「仕事で疲れたお兄ちゃん達♪ 今日もVTuberみどりのボイスに癒されてよね」
『!?』
『ファッ!?』
『みどりニキwwwいやみどりネキwwww』
『初配信の開口一番それでいいのかおまえ』
「いや、初回配信だからインパクト大事かなと思ってロリ声で釣ってみたんだ」
『釣られたけどもw』
『インパクトはあったな』
『初配信で博打に出るみどりニキすこ』
「それよりもみんな自分の初配信に来てくれてありがとう。ささメンや雨宿り隊が多い感じかな?」
『ノ雨宿り隊』
『ノ雨宿り隊』
『ノささめん』
『ノ雨宿り隊』
『ノみどりニキのファン』
「おぉ。自分のファンもいるのか。素直に嬉しいな。あっ、素直に嬉しいよお兄ちゃん♪」
『媚びんでいい媚びんでいい』
『お願いだから誠実キャラで行って』
『みどりニキは好きだけどみどりニキのロリ声は嫌い』
「マジか!?」
男性VTuberということでみどりのファンは女性比率がやや高い。
なのでロリ声釣りは全くの意味を成しておらず、むしろ不評だった。
『わたくしはみどり様のロリ声大好物ですわ!!!』
『↑レ黙』
『↑レ黙』
『↑レ黙』
『↑レ黙って何?』
『↑コメントのレイン空気読んで黙っての略』
「あはは。ありがとうレインさん。あと来てくれて嬉しいよ」
ささやきささえ
『私もいるんだけど みどりさん私にもなんかコメント頂戴』
「う、うん。ささえさんも来てくれてありがとう。ささえさんがコメント欄にいてくれると安心する。心強いよ」
ささやきささえ
『今の言葉をショタ声でお願いしていい?』
「実はショタ好きかキミ!?」
ちゃんとささえの要望通りショタ声でツッコミを返す翠斗。
『ショタ声ええやん』
『みどりニキのショタ声初めてきいた』
『みどりニキのショタ声胎教にいいわ』
『一生ショタ声でしゃべって』
「こんなに自分のショタ声に需要があるなんて俺もビックリだよ」
小声で『ロリの方が得意なんだけどなぁ』と呟き、それが配信マイクに入ってしまい、コメント欄は草で埋まり尽くされていた。
「さて、実は皆にお知らせがあって枠を取ったんだ。聞いてほしい」
めでたいことがあった。
その喜びを他の人にも伝えたくて仕方なかった。
「実は……自分、Vクリエイトのオーディションに合格しました!!」
『うぉぉぉぉ!』
『マジんこ?』
『さすがみどりニキやで』
『俺のみどりニキはやる男だと信じてた』
『てことはみどりニキ企業勢としてデビューするのか』
『ささえとレインも一緒に受けたんやろ? 二人はどうやったんや?』
「もちろん二人も受かったよ。自分が受かって二人が落ちるわけないって」
『いやみどりニキは自分を過小評価しすぎだから』
『お前はすごいんやから自信持てって』
『あっ、ささえ&レインもおめ』
『でもみどりニキ今日が初配信やろ? 収益化されてない状態でもオーディションって受かるもんなんか?』
「オーディション後にデビューするVもいるらしいよ。それと誤解を与えないうちに言っておくけど、自分達はまだ内定をもらっただけで、実際にVクリエイトのタレントになるのはもうちょっと先って話なんだ」
オーディションに受かったからといって、じゃあ明日から来てください、と言われるわけではない。
タレント登録されるために様々な手続きが存在する。
それにリスナーの言う通り、翠斗は配信を始めたばかりなので収益化されていない。
翠斗はまずそこを目指さなければならない。
もちろん会社側もVTuberみどりの収益化条件を満たすために色々とバックアップはしてくれるという。
「だから一先ずは地道に配信を続けて行って登録者数を頑張って増やしていこうと思っている。だ、だから、えと、その……」
『わかっとる』
『もうチャンネル登録ボタン押したぜ』
『遠慮せずに「チャンネル登録お願いします」っていっていいんやで』
『俺らで出来ることはなんでも協力するから』
配信に集中して気づかなかったが、すでにチャンネル登録者数が100を超えていた。
初配信でこの数字かかなりのものである。
ささメンと雨宿り隊からの支援ブーストがほとんどだが、たまたまみどりの初配信を見かけてここまで見てくれた初見もいるのかもしれない。
リスナーの暖かさに涙が出そうになりながら、翠斗はありったけの感謝の込めて皆にお礼の言葉を贈る。
「お姉さん達、本当にありがとう。僕様嬉しいよ。バブバブ」
『ショタ声ww』
『僕様wwwww』
『みどりニキのショタキャラはなんかおかしい』
「バ、バブバブってもう一回言ってくださいましぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』
『↑レ黙』
『「お姉さん』の部分を「お姉ちゃん」に直して、もう一回言って」
『↑ささえも黙ろうね?』
『↑さ黙』
「話は変わるけど、今日は皆さんに相談があるんだ」
ここからが本題。
翠斗は初配信をただの雑談だけで終わらせるつもりはない。
今後に関わる大きな決定をリスナーと共に行う為に枠を取った。
「自分の……『苗字』を決めていきたいと思う」
『みどり』だけでも悪くないとは思うが、少しインパクトに欠けているなと翠斗は思っていた。
自分にピタっとハマる苗字が欲しい。それをリスナーと一緒に決めていけたら素敵だなと思っていた。
『みどりニキの苗字か~』
『「みどり」を苗字にして『ニキ』を名前にしたら?ww』
「絶対やだよ!?」
『仕方ありませんわね。ワタクシと一緒に「天の川」姓を名乗りましょう』
「なんで!?」
『逆にみどりニキはなんか候補ないの?』
「お? それ聞いちゃう? 実はあるんだ。伊集院!! 伊集院みどりってどうかな!?」
『いwwwわwwwかwwwんんんwwww』
『全然しっくりこん』
『なんで伊集院なん?』
「いや、日本一格好良い苗字じゃん伊集院」
『そ、そうか?』
『みどりニキの美的センスがよーわからん』
『とりあえず伊集院はやめとけ。お前にその苗字はまだ早い』
「だめかぁ……」
『心底残念そう』
『お前本当に伊集院でいくつもりだったろw』
『俺らで止めてあげられてよかった……』
『みどりニキにしっくりくる苗字なんかないか?』
翠斗もリスナーと一体になって自分の苗字を考える。
苗字決めは翠斗の今後のタレント活動にも大きく影響する。
だからこそ皆慎重になり、中々案が出てこない。
頭を悩ませて放送も若干無言の時間が続く。
そんな沈黙を切り裂いてきたのはささえの一言だった。
ささやきささえ
『なないろ』
「えっ?」
ささやきささえ
『七色みどり ってどうかな?」
「なないろ……!」
『ええんちゃうか?』
『七色ボイスのみどりニキに合ってる』
『語感もいいな』
『あのささえがまともな案を出せるなんて……!』
『↑どういう意味だこら 転載ささえちゃん舐めるんじゃないゾ』
『↑ささえちゃん書き間違えしてるよ』
『読み間違えだけじゃなくて書き間違えもするのかお前w』
「七色……か……気に入った! これにしよう!」
『おk』
『七色みどりの誕生じゃ~!』
『七色ニキ 何か一言!』
「皆のおかげでしっくりくる名前が決まりました。本当にありがとう。今後も七色=伊集院=みどりをどうかよろしくお願い致します!」
『伊集院www』
『ミドルネームみたいにいうな』
『伊集院を諦めきれてなくて草』
今この瞬間、新たなVTuberが誕生した。
Vクリエイト所属VTuber七色みどり。
まだ始まったばかり、ガワもまだ持っていない。
だけどみんなで苗字を決めるだけでも素直に楽しいと思えたし、苗字が決まったことでやる気が湧いてくる。
これこそが配信の醍醐味なのかもしれない。
正直、先行き不透明なVTuberとしての活動。
でもきっとその未来では声の仕事にたどり着けると信じて。
壁に穴の開いた奇妙な一室の片隅でVTuber七色みどりは今日も配信活動を行っていくのであった。