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第30話 隙あれば唇を狙ってくる隣人たち

 VTuber事務所Vクリエイト。

 新設されて間もない事務所で決して大きくはない。

 その事務所は一芸に秀でたVTuberを募っている。

 クリエイターであり、企業勢VTuberを目指す者たちにとっては魅力的な所だった。。

 もちろん誰でも入社できるわけではない。

 書類審査から始まり、個人面接、能力オーディションと3段階の条件をクリアしないといけないのだ。

 ガワを持っていない翠斗は書類審査の時点で落とされる懸念を持っていたが、アバターキャラの有無は選考にはあまり関係ないらしく、あっさりと書類審査は合格した。

 書類選考の合格はささえも一緒であり、手を取りながら喜びを合っていた

 翠斗の左手をささえが取り、右手はなぜかレインに握られていた。


「おめでとうございます。翠様。ささえ様」


「うわぁ!? レインさん!?」


 神出鬼没な登場に思わず仰け反ってしまう翠斗。

 同時に彼女の唇の方へつい視線が行ってしまう。

 思い起こされるのはもちろん先日のキスのことであり……

 頬を染めながら下を向いてしまう翠斗であった。


「もぉ。レインさ~ん? 人の部屋に上がり込むときはちゃんとチャイム鳴らさないと駄目だよ?」


 そういうささえこそ一度もチャイムを鳴らしたことなどない。行き来は壁穴から直通故に。


「申し訳ございません。嬉しくなってつい!」


「私達を祝いにきてくれたんだ! ありがとうレインさん」


「それもありますけど……じゃじゃーんですわ!」


 レインは大きな茶封筒と取り出し、中にある一枚の紙を見せつけてきた。

 それは翠斗やささえも持っている見覚えのある用紙だった。


「Vクリエイトの書類審査合格通知!? えっ? レインさんもオーディション受けていたの!?」


「はい。ささえ様とみどり様のコラボ放送でお二人がここを受けることを知っておりましたので、レインも後追いで履歴書を送っておりましたのですわ」


 レインがVクリエイトオーディションを受けようと思った大きな理由は二つある。


 一つはレインもクリエイターであること。

 レインには小説をいう武器がある。

 しかし小説家として中々結果が出ないレインは企業に助力頂きたいと願い、応募に至ったのだ。


 二つ目は翠斗を追いかける為。

 VTuberには個人勢と呼ばれる者と企業勢と呼ばれる者に分類される。

 企業勢から個人勢に接触することは出来ても、個人勢から企業勢に接触することは難しい。

 つまりみどりとのコラボが出来なくなる可能性を危惧したのだ。

 でも同じ企業勢同士ならコラボし放題。

 翠斗とイチャイチャし放題の権利を得られるのだ。


「やったー! 絶対3人で合格しようね!」


「はい! 精一杯頑張りますわ!」


「…………」


 決起するささえとレインだったが、翠斗だけはその輪に入れずずっと俯いたままだった。


「翠斗さん? どうしたの? さっきから黙り込んじゃって」


「い、いや、なんでも……」


 ささえとは目を合わせられるがレインとは視線が交わらない。

 先日のキスのことで意識してもらえていることを察したレインはニマァ~と表情を緩めまくった。

 そして——


「翠様。一緒に合格しましょうね」


 そう言い残すと、レインは顔を翠斗に近づけ、その頬に自分の唇を当てた。


「「っ!?」」


「そ、それではごきげんようですわ」


 少し頬を紅潮させながらレインは逃げる様に去っていく。


「「……」」


 爆弾だけ置いて消えていったレインを無言で見送り、翠斗とささえの間には何とも言えない気まずい空気が流れていた。

 そして——


「何今の!? 翠斗さんなんなの今の!? どうしてレインさんはちゅーして行ったの!? 付き合ってんのか、こら~!!」


「つ、付き合ってないよ。えと、今のは、俺にもちょっとわからなくて……」


「嘘つけ! 心当たりあるんでしょうが~! そういえばさっきから様子が変だったけどそういうこと!? そういうことなの!? 言え! 吐け!」


「わかった! 言うから! 言うから揺らすのやめてくれ~!」


 思いっきり翠斗の身体をガクンガクンと揺らし続けるささえ。

 目が血走っていて怖かった。







「——と、いうわけで、俺はレインさんの告白を断ったんだけど、その、彼女の方は逆に火がついてしまったらしく、今に至るというわけです。はい」


 翠斗は要点を掻い摘んで先日のことをささえに話す。

 ささえの目は終始座っており、話を終えると同時にその眼光は更に鋭くなった。


「翠斗さんがどうしてレインさんを振ったのかだけは分からなかったけど、二人が付き合っていないのが本当らしいのは信じてあげる」


「ど、どうも」


 レインを振った理由に翠斗がささえを気になり始めているという事実は隠していた。

 さすがに本人を目の前でそれは言えない。


「…………」


 ささえの姿を一瞬見失う。

 その刹那、ささえが目にも止まらぬ速さで翠斗の眼前に踏破したのだ。

 彼女の唇が翠斗の唇に触れようとするが——

 翠斗は反射的にバックステップを踏んでいた。


「避けた!?」


「間一髪……っ!」


「間一髪じゃないよ!? どうして避けるの!?」


「いや、間合いを詰められたから野性的感覚でつい回避を……」


「その反射神経をどうしてレインさんには使わなかったのさ!」


 レインの不意打ちは避けられず、ささえのキスは避けることができた。

 その差は単純に油断していたかそうでないかだ。


「そ、それよりも、今もしかしてささえさんもキスしようと……してた?」


「だって翠斗さんは付き合ってもない女の子にキスを許しちゃう人なんでしょ? だったらささえにも恩恵を受けさせてもいいじゃん」


「いいじゃんって……ささえさんは俺なんかとキスしていいの?」


「キスなんて今時当たり前のようにみんなしているよ」


 そういうものなのか、と翠斗は心の中で驚愕する。

 つまりささえも挨拶がてらにキスとかしているのだろうか。

 そう思うと若干モヤってしまう。


「翠斗さんは誰かとチュウしたことないのかなぁ~?」


 からかうようにニタニタしながら聞いてくるささえ。


「レインさんとしちゃったけど」


「うがー!! そうだった! ちっきしょうめ!」


 そしてすぐに墓穴だったと気づかされるささえであった。


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