「へぇ。レインさんとコラボするんだ」
「えへへ。そうなんだ。二日酔いになった日に仲良くなっちゃった」
いつものように夕食を共にしながらの雑談。
話題は自然とささえとレインのコラボの話になった。
「どんな配信内容にする予定なの?」
「にへへ。翠斗さんには秘密だよ。絶対コラボ配信見てね」
「もちろん」
「あと……覚悟しててね」
「覚悟!?」
「にへへへへ」
「なんなの!?」
ピロン
ささえとの朝食中、翠斗のスマホが鳴った。
最近チャットする相手と言えば一人しかいなかった。
麗
『翠様おはようございます
もしかしたらもう聞いたかもしれませんが、
今度ささえちゃんと配信コラボすることになりました
絶対に見に来てくださいね
絶対の絶対お願いしますわ!』
翠斗
『もちろん見に行くよ
二人のコラボなんて普通に楽しみだ
絶対面白いんだろうなぁ』
麗
『当然ですわ!
あと……
当日は覚悟してくださいね』
翠斗
『ささえさんも言っていたけど覚悟って何!?
なんで俺が覚悟を決めないといけないの!?』
翠斗が狼狽すると、レインは可愛いスタンプで『ヒミツ』とだけ送ってきていた。
視線を上げるとささえもニヤケ顔を翠斗に向けてきている。
一体どんなコラボ内容なのか。
楽しみなような不安なようなそんな日々を過ごす羽目になる翠斗であった。
ついにコラボ当日がやってきた。
翠斗は自室でイヤホンをしながら放送開始を待っている。
ちなみにささえもレインもそれぞれ自室から配信を行うらしい。
一緒の部屋でコラボ配信をするわけではないらしい。
「(って、それが当たり前か)」
VTuberコラボは遠隔同士の配信が普通だ。
翠斗みたいに直接会って同じ部屋でコラボする方が稀である。
生放送が開始される数分前。
すでに待機中のリスナーは配信前チャットで盛り上がっていた。
『ささえとレインのコラボなんて絶対面白いだろ』
『ていうかこの二人知り合いだったんだ』
『ささえ側の放送ではレインの暴走チャットが名物みたいになっている』
『ささえ最近コラボ多いよな』
『みどりニキはいないのか ちょっと残念だ』
自分の話題を出され、翠斗はちょっと悩んだ末、リスナーと同じようにコメントを打ってみた。
みどり『いるよ^^』
何気に初カキコの翠斗。
偽物と思われたりしないか少し不安がっていたが……
『みどりニキ!』
『ニキ 普通にコメントで居るんだな』
『みどりニキも今日はリスナーなんだ』
『ニキがこっちに居るのなんか新鮮だわ』
『「^^」がいかにもみどりニキって感じするわ』
「どうせなら3人でコラボすればいいのに』
みどり『今日はリスナーとしてコラボを楽しむよ。配信の邪魔にならない程度にコメントもしようかな』
『おk』
『おk』
『自重せずにコメントで二人を掻きまわしてくれ』
「(こうやってリスナーと交流するのも楽しいな)」
ささメンもレインのリスナーも基本暖かで優しい。
アンチっぽい人が全く居ないのは素直にすごい。
「(自分もVTuberとしてデビューしたら、こんな暖かいリスナーに支えてもらいたいな)」
もしVクリエイトのオーディションに合格したら翠斗もVTuberになる。
先行き不安さはあるけれど、翠斗にはお手本となる先輩Vが二人もいる。
尊敬する二人のコラボ配信開始をワクワクしながら待つ。
そして21時ピッタリになると、いつものオープニング動画が流れ出した。
お決まりの口上で放送開始を告げられる。
「貴方に癒しを届けたい。今日も
ささえ放送の口上をレインが言っている。
リスナーにはそれがちょっとしたサプライズとなったようで早くもコメント欄は盛り上がりを見せていた。
「レインお姉ちゃんなんかちょっと艶っぽく言ったね。なんかささえよりアダルティな感じがして嫉妬なんだけど」
「うふふ。普段えちちな朗読を行っていますのでアダルティな声を出すことになれているのですわ」
『お姉ちゃん!?』
『いつのまに姉妹になった』
『お前のえちち朗読はただの妄想夢小説だろうが』
『※ささえはもっとえちちなASMRを普段配信しています』
『すげー 推し二人が一緒にいるよ なんか感動』
画面が華やかだ。
配信画面に二人のアバターが左右に分かれて配置されている。
赤髪サイドテール美少女ささやきささえと金髪ストレートロングの美女天の川レイン。
ソロ配信では絶対に見ることのできない何とも言えない豪華感。
これこそがVTuberコラボの神髄なのだ。
「今日はささえとレインさんのコラボ配信にきてくれてありがとうね。レインさんとは初コラボでちょっと緊張しているから、ささえがへましないように応援してね!」
みどり『よっ! 日本一!』
『よwwww 日本一wwwww』
『みどりニキwww』
『お前は歌舞伎でも見に来ているのか』
『お前の応援の仕方はなんかおかしい』
「ありがと、みどりさん! えへへ。コラボ放送なのにみどりさんが隣に居ないってなんか変な感じ」
「みどり様なら今レインの隣で寝ていますわ」
「おいこらみどり絶対に許さねえからな」
みどり『レインさん!? 秒でバレる嘘つかないで!? そしてささえさんも騙されんな!』
「では嘘を誠にしましょう。配信終わったらみどり様の部屋にお邪魔しますわね。服を脱いでお待ちくださいませ。素敵な夜に……しましょうね……はぁはぁ……」
「何をおっぱじめる気だお姉ちゃん。隣の部屋で行われる営みは全部ささえに聞こえるからな!?」
『まーたラブコメやってるよ もっとやれ』
『みどレイてぇてぇ?』
『いやこの場合はみどささてぇてぇだ』
『野生のラブコメ主人公みどりニキ』
ラブコメしていると言われ、翠斗は気恥ずかしくなって頬を赤くしながら俯いた。
これ以上自分の話題で盛り上がられると動悸が大変なことになりそうな予感がしたので翠斗はコメントを自重することに決めた。
だけど、その決意は瞬時に打ち砕かれることになる。
「オープニングトークはこれくらいにして、早速今日のアジェンダを紹介しようか。レインさんよろしく!」
「ええ! 今日やりたいことはただ一つ! このコーナー!」
画面がパッと切り替わる。
それはいつもレイン放送で使われている背景だった。
やたらピンク色が目立つヘッダ。
レイン放送の『あるコーナー』が行われるときに用いられる妖艶な雰囲気の画面。
「とどけ! レインとささえの想い! 今日のみどり様~!」
「いえ~い!」
みどり『コラボでこれやるの!?』
「おっ、さっそくツッコミありがとう。んふふふ。今日は二人でみどりさんの好きな所を永遠と語りまくるコラボなのでした~!」
「みどり様を悶え死させることが目的ですので、覚悟してくださいね?」
みどり『コラボで自分を殺しにくるとは思わなかったよ!!』
「あっ、ちなみにみどりさんは黙秘禁止ね? 私達これからみどりさんの好きな所を順番に発表するから、それに対してちゃんと感想を返すこと。これ命令だから。拒否権はなしだよ」
みどり『リスナーに拒否権を与えない放送ってなんなの!?』
『草』
『絶対おもろいやんこんなの』
『すでに面白い』
『つまりは二人でみどりニキをいじめるコラボなのか 最高だぜ』
『みどりニキ 絶対すでに真っ赤になっているだろ』
みどり『い、いや、そんなことはないけど』
「みどりさん耳まで真っ赤にしながらすでにふにゃふにゃになっている模様です」
「穴からカンニングするなー!!」
翠斗の叫びは配信画面を通してリスナーにも届いたらしく、コメント欄は『草』で埋め尽くされてしまうのであった。