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第34話 ライバルだけど姉妹

 ささえの誕生日記念放送の翌日。

 ささえは苦しそうにベッドの中で呻きをもらしていた。


「頭痛いよぉ……気持ち悪いよぉ……すいとさぁん……」


「はいはい。居るよ。絶対こうなっていると思った」


 酎ハイ、日本酒、ウイスキー。

 初飲みでそんなものを飲んでしまえば二日酔いになってしまうのは必然。

 翠斗はそこまで見計らって予めアイテムを準備していた。


「ほいよ。ブドウ糖成分多めのラムネ。気休めかもしれないけどちょっとは気分良くなるから」


「あーん……」


「……ほら」


 大きく開けられた口の中にラムネを一粒放り込む。


「美味しい……でも……頭痛い……」


「これは頭痛薬も飲んだ方がいいな。ささえさん持ってる?」


「ない」


「俺も持ってないな。ちょっと待ってて。レインさんに聞いてみるから」


 翠斗はレインにチャットする。

 レインからはすぐに返信があり、常備している頭痛薬をすぐに持ってきてくれることになった。

 こういうときに隣人の存在ってありがたいなと思いつつ、翠斗はスマホをしまう。


「…………」


 なぜか恨めしそうに睨みつけてくるささえと目が合った。


「ど、どうしたの?」


「レインさんの連絡先知ってるんだ」


「う、うん」


「レインさんの連絡先知ってるんだ」


「なんで2回言ったの!?」


 ささえはゆっくりと上体を起こし、手を伸ばして自分のスマホを引き寄せた。

 そのまま「んっ」と言いながらスマホを翠斗に突き出す。


「えっと?」


「ささえとも連絡先交換するの!」


「あっ、うん。でもささえさんとはスマホを使わず簡単に連絡取れるような……?」


「嫌なの!?」


「嫌じゃないよ!?」


 なぜか少し怒鳴られながら翠斗とささえはメッセージアプリのIDを交換した。


「サエ……?」


 見慣れない名前表記に小首を傾げる翠斗。


「あっ、そっか。まだ言ってなかったっけ。私の本名だよ。カタカナで『サエ』。変わってるでしょ」


「そんなことないよ。可愛い名前だと思う」


「~~っ!?」


 目を見開いて少し視線を逸らしてしまうサエ。

 小さな声で『またそういうこと言う……』とボソッと漏らした声が翠斗に届いたのかは不明。


「これからはサエさんって呼んだ方がいい?」


「呼び捨てにしてくれるならサエでもいいよ」


「……今まで通りでいくね、ささえさん」


「女の子を呼び捨てにすると死ぬ病気なのかお前!?」


 叫んでから頭がジンジンと痛くなり、自分が二日酔いだったことを思い出すささえ。

 『うぅ~』と呻きを漏らしながら大人しく横になる。


「ちょっと寝てなささえさん。二日酔いでも食べられそうなもの作ってきてあげるから」


「……うん」


 軽く頭をポンポンと叩く翠斗。

 その行動で再び熱が上がってしまったことをこの男が気付くわけがなかったのである。







 どのくらい眠っただろうか。

 すぐ近くに人の気配があるのを感じた。

 そういえば翠斗が何か作ってきてくれると言っていた。

 とはいえ起き上がるのは少しつらい。

 ささえはこの機を使って思いっきり甘えてみることにした。


「すいとさん~、たべさせて~、あ~~ん」


「はい、どうぞ」


 口の中に錠剤のようなものを入れられる。

 またラムネかな? と思い味わってみるが、口の中に苦みしか広がらない。


「……まずい」


「お薬ですもの。美味しくないのは当然ですわ」


「……『ですわ』?」


 随分と可愛らしい語尾を使うようになったなと思いつつ、ゆっくり目を開けて見る。

 知的な眼鏡美人がささえの顔を覗きこんでいた。


「うわぁ!? れ、レインさん!?」


「はい。レインですわ。ささえさんお薬ちゃんと飲みこめましたか?」


「う、うん。あ、ありがとう、ございます」


 まさかの人物の登場に狼狽えてしまうささえ。

 対してレインは心配そうな表情を向けたままささえの顔色をじっと眺めていた。


「典型的な二日酔いの症状ですわね。わたくしにも経験がございます。想像よりもずっとお辛いですわよね」


「そ、そうですね。アニメとかだと二日酔い描写って軽めに描かれるから本物がこんなに苦しいなんて知らなかった……です」


「今飲んで頂いたお薬は頭痛だけじゃなく二日酔い全体にも効くものですので、もう少し安静にしていればきっとよくなりますわよ」


「あ、ありがとうございます。レイン……さん」


「あと、お水はたくさん飲んだ方が良いですわ。こちらにペットボトルのお水を置いてありますので、定期的に飲んでくださいね……それとも、わたくしが飲ませてあげた方がよろしいですか?」


 くすくすと笑みを浮かべながら甘やかすように頭を撫でるレイン。


「うっ……ひ、一人で飲めますからぁ」


 先ほど翠斗に食べさせてもらうつもりで甘えた声を出したことを思い出して頬を赤らめる。


「翠斗さんは?」


「翠様は朝食の準備中ですわ。台所に立つ殿方って素敵ですわよね。推せます」


「わかる」


 ささえとレインは大穴を通して台所に立つ姿をぼぅっと見つめる。

 表情が緩んでいる所で二人は目が合った。

 ささえは翠斗に聞こえないように小声でレインに話しかける。


「……レインさんって翠斗さんのこと……好きですよね?」


「ええ。配信でも1コーナーを設けるほどガチ恋しております」


「それって本当にすごいと思います。ここまでストレートに気持ちを披露されると、つい応援したくなっちゃいます」


「いいえ。ささえ様は私を応援するつもりはないのでしょう?」


「………」


 言われ、黙ってしまうささえ。

 レインの言う通りだった。

 レインの想い人が翠斗でなければささえも素直に応援していたと思う。

 だけど翠斗は駄目だ。翠斗だけは駄目。友人を応援したいという気持ちが一切沸いてこない。

 つまりは……そういうことなのだろう。


「……何か特別な……恋愛的なイベントがあったわけじゃないんです。不良に助けてもらったとか実は許嫁だったとか、そういうドラマチックな展開があったわけじゃなかった。付き合いだって浅いです。知り合って間もないのにただなんとなく普通に一緒に過ごすうちに『良いな』って思うようになっただけ。ただそれだけなのに……レインさんが翠斗さんへ気持ちをぶつける姿を見ると、心がモヤモヤするんです」


「『ただ一緒に過ごす』というのだって特別なことですわ。ワタクシにはそれが本当に羨ましい」


「レインさん……」


「大体、貴方達の場合は『一緒に過ごす』って過程が普通ではありませんわ! なんですかあの大穴! 翠様のプライベートを覗き放題で、しかもそれが許されていて、それのどこが普通なのですか!?」


「あ、あはは。言われてみれば」


「ささえ様。ワタクシとお部屋を交換しませんか? 家賃は二部屋共ワタクシが払いますので!」


「死んでも嫌ですよーだ」


 ささえは可愛らしく小さく舌を出してレインを牽制した。


「でも、レインさんの部屋には行ってみたい。今度遊びに行って良いですか?」


「勿論良いですわ。ではささえ様がワタクシの部屋に居る間、私はささえ様の部屋で翠様の着替えを凝視していますわね」


「遊びにいくって意味知ってる!? 私はレインさんと過ごしたいんです!」


「冗談ですわ。いつでもいらっしゃってくださいね」


 レインはベッドに腰を下ろし、優しくささえを見つめながらゆっくりと頭を撫でる。

 撫でられると気分が落ち着いてきたのか、ささえの体調もみるみる良くなっていった。


「なんだか妹が出来たみたいで嬉しいですわ」


「私も今同じことを思っていました。お姉ちゃんが出来たらこんな感じなのかなって」


「うふふ。お姉ちゃんに何かしてほしいことはありませんか? ささえちゃん」


 不意にちゃん付けされ、嬉しいような恥ずかしいような気持ちが広がった。

 ささえはちょっと作った声で姉に甘える様に言葉を投げる。


「レインお姉ちゃん。ささえのお願い聞いてくれる?」


 思っていたよりも可愛い声を出してきたので、レインは驚きと共に頬を染める。


「お姉ちゃんと一緒に配信コラボしたいよぉ」


 潤んだ瞳で上目遣いにお願いをされ、レインは反射的に首を縦にコクコク動かしていたのであった。


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