと校門の所まで追いかけるがそこである光景を目にしてしまった。
「ん、あんがと」
「はいよ」
なんとマリアが金髪のハーフらしい綺麗な顔立ちの少し年上の男と待ち合わせをしていたのだ。
その男はいかにも高級そうな車で迎えに来ておりマリアと会うや否や彼女の手を取り肩に手を置いた。
「……っ!」
その男を一瞬でマリアの年上彼氏だと認識してしまった守はショックを受けてしまい心が余計に荒んでしまった。
☆
そのまま学校から真っ直ぐ塾に行く時間となった守だが精神的な問題で全く行く気にならない。
塾に行くための電車に乗り最寄駅に着くが。
《森林公園〜》
車内のアナウンスでは到着した事が知らされる。
しかし守は降りる気分になれなかった。
そのまま扉は閉じられ電車は更に先に向かってしまう。
《まもなく札幌〜》
しばらくボーッと電車に揺られていると北海道の中心となる都会の札幌駅へ到着した。
流石の守もそこで一度降りる事を決意する。
「…………」
ボーッとしながら札幌の中心街を歩いている。
道には路上ミュージシャンなどもおり守に更なる劣等感を与える。
「(クソッ、何で俺ばっかり……)」
周囲には幸せそうに歩いているカップルや家族連れも多い、そのため今まさに不幸を全面に感じている守は孤独感を何倍にも増加させている。
そこでマリアの言葉を思い出す。
『孤独になるのが怖いんじゃない?』
まさに図星だった。
しかしそれでも認めたくない守の心情は負の意識を増加させて行く。
『……そんなの生きてるって言える?』
それでも更にそのような言葉が再生された。
まるで今の自分は生きていないかのよう。
「(あぁ、全部ぶっ壊してくれないかなぁ……)」
遂にはそんな事まで考えてしまう。
するとそれに呼応するかのように。
「グガァオオオオッ!」
守の足が繁華街すすきのに差し掛かった頃、突然戦いの真っ只中にある怪獣と巨人が落っこちて来た。
「うわぁぁっ⁈」
地面を転がりながら取っ組み合いの姿勢となる巨人と怪獣。
この場に4体目の怪獣が現れたのだった。
「クゥゥッ⁈」
巨人も怪獣を抑え込もうと必死になり馬乗りで何発も顔面を殴る。
しかしそこで怪獣はなんと拳から光の刃を出現させたのだった。
思い切り巨人を突き刺そうとするが巨人はギリギリの所で刃を手で掴み阻止する。
しかしその掴んだ手からは血液のようなものが流れていた。
「ギィガァッ!」
その隙に怪獣は巨人の腹部を蹴り上げ吹き飛ばした。
思い切り吹っ飛びビルを背に崩してしまう巨人。
「グフッ……」
何とか立ち上がる巨人は必死に追撃しようとボロボロになりながらも攻める。
両手に刃を二刀流のように構えた怪獣へ突っ込んでタックルする。
「ヴァアァァッ……!」
怪獣の腹部に頭を突っ込み押し出して行く。
その間も怪獣は二本の光の剣を巨人の背中から突き刺す。
痛がる巨人は口からも血反吐を出しそれでも怯まない。
「グゴォッ!」
そのまま怪獣を人気のない所に押し出しエネルギーを溜める。
そして輝く掌を怪獣の腹部に押し付けエネルギーを注ぐ。
そのまま怪獣は浄化されるようにこの場から消えた。
「グッ、カハッ……」
勝利したにも関わらず酷い傷の巨人。
守はその姿に圧倒されてしまっていた。
「……っ」
そこで急に思い出す。
スグルは巨人と怪獣の様子を撮影しバズった、その結果バンドのフォロワーも増えたと言う。
自分も撮影すればバズれるのではないか、そう思いスマホを取り出そうとポケットを弄った。
「あ……」
しかしカメラを構えてから思う。
結局バンドの事を諦められていないじゃないかと。
無意識に伸びるための行動をしてしまっている。
「(何やってんだ俺……)」
カメラを構えたまま固まっていると巨人がその体重を支えられなくなったのかふらつく。
「グアァァァ……」
そのまま守の目の前で仰向けになって倒れてしまう。
土煙がカメラを構える守を包み込むが次の瞬間、守は予想外の光景を目にする事となる。
「え……」
土煙が晴れた後、巨人の胸にあるコアがまるで卵が孵化するかのように割れたのだ。
そしてそこからこの世に生まれるように現れたのは。
「っはぁ……」
巨人の体液のようなものを浴びた全裸のマリアだった。
長い髪を靡かせ息を切らしている。
何故そこから彼女が現れたのか分からない、ただ今は守はその光景を美しいと思い圧倒されていた。
そして……
……その瞬間を守は無意識にカメラに収めてしまった。
つづく