「この度、春夏秋冬に新たに加入となりました小林夏之です! 何度か現場でご一緒させて頂いた方もおりますね。顔見知りがメンバーに居て安心しましたよ」
羽嶋春子、佐伯千秋、如月冬康、そして新メンバーの小林夏之。
この4人が今日から新たな春夏秋冬メンバーとして再スタートすることになるのだが……
「「「…………」」」
どんよりとした空気が空間を支配する。
夏之を除く全員が俯いてしまっている。その表情も沈んでいた。
「あの……小林さん。私達、貴方がメンバー入りするなんてお話初耳なのですが」
俯いたまま視線だけ夏之に向けて春子が言葉を発信する。
対して夏之は軽快に笑いながらその質問に対して返答した。
「あれ? 父から聞いていませんか? 夏樹君が抜けた穴を僕が埋めることになったことを」
「聞いておりません」
「——なら、今言うわ。俺の息子の夏之だ。今日から春夏秋冬に正式に加入となった。決定事項だ」
「「「……!!」」」
不意に扉が開き、夏之の父、小林忠文が入室してきた。
「メンバーの了承も得ずに勝手に決めてくれましたね」
「お前らの為だ。いつまでも夏が抜けたままの春夏秋冬じゃお前らも活動できんだろ? 近いうちに世間へもメンバー変更について発表する」
「……私はまだ納得しておりません」
「何言ってんだ? 夏樹を追い出したのはお前らじゃないか。不和によるメンバー脱退にみんな迷惑してるんだ。俺がその穴埋めをしてやったんだ。感謝しろとは言わんが、タレントの尻拭いは俺達裏方の仕事だ」
「「「…………」」」
「夏之が気に入らないというのならお前らが別の新メンバーを引っ張ってきてくれるのか? そういうわけにはいかんだろ。遊びじゃないんだ。ビジネスなんだよ。それに仮に別の誰かを引っ張ってきたとしてもどうせまた格差による嫉妬で夏樹の二の舞になるだけだ」
「「「……っ!」」」
「その点、夏之なら大丈夫だ。お前らに見劣りしない人気を持っている。格差による衝突だって起こさせない。安心してくれ。夏之ならむしろお前らを引っ張っていってくれる」
「やだなぁ父さん。僕はメンバーの中では新参だよ? まずは置いていかれないように精一杯付いていくまでさ!」
爽やかに謙虚な姿勢を見せつけてくる夏之。
忠文も苦笑しながらその様子を嬉しそうに眺めていた。
「「「…………」」」
ただ、既存メンバー達の表情は一向に明るくならない。
忠文は近くにいた春子の肩に手を置いて励ますように言葉を掛けた。
「大丈夫だ。今度の春夏秋冬は上手くいく。それにもう新ユニットへの新しい仕事も舞い込んでいるんだ。ライトノベル映画化作品『転生未遂から始まる恋色開花』。その声優オファーが4人の元へ舞い込んでいる。これは大きな飛躍になるぞ!」
「そ、その作品は翠くんが担当するはずだった……っ!」
「ああ、そうだ。でも残念ながら夏樹翠はもう居ない。だから代わりとしてお前たちを推したのさ。ちょっと渋い顔されたが、条件次第では4人全員声優として採用してくれるとのことだ。良かったな」
「条件次第……?」
「ああ。簡単な接待だ。監督が春子の大ファンらしくてな、ちょっとお会いさせてもらえれば快くオファーを引き受けてくれるそうだ」
「……わかりました」
「ほぉ。渋るかと思ったが案外素直に応じてくれるんだな」
「いきなりお会いするのも先方に失礼かと思いますので、まずはお電話で。相手の監督さんとお話をさせてください」
「ああ。分かった。先方へ連絡しておこう」
にやりと口元で笑みを浮かべ、忠文は嬉々としながら控室から出ていった。
「今日の所はこれで解散しよう。みんなに新メンバーとして認められるよう頑張るから見ていてくれ」
夏之も忠文を追うように退出する。
残されたのは春子、千秋、冬彦の3人だけ。
小林親子が出ていったことを念入りに確認すると、3人は張りつめていたものを放出させるように椅子に深く腰を掛けて脱力する。
「ふぅ~。アレがあのおっさんの本性なんだね」
忠文が出ていった先を睨むように冬彦がポツリと声を漏らす。
「下劣。あんなに堂々と裏接待を持ち掛けてくるなんて性根から腐っているようね」
続くように千秋も悪態を漏らしていた。
そして他の二人も不敵に微笑みながら黒い表情で返した。
「しっかし、昨日翠が話してくれた通りの展開になったな」
「ええ。おかげで反撃の狼煙を上げられそうだわ」