「みどりさんはね。高いシャンプー使っていていつもいい匂いがしているんだよ!」
「みどり様は大きなイベントで完璧な司会をこなして運営の方から尊敬されたことがあるのですのよ!」
「みどりさんはささえが二日酔いで倒れた日、30分置きくらいに様子を見に来てくれたんだよ!」
「みどり様は作品の声を担当する時、必ず原作を購入して何十回も読み込んでくれるほど努力家ですのよ!」
ささえとレインの『みどりを褒め合う回』はターン制で白熱バトルを繰り広げていた。
二人は完全にヒートアップしている。
翠斗が感想を挟む間もなく、マシンガントークが炸裂していた。
「(ぴく……ぴく……)」
二人に褒められる度に一番ダメージが入っていっているのは間違いなく翠斗だ。
喜びと照れくささがピークに達し、その場に突っ伏しながら絶頂したみたいに四肢が揺れていた。
『みどりニキが愛され過ぎな件』
『ささえは私生活を誉めて、レインは声優時代のみどりニキを誉めまくっているな』
『すっごい勢いでみどりニキの人物像がインプットされていくわ』
『ていうかみどりニキ生きてるー?』
『完全に沈黙しちゃったな』
『そりゃあこんなに自分のことを誉められたら声も出なくなるわ』
リスナー達も半ば呆れながら二人の言い合いを楽しんでいた。
だが、言い合いをしている二人は今が配信中だってことも忘れてエスカレートしていった。
「みどりさんはささえと一緒のベッドで寝ている時、何度も布団を優しく掛け直してくれるんだもん! 腕を抱き枕にしても怒らないんだもん!!」
『ファッ!?』
『なんか物凄い暴露がされたんですが』
『だから画面外でてぇてぇするのは辞めろとなんどいったら……』
「みどり様はワタクシが不意打ちキスしても許してくれるような優しい人なのです! 柔らかい唇の感触は今でも忘れられませんわ!」
『ファ――――――っ!?』
『しゅらば! しゅらば!』
『レインとみどりニキ、プライベートでも会っているのか』
『ささ×みど派のわい死亡』
「おいこらみどり!? 唇でレインさんとキスしたの!? ほっぺなら許される可能性あったけど唇は極刑じゃすまないからね!?」
「みどり様!? ささえちゃんと同じベッドで寝たってどういうことですの!? ま、まさか、淫らな行為とかやっておりませんわよね!?」
「どうなの!?」
「どうなんですの!?」
急に銃口が翠斗の方を向き、慌てて姿勢を立て直した。
なんかどうコメントしても怒られる運命しかない気がするけど、一応弁明を立てる。
みどり『一緒に寝た件ですが、まず自分はささえさんには手を出したりなんてしていません。それは誓います』
「出せ!」
「出せ!?」
『出せwww』
『手を出して欲しそうだぞw』
みどり「んと……レインさんとの……き、キスの件は……んと……」
こちらは弁明も何も事実なので言葉が上手く出てこない。
「舌入れたの!?」
みどり『入れてないよ!?』
「次は舌を入れてくれると約束してくれましたわ」
みどり『息をするように嘘を吐くのやめてくれないかな!?』
「むぅぅぅ~~~~!!!」
急にささえの声が遠ざかっていく。
バタバタバタと足音のような音声と共に消えていった。。
そして——
「……すいとさん」
「……!?」
小声でささやく、ささえの声。
まさか生配信中にこっちにくるとは思っておらず、翠斗は飛び跳ねるように驚きながら振り返っていた。
振り返った翠斗の瞳にはささえの顔がドアップで映し出されている。
チュッ
「~~~~っっ!?!?」
次の瞬間にはささえの唇が翠斗の唇に当てられていた。
「な、ななななななな!?」
何が起こっているのか分からない翠斗は目を回しながら狼狽する。
対してささえは照れくさそうにはにかむとウインクをしながら壁穴へ走っていった。
「にひひ」
無邪気に笑うささえの顔はとても晴れやかで、そして真っ赤になっていた。
そして数秒の後、再び放送画面にささえの声が戻って来た。
「ただいま~」
『おかえり』
『急に消えるからびっくりしたわ』
『みどりニキを刺しにいったのかと思ったわw』
「ごめんごめん。ちょっと『食事』してきただけだよ。にゅふふ。ごちそうさまでした」
『生配信中に飯食うな』
『しかもコラボ配信中に』
『ていうか超早食いだな』
『何食ったん?』
「んー、1秒チャージ系?」
『よーわからんw』
『お腹空いたなら配信が終わった後に食べなさい』
「んふ。放送終わったら10秒チャージしちゃおっかな」
ささえの言っている意味がよく分からず、レインとリスナー達はクエスチョンマークを浮かべていた。
しかし、翠斗だけはその真意が理解でき、唇を抑えながら頭から湯気を出し続けているのであった。