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第33話 配信コラボⅣー③ ハイパークリティカル (みどり×ささやきささえ)

「みどりちゃんはさ……ヒック……もしささえが……ヒック……イケメンVTuberとコラボしていたら……ヒック……どう思う?」


「えと……V活動していたらそういうこともあるのかなぁって」


「うわぁぁぁぁぁぁんっ!!!」



  『みどりニキ0点』

  『さっきみたいに嫉妬丸出しで悔しがらないと』

  『大丈夫。もうささえはコメント見る余裕はない。今からでも俺らの言う通りにしろ』



 画面の向こうの皆にはもちろん見えていないが、翠斗はリスナーの言葉にコクコクと大きく頷きを見せていた。



「さ、ささえさん? 実は今ちょっと強がっちゃったんだけど、俺ささえさんにはイケメンとコラボなんてしてほしくないんだ! ささえさんが他の男とコラボしていたら悔しくて俺も大泣きしちゃうよ」


「でしょ! でしょぉ!!?」



  『いいぞみどりニキ100点』

  『パーフェクトコミュニケーション』

  『今の言葉、わたくしもキュンときました。録音したいのでもう一度言っていただけませんか?』

  『↑レインよ。今いい所なんだから黙ってね?』



「別にコラボするだけならいいよ? ささえもそのつもりだし。でもイチャイチャするのは駄目なのぉ。配信で良い雰囲気になっていいのはささえとだけなのぉ!」


 指を絡めるように手を繋いでくるささえ。

 少しだけ顔も近づけてきている。

 反射的に引いてしまう翠斗


「なぁんで離れようとするのぉ!?」


「な、なんでって。この距離は青少年には毒というか、刺激が強すぎるというか……」



  『何してますの!? みどり様とささえ様は今どんな状況なのですの!?』

  『みどりニキさては女性耐性ないな?』

  『俺だったらもう押し倒しているわ』

  『みどりニキはそれでいい。お前は誠実キャラでいけ』

  『でもささえもちょっとかわいそうだから頭撫でるくらいはしてやりな』




 コメントに助言をもらい、翠斗はささえの頭にポンッと手を置いた。

 酔いでとろんとしていた瞳が更にトロけていた。

 目を細め、ささえは気持ちよさそうに翠斗の右手を眺めている。

 だが翠斗はささえの頭に手を置いただけで何もしていない。

 そのことを徐々に不満に思い始めたささえの目尻が少しずつ上がってきている。


「なんでナデナデしてくれにゃいの! 頭に手を乗せたならちゃんと左右に動かせ!」


「は、はいぃ!」



  『手を置いただけだったのかよww』

  『それは俺でも怒るわ』

  『ていうか酔っぱらいささえ可愛過ぎね?』

  『みどりニキに対してだけわがままになっているのあざとくて好き』

  『もっとだ……もっとてぇてぇをくれ』

  『あまーーーーーーーーい!!』

  『ささえ様だけずるいですわずるいですわずるいですわ』

  『↑レイン ちょっと黙ろうか』



「うっへへへ。ナデナデ大好きぃ。ささえが眠るまでナデナデし続ける権利をみどりちゃんに授けよう」


「このまま寝る気か!?」



  『寝るなこれ』

  『みどりニキ ささえが寝たらお前が配信切るんだぞ』

  『いや、ここは敢えて配信切り忘れをキボンヌ』

  『可愛すぎるから一生見ていたいわ酔いどれささえ』

  『溺れるくらいお酒を飲んだらわたくしにもナデナデしてもらえるのでしょうか』

  『↑レ黙』



 まるで我が子を見るかのように暖かなコメントを残してくれるささメン。

 翠斗とささえの甘々な雰囲気を心の底から楽しんでいる模様だった。



  『よし、みどりニキ次の指令だ。ささえのアゴを持ち上げてじっとささえの目を見るんだ』



 ささメンに言われるがままにささえのアゴを持ち上げる翠斗。

 色っぽく潤んだ瞳に捕らえられ、翠斗の方がつい目を離してしまう。

 ささえはそのままゆっくりと目を閉じた。


「…………」


「…………」


「…………」


「……ささメンの皆に残念なお知らせがございます」



  『なんや?』

  『どうしたんだ?』



「アゴを持ち上げた状態のまま、ささえさんが寝てしまったので今日の放送はこれで終了とさせて頂きます」



  『ズコーーー!!』

  『マジかよささえ』

  『えっ? キス待ち状態とかじゃなくてマジ寝?』

  『これからだってときにぃぃぃぃ!』



「うん。本当に寝てる。寝息が聞こえているし」



  『み、みどり様!? まさかとは思いますが寝ている女の子を襲ったりなんかしませんわよね!? ムラムラしてませんわよね!? も、もし女の子と寝たい欲情が湧いてしまうようでしたらレインの横空いておりますわよ?』

  『↑レインちゃん 黙ろうね?』

  『↑レイン黙って』

  『↑レ黙』

  『↑レ黙』

  『↑レ黙』

  『↑レ黙』



 『↑レ黙』という謎ワードが大流行しているようだ。

 レインはもはやささえ放送の準レギュラー的な立ち位置になっている。

 暴走しがちなレインをささメンが黙らせてくれるから翠斗は内心ありがたいと思った。


「そ、それじゃ、今日はささえさんの20歳誕生日記念放送に来ていただいてありがとうございました。ちょっと早いですがこれにて終了させて頂きます。皆さんおやすみなさい」



  『おやすー』

  『なんだかんだで面白かったよ』

  『みどりニキとのコラボまた楽しみにしているわ』

  『一生コラボやってくれ』



 翠斗がマウスを操作し、ささえ放送を無事終了させた。







「(さて……)」


 問題は翠斗の肩に全体重を預けて眠る女の子だ。


「(なんというか……すごく懐いてくれているよなぁ)」


 その信頼はとても心地良いものだった。

 穴の開いている部屋に住んでいる異性の自分は警戒されてもおかしくないと思っていたのだが、ささえは全幅の信頼を置いてくれている。

 この心地良い信頼は裏切ってはいけないと翠斗は思った。

 翠斗は変な所を触らないように慎重にささえを持ち上げ、ゆっくりとベッドへと運ぶ。

 優しくタオルケットを掛けてあげて翠斗は大穴から自分の部屋へと去っていった。


 寝息を立てていたささえは——


「……ちょっと紳士すぎるよなぁ」


 翠斗に持ち上げられた時点でささえは半分目が覚めていた。

 気が付けばお姫様抱っこされていたので期待しながら身をゆだねていたのだが、案の定ただ寝かされただけで何もなかった。

 薄っすら目を開けて恨めしそうに穴の方向を見つめる。

 その視線は明らかな熱が籠っていた。


「ちょ~っとくらい触ってやろうかなとか思わなかったのかな、あの男は」


 寝っ転がりながら唇を尖らせてポツリポツリと言葉を漏らす。


「……下心アリアリなのが私だけなの悔しいな」


 酔った勢いで接触しまくっていたささえ。

 筋肉の感触とかしっかり男性をしていて内心ドキドキしっぱなしだった。

 しかし翠斗はまるで動じていないようにささえには見えた。

 それがささえには不服だったようだ。


「でも、それが翠斗さんなんだよね」


 真面目な彼は酔った勢いで女の子をなんとかしようとか思わない人なのは最初から分かっていた。

 そういう男性だと分かっていたから壁に穴の開いた部屋の隣人が彼で良かったと思っている。


「あれ?」


 枕元にラッピングされた小さな箱が置かれていることに気が付いた。

 小さなメッセージカードも一緒に置かれていた。



 『誕生日おめでとう これからも仲良くしてください 翠斗』



 定型文のような簡潔なメッセージだが、ささえには強く突き刺さり、酔いが一気に吹き飛んでいた。

 ただ、顔の赤さは酔っていた時より色濃くなっている。

 強い動悸を感じながらささえはもう一度恨めしそうに大穴の方を覗き見ていた。


「……私って、くっそチョロいのかな」


 翠斗とはただの隣人で、一緒に配信をして、夕食を毎日一緒にしているだけの仲。

 桃色っぽい感情があるようなないような、そんな絶妙な空気感が心地よかったのだが、その空気感が少しでも色味を増すと今のように落ち着かなくなってしまう。

 心地良い空気感を崩してきた突然のプレゼント攻撃にささえはクリティカルヒットしまったのだ。

 恨めしい気持ちを抱きつつ、ささえはプレゼントの包装を綺麗に剥がし、箱の上蓋を開けてみた。


「……おぉぅ」


 それはペンダントだった。

 いつも翠斗が付けているクソダサい髑髏のペンダント……の色違い。

 アバターキャラささやきささえの髪の色を髣髴とさせる真っ赤な髑髏。


「えへへ。ダサいなぁ。にゅへへへ」


 気味の悪い笑いを浮かべ続けるささえ。

 愛おしそうに髑髏のペンダントを胸の中に抱きかかえる。


「にゅへへへへへへへへ」


 穴の向こうにいる翠斗に聞こえないように声を抑えるが、溢れ出るニヤケが止まらない。

 それからしばらくささえはベッドの中で湧き出る歓喜と戦い続けるのであった。


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