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第29話 Love Marking

 天の川レイン――もとい天野麗は浮かれていた。

 鼻歌交じりで朝食を作り、幸せそうに食べる。

 その脳裏に浮かんでいるのは昨日のコラボ配信だ。


「翠様とたくさんお話しちゃいましたわ。うふふ」


 憧れの声優と肩をくっつけながら配信し、再び自分の小説に声を当ててもらうことができた。


「さ、最後には、キスなんかしちゃって……きゃーっ! きゃーっ!」


 最初はなんて大胆ことをしてしまったんだと後悔も奔ったが、やってしまったことはもう後戻りできない。

 ならばあの時の唇の感触を忘れまいようにしようとレインは自分のキスシーンを何度も何度も脳内再生を繰り返していた。

 その度に表情がトロける。自然と口角が上がりきってしまう。


    ピンポーン


 にやけながら食事している最中に来客チャイムが鳴った。


「はーい。どちら様……って、翠様!?」


「朝早くからすみません……って、うぉぅ!? すっごいにやけてる!?」


「に、にやけてなんておりませんわ!? 昨日のキスの感触を思い出して惚けてたりなんてしておりませんよぉ。うふふ」


「き、キス……」


 翠斗も昨日のことを思い出し、瞬時に顔が赤くなる。

 その変容を見てレインは目の前の男性が急激に愛おしくなった。


「……ま、また、やります?」


「ぇえ!? うええ!?」


「じょ、冗談ですわ! 冗談冗談! そういうのは夜にやるものですものね!」


「落ち着いて! お願いだからレインさん落ち着いて!」


 会って早々桃色空間に誘われそうになるが、なんとか立ち止まることができた。


「そ、それで、翠様、本日はどのようなご用事で?」


「あ、う、うん。その、俺の、気持ちについて……」


 珍しく声をどもらせながら、落ち着かない様子の翠斗。

 『気持ち』とはなんのことだろうとレインは一瞬考えるが、自分が散々告白まがいなことを言いまくっていたことを思い出し、瞬時に顔がボッと真っ赤になった。


「お、俺、告白されるのって初めてで、だからレインさんが俺を好きって言ってくれて、未だに驚いているというか、どこか信じられないというか……」


「好きです。翠様」


「~~~~っ!?!?」


「信じてください。昨日も言いましたが、レインは貴方のことをお慕いしております。ずっと、ずっと」


 好きの気持ちを信じられないと言われ、瞬間的に再度告白を行うレイン。

 急にストレートな気持ちをぶつけられ、翠斗の顔は更に赤くなる。


「う、嬉しいです。本当に嬉しい……です。こんな美人から告白されるなんて一生分の運を使ったような気分です」


「そ、それでは、レインと——」


「でも……申し訳ありません。レインさんと付き合うことはできません」


 申し訳なさそうな翠斗。

 そして目を見開いて驚くレイン。


「「…………」」


 しばし沈黙の時が流れる。

 フってしまったんだと自覚する時間。

 フラれたんだと自覚する時間。

 各々が自覚に要する、短くて長い時間。

 先に硬直から脱したのはレインの方だった。


「も、もしかして、翠様には、すでに心に決めた人が……いるのですか?」


 翠斗は静かに首を横に振る。


「違います。恋人はいません」


「では……レインに魅力がなかったから……ですね……」


「それも違います! レインさんは美人で可愛くて優しくて面白くて俺の超好みです!」


「うぇぇ!?」


「それは本当の気持ちです。俺は……レインさんのことが気になっている」


「な、ならどうして駄目なのですか!?」


「レインさん以上に気になっている人がいるからです」


 レイン以上に気になる人。

 それが誰なのかくらいすぐに察することができる。


「ささえ様を……選ばれるのですか?」


「一晩……考えた結果……俺の気持ちはささえさんに傾いていたことに……気づきました」


「翠様はそう決められたのですね」


「うん。ごめん。本当にごめんなさい」


「もう告白はしましたの?」


「い、いえ。まだです。俺の気持ちもささえさんは知らないはずです」


「なら翠様はまだ誰のモノでもないのですのね」


「——えっ?」


 たたた、と駆け寄ってくるレイン。

 それは昨日の配信間際の光景のリフレイン。

 早送りのように近づく彼女との距離。

 気が付くとレインの唇に翠斗の唇が塞がれていた。


「~~~~~~~~~~~~~~っっ!?!?」


 長いキス。

 昨日よりも何倍も長い。長い長いキス。

 自分の気持ちを押し付ける様にレインは唇を合わせ続けた。

 やがてぷはぁという濁音と共にレインの唇は離れた。


「貴方がまだフリーであるのなら、レインはこれからもアプローチしまくることを選ばせて頂きますわ」


「な、なななな、なぁ!?」


「一回フラれたくらいで諦めるほど軽い気持ちじゃありませんから」


 言いながら再び唇を合わせてくるレイン。

 翠斗は何がなんだかわからず、頭から湯気を出すような勢いで真っ赤に染め上がっていた。


「今日が駄目なら明日、明日が駄目なら明後日。レインは何度でも貴方に告白しますから。ぜーったいに私の方へ振り向かせてをみせますわ! 覚悟してくださいね。翠様」


「ぅええええええ!?」


 告白を断って恋心を諦めてもらうはずだったのに、レインの恋慕は逆に加速した。

 それどころか唇へのマーキングを強く上書きされてしまい、翠斗の心は更に揺れ動くことになるのであった。


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