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第36話 配信コラボⅤー② ダブルアタック (ささやきささえ×天の川レイン)

「それでレインさんはみどりさんのどこに惚れたの? やっぱり声?」


 いきなりぶっこんだ質問を繰り出すささえ。

 天の川レインは照れくさそうに揺れながらボソッと答えを返す。


「きっかけは……確かに声でしたわ。私の小説に声を当ててくれた特別な人。でもみどり様の魅力はそれだけではないですの。みどり様が元プロの声優さんであることはここに来てくれている方ならご存じかと思いますが、みどり様って本当に凄いんですのよ。声の吹込みだけじゃなくて歌もダンスも司会業も。私が見る限り、有名声優さんにも後れを取らない実力者なのです」


「~~~~っ!」


 ストレートに褒められ、ボッと赤面する翠斗。

 声優時代、ファンにここまではっきり褒められたことなどなかったので照れくささが顔面を紅潮させていた。



  『みどりニキ 歌やダンスもできんの?』

  『今の声優ならそれが当たり前やで』

  『女性声優はそんなイメージあるけど、男もそうなんや』

  『ささえもダンスとかできるの?』



「……な、な~るほど。声優としてのみどりさんのファンになっている内にガチ恋になっちゃったんだね」



  『話反らしたな』

  『ささえ、ダンスは駄目なのか』

  『ささえは声の良さ一点突破な感じあるわ ダンス無理でもしゃーない』

  『大丈夫? 企業勢Vになったら歌や振り付けがあるかもしれんのやぞ?』



「こ、これからレッスン積むから大丈夫なの! それよりも今はレインさんとみどりさんの話! ほら、壁穴も向こうで悶えているそこの男! レインさんの言葉に反応を返さんかい!」



 みどり『えと……そんな風に思ってもらえて光栄です。音声化されたあの作品、本当に大好きで、絶対この役だけは自分が勝ち取りたいって気持ち一心でオーディション受けたんですよ。あの作品を演じてから俺の声優人生に彩りが生まれた気がします。素敵な作品を生み出してくれて本当にありがとうレインさん』


「ふぇっ!?」



  『長い長いww』

  『レイン聞いたことないような驚き声あげたな』

  『絶対顔真っ赤だろ』

  『そういうところだぞみどりニキ』



「み、みどり様。ありがとうございます。プロポーズのお言葉、喜んでお受け致します」



  みどり「自分がいつキミにプロポーズしたよ!?」



「レイン、キミは本当に素敵すぎて大好きになったんですよって言いましたよね!?」


  みどり『「作品が」大好きって言ったんだよ!?』



  『草』

  『いっそもう付き合っちまえよ。音声化原作者とその担当声優って運命の人レベルだろ』



「さ、ささえだって、穴の開いた部屋の隣人だもん。運命レベルならささえの方が高いもん」



  『おやおや~?』

  『嫉妬?』

  『急に対抗してきたな』

  『三角関係勃発や』



「でも私の方がみどり様の良い所知っていますわ」


「そんなことないもん。ささえの方がみどりさんに詳しいもん」


「じゃあ言ってみてくださいませ。みどり様の良い所」


 せっかくの配信コラボなのに言い争いみたいな雰囲気になっている。

 それは正に一人の男を取り合う図だった。

 ぶっちゃけただの女子会なのかもしれない。

 でもその光景こそリスナーが求めていたものだったりする。


「みどりさんはお料理がすっごく上手なんだよ。昨日食べた煮物本当に美味しかったな。一昨日食べたオムライスもタマゴふわっふわで美味でござんした。あっ、3日前に食べたペペロンチーノなんてさいっこうだったなぁ」


「ちょ、ちょっと待ってください! ささえちゃん、もしかして毎日みどりさんの手料理を食べておりますの!?」


「うっへっへ。ささえの勝ちかな?」


「ま、まだ引き分けですわ! 次は私のターンですわね! みどり様が所属する声優ユニットのファンイベントの時、物販の直売りイベントがあったのですが、推しのグッズが目の前で売り切れてその場で泣き出した小さな女の子がおりましたの。メンバーの方々が申し訳なさそうにオロオロしている中、みどり様がその子に近づいて頭を撫でて泣き止ませようとしてくれましたの」


 声優ユニット春夏秋冬。

 人気が出始めた時に行ったグッズ類の直売りイベント。

 もう随分前の出来事で翠斗は懐かしさを覚える。


「むぐぐ! いいエピソード持っているな。それはキュンとくるね」



  『みどりニキ子供にも優しいのか』

  『好感度上げてきやがるな』

  『みどりニキ推しになりそう……あっ、もう推しだったわ』

  『そのエピソードもっとkwsk』



「え、えと、みどり様? 顛末までお話してもよろしいでしょうか?」



 みどり『いいよ。オチまで話して皆を落胆させてやりな』



 その一言にささえを含めて皆一様に小首を傾げる。


「その、推しのグッズが売り切れて泣き出した女の子に対してみどり様はご自身のグッズを無料でプレゼントしようとしましたの。でも、その……」


 レインがちょっと言いにくそうにしているので翠斗がチャットで補足を入れる。



 みどり『その女の子が更に大泣きしてしまってさ。自分も女の子の気持ちをもっと理解してあげるべきだったよ。推し以外のグッズもらっても微妙だからね』



  『あらら』

  『かわいそう』

  『おにゃのこに悪気はないんだろうけどさ』

  『元気出せみどりニキ』



 リスナーは翠斗に同情して優しい言葉を掛けてくれる。

 ささえはなんて言葉を掛ければよいのかわからなかった。

 しかし、このエピソードはこれで終わりではない。

 このエピソードはレインがみどりの好きな所を語る話だ。

 その話には続きがあった。



「でも女の子は無事に目当てのグッズをゲットすることができましたの。なぜだと思います? レインは見ておりました。みどり様がスタッフの方に頭を下げて展示用の見本を譲ってあげることができないか頼み込んでおりましたのを」



  『やだ 素敵』

  『やるやん』

  『こんなん一生の思い出じゃん 女の子良かったな』

  『結構いい話で泣きそう おじさん涙腺弱いんよ』



「その時、改めて誓いましたわ。私はこの方を一生推そうって。元々推しではありましたがその気持ちに恋心が混ざり始めたのはその出来事がキッカケだったのかもしれませんわね」



  『これは惚れる』

  『俺も惚れた』

  『ささえ、ライバルは手ごわいぞ がんばえー』



 照れくさそうに話してくれたレイン。

 ささえやリスナー達もみどりの新たな一面を知れて心を温かくしている。

 レインは間違いなくこの出来事を美談として語ってくれたのだろう。

 そして恐らくレインが知っているのも『ここまで』なんだなと翠斗は察した。



 このエピソードはこれで終わりではない——



 このエピソードの結末を知っているのは自分だけなんだなと思いながら翠斗は昔の記憶を呼び起こしていた。


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