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第46話 配信回Ⅱー① 春夏秋冬 (七色みどり)

「今宵も貴方に七色の響きを。七色みどりの配信が始まるぜ」



  『ま~た前口上変えとるw』

  『なかなか定着しないな配信挨拶』

  『今回のもなんかみどりニキっぽくないんだよなぁ』

  『うーん 20点!』



「みんなの採点がいつも低いから毎回変えているんだけど!?」



  『七色みどりは七色みどりのことをもっと良く知るべき』

  『何が駄目だったのか次までに考えてきてください』



「俺の先生かキミらは!」



 さっそくリスナーに弄られっぱなしのみどり。

 でもおかげで最初の頃と比べてリスナーとの距離が近くなっていた。



 ささやきささえ『もっと甘えるような感じの挨拶にしようよ』



「キミの中で俺は甘えん坊キャラだったの!?」



 VTuberレイン『もっと虐めるような感じの挨拶にしましょう 俺の美声でイカせてやるぜ的な』



「それだけは絶対にしないからな!?」



 ささえやレインがコメントに混ざって配信を盛り上げてくれるのも定番の流れ。

 特にレインは配信前チャットにすら姿を現し、始まる前からチャット欄を盛り上げてくれている。

 非常にありがたい存在であった。



「配信挨拶はまた次回までに考えてくるとして……今日のアジェンダだけど、やりたいことは一つだけ。みんなに俺の話を聞いてほしいんだ」


 突然声色に緊張感が増し、いつもと違うみどりの様子にコメント欄がざわつき始める。



  『お?』

  『なになに?』



「まず……俺の過去に……ついて」


 夏川翠斗という人物は謎が多かった。

 明かされている情報といえば元声優であること、天の川レインの作品に声を充てたことがあること、とある声優ユニットに所属していたということくらいだった。



  『みどりニキが自分語りするなんて珍しいな』

  『ワクテカ』

  『雰囲気から察するに結構重めな感じ?』



「そう……だね。過去についての話は楽しいものじゃないと思う」



  『真剣に聞くよ みどりさん』

  『心してお聞きいたしますわ!!』



 ささえとレインも茶化すことなく真剣になってくれている。

 ささえはどうして声優から追放されたのかずっと気になっていた。

 レインは春夏秋冬で何があったのかずっと気になっていた。

 二人がずっと知りたかった翠斗の過去が今明かされる。







 それは9ヶ月前の出来事だった。

 大人気若手声優ユニット春夏秋冬の絶頂期とも言える時期にその事件は起きた。


「企画……ですか?」


 夏樹翠を除く春夏秋冬のメンバーが秘密裏に呼び出され、会議が開かれる。


「ああ。今回の企画は夏樹翠くんにスポットを当てた大型企画だ」


 そう持ち出してきたのは怪しげなサングラスを光らす怪しげなディレクター。

 名を小林といい、何度かユニット企画でお世話になったことのある人だった。


「翠くんメイン!! いいですね!」


 身を乗り出して喜びを露わにさせたのは春夏秋冬の中で最も人気のある女性声優、羽嶋春子はしまはるこだった。

 春子は常々思っていた。

 実力があるのになぜか人気の出ない翠を何とかしてあげたい。自分たちに力になれることは何かないのか、と。

 そんな中舞い込んできた夏樹翠メインの企画書。

 思わず喜びの感情があふれ出てしまった。

 それは他二人も同じのようで興味深そうに耳を傾ける。


「題して『天国か地獄か! 夏樹翠の運命は如何に!』」


 一昔前のテレビみたいな表題に3人は首を傾ける。


「夏樹翠は現状キミ達の足を引っ張っているだろう?」


「そ、そんなことはありません! いきなりなんて失礼なことを言うのですか!!」


 春子の感情は瞬時に怒りへと変容し、ディレクターの顔を思いきりにらみつける。

 それは佐伯千秋さえきちあき如月冬康きさらぎふゆやすの二人も同様だった。


「まぁ、聞いてくれ。何も彼を陥れようとしているわけじゃない。むしろ俺は彼に救いの手を差し伸べてやろうとしているんだ」


「救いの手?」


「彼の人気がない理由は声優ファン達が彼のことを知らなすぎるからだと思うんだ。だからまず彼のことを知ってもらう為に私自らインタビューを行おうと思う。その様子をこっそり録画し、YouTubeにメンバーシップ公開をする」


 翠のことを知ってもらう。

 それについて春子達三人に反対する理由はない。

 真面目で誠実な彼を知ってもらうだけで、きっとファンも増えてくれるはずだ。


「翠の魅力を皆に知ってもらえるチャンスだね」


「そうね。この企画をきっかけに彼の飛躍になれば嬉しいわ」


 冬康と千秋も肯定的に賛同してくれる。

 しかし、その直後、二人の表情は凍り付くことになる。


「だが、彼がどんな本性を隠しているか正直分からない。現状を不満に思っていることは確かだと思うし、キミらに対する醜い嫉妬の感情を露わにしてくるかもしれない」


「翠くんはそんなこと言いません!!」


 春夏秋冬の4人は互いを深くまで知る仲だ。

 故に夏樹翠がそんな人間でないことをメンバー達は知っている。

 翠のことをまるで侮辱するような物言いをするディレクターに3人のフラストレーションは徐々に溜まっていった。


「ひゅう。絆を感じるねぇ。じゃあその絆、ちょっと試させてもらおうと思う」


「「「えっ?」」」


「この企画はキミ達には予め2つの選択権が与えられている。最初に言っただろう? 天国か地獄かって」


「ど、どういう意味?」


 机の上に、大きめな札が置かれる。

 「残留」と書かれたプレートと「追放」と書かれたプレートだ。


「今回の企画は今後も夏樹翠を春夏秋冬に置いてやるか、それとも出て行ってもらうか。それを取り決める企画でもあるのだよ」


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