「レインさん。初めて出会った日からキミに惹かれていた。少し幼い顔立ちが好きだ。エロスを感じる赤フレーム眼鏡も素敵だ。キミの控えめな胸さえも俺の性癖に突き刺さった」
「急にこんなことを言われても受け入れてもらえないのなんて分かっている。だけど仮に受け入れてもらえなかったとしても……俺はキミの全てをこの場で奪うつもりだ。嫌だったら……思いっきり引っ叩いてくれて構わない」
「……俺を叩かないんだね。じゃあ俺もそのつもりで心置きなくキミの全てを奪っていくよ? 拒絶しないキミ自身が悪いんだからな」
「レインさん。素敵だ。その綺麗な肌をぐちゃぐちゃにしたい。俺色の痣を植え付けてやりたい。ちょっと強めに縄で縛るけど、いいんだよな?」
「もう俺無しじゃ生きられない身体にしてやる。愛してるぜレイン」
「私も愛してましゅぅぅぅぅぅっ!! 傷だらけにしてくだしゃいぃぃぃぃぃ!!」
『割り込んでwwwwくるなwww』
『レイン、ステイステイ。今みどりニキの一人語りASMRの時間だろ』
『いやレインが我慢できなくなって悶えるのもちょっとわかるよ
みどりニキの音読臨場感あり過ぎてぞわぞわした』
『さすが元プロやな。男の俺も抱かれたいと思ったわ』
『↑』
『↑2』
「み、みどり様。どうぞ」
「だから縄を渡してくるな!!」
レインが執筆した夢小説にみどりが声を吹き込む
小説家見習いと元声優という肩書があるからこそ可能なコラボ。
だが想像以上に『夢』部分がでかすぎた故に翠斗も演じながら脂汗を垂らしていた。それでもやりきってしまうのはさすがプロというべきだろうか。
逆に我慢できなくなってしまったのはレインの方。
文章の中の自分だけ満たされていて実体はお預け状態。
身体の疼きがレインを暴走させてしまっていた。
『もう気持ちも性癖も隠す気ないのなw』
『ごめんみどりニキ こんな娘で』
「えへへ。みどり様。好き好き~ですわ」
今まで25年間生きてきた中でここまで包み隠さず気持ちをオープンにされたことのなかった翠斗は戸惑いを隠せなかった。
「れ、レインさん。貴方の気持ちはとても嬉しいです。で、でもどうしてここまで俺なんかを好いてくれるのかが分からなくて。俺なんて特技もないし。顔も平凡以下だし」
「特技がないって本気で言ってますの!? そんなに素敵な声を持っているのに!? 歌もダンスもできるのに!? イベントの司会もやっておりましたのに!? レインを縄で縛るのがお上手なのに!?」
「最後の特技は披露した覚えないな!?」
「でも貴方は万能です! 特技がないなんて言わないでください!」
「レインさん……」
「きっとレインを縄で縛る特技もすぐに身に着けることができますわ!」
「身に着けるつもりないけど!?」
レインの言う通り、一見翠斗は何でもできる万能人間に思える。
だが、翠斗本人は一切そうは思っていないらしく——
「俺なんてせいぜい器用貧乏がいいとこだよ。声優の才能ならささえさんに劣るし、人を楽しませる才能はレインさんには絶対に勝てない。他の特技だって俺なんか『中の上』くらいだ。どんなに頑張っても『上』の部類には入れない。それがみどりっていう存在なんだよ」
『みどりニキ……』
『そんなこと言わないで』
『お前は充分すげーよ』
みどりの卑下を慰める様に優しいリスナーが声を掛けてくれる。
それに続くようにレインもみどりに言葉を投げる。
「私の作品が音声化された時、貴方は台本がボロボロになるまで読み込んでくれましたね」
『えっ? レインの作品ってメディア化されてたの?』
『実は音声化されているんだぜ』
『ちょっと待て その時の声優がみどりニキだったってこと?』
『運命の人やん』
「私の書いた台本をあそこまで読み込んでくれたこと、レインはとってもとっても嬉しかったですわ」
「そ、そんなのは当然だよ。台本を読み込んでくるのは当たり前だ。キャスティングされた声優として期待以上の声を吹き込む義務がある。一文一語に込められた作者の思いを読み取れないようじゃあの場に立つ資格はないと思ったんだ」
「その立派な考えが素敵だと言っているのです。私は小説家として駆け出しです。きっと台本も稚拙な所があったでしょう。でも、それでも貴方は一生懸命台本を読み込んでくれました。私でも気づかないような感情表現を読み取ってくれました。並の声優さんがそんな高等なこと出来るわけないじゃないですか」
「レインさん……」
「小説家にとって自作を読んでくれるもらえることは何よりも幸せなことです。私は単純に嬉しかったのです。プロの声優さんが私なんかの作品を一生懸命読んでくれたことが。それだけで……たったそれだけのことでレインはここまでゾッコンになったのですよ?」
チョロいと言われるかもしれない。
尻軽と思われるかもしれない。
それでもレインはあの時のアフレコ現場の光景が頭から離れない。
努力家で、必死に自分の作品に命を吹き込んでくれた声優を好きになってしまった事実はどんなことがあっても覆らない。
「努力を行ったのは、努力しなければならなかったのは、俺が声優として未熟だったから。『上の上』の声優はきっと台本が擦り切れるまで読み込む必要がないくらいスマートに出来てしまうんだ。俺には……どうあがいてもそのレベルに達することはできなかった」
「私は『中の上』である貴方だからこそ惚れたのです。台本を読み込まないような声優様になんて私の作品の声を当ててほしくない! その場でスマートに出来る人よりも何日も前から努力し続けていた人の方がずっと素敵です! レインは……努力してくれる貴方だからこそ好きになったのです!!」
『熱いぜレイン』
『俺も努力家のみどりニキが好きだぜ』
『ていうかみどりニキは普通に「上の上」だと思う』
『レインの夢小説を即興でスマートに読み上げてたしな』
「いや、全然スマートじゃなかったよ。表現レベルの低い酷い吹込みだったと自分で思う。もっと前から台本くれればもっと練習できたのに……!」
悔しそうに唇を噛む翠斗。
レインはそっと翠斗の手を取りながら微笑んだ。
「そういう所が素敵だと言っているんです。自信を持ってください。私の声優様っ」
レインは翠斗の首に腕を回し、そのまま顔を引き寄せた。
えっ? と狼狽する翠斗。
気が付くとレインの顔が、唇が目の前に迫っており——
「~~~~~~~~っ!?!?」
二人の唇は合わさっていた。
『どした?』
『急に二人黙ったな』
『良い感じの雰囲気だと思ったのに』
『もっとラブラブコメコメみせんしゃい』
VTuberアバターキャラしか見られないリスナー達は知らなかった。
皆が見たがっていたラブコメが配信外で行われていることを。
配信者の二人が真っ赤になりながら俯いている。恥ずかしさで互いの顔が見られない。
顔が赤すぎてまるで湯気が出ているような錯覚にさえ陥る。
こんな顔を配信で流れたらもう外を歩けない。
VTuber配信であることを心から良かったと思う二人であった。