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君がいた夏
君がいた夏
柊つゆ
恋愛現代恋愛
2025年02月28日
公開日
1.1万字
完結済
僕は親戚のお墓参りをするために、小さな島に来ていた。
何もすることが無いこの島で唯一の観光名所である崖に行くと、柵から身を乗り出して落ちてしまった。
その落ちた崖下で女の子に助けてもらうことから始まる物語。

全4話完結予定。

第1話 女の子との出会い

 僕は、今日から日本の東の方にある小さな島のゲストハウスに来ている。

 今日の日付は8月14日でちょうどお盆だ。

 ゲストハウスに入ると、おそらく築50年は経っているようなとても古い家だった。

 廊下を歩くたびにきぃきぃという音が聞こえてくる。

 また、小さな島ということもあって周りにはコンビニがそもそもない。

 あるのは、同じく築50年前後が経っているであろう民家と小さな飲食店くらいだ。

 また、この家から徒歩50分ほどで着く島の反対には商店街があるらしい。

 僕がこの小さな島に来たのは、遠い親戚のお墓参りのためだ。

 本当なら1日で帰る所だけど、お父さんとお母さんがせっかくだからしばらく居ようということで、17日まで滞在することになった。

 でも、小さな島でできることなんてほとんどない。

 島には友達もいないので、1日中1人になる。

 僕は、テーブルの上にあるこの島の地図を手に取った。

 地図を見ると、観光名所に大きな崖が書かれている。

「歩いて、30分か……」

 やることも無いし、行ってみよう。

 僕は、水筒と財布をバッグに入れて家を出た。


 だいたい歩き始めて50分ほど。

 ここに来るまで、ひたすらに山道を下ってきた。

 そろそろ見えてくるだろう。

 少し疲労が溜まったので休憩をしようと腰を掛ける場所を探していたら、近くで波の音がする。

 辺りを見渡してみると、崖のようなものを見つけた。

 僕は、疲れを忘れてさっそく目当ての崖へと行くと、そこに太陽の光でエメラルド色に輝いて波を打つきれいな海を見ることができた。

 周りには誰もいない。

 波が浜辺に到着するたびに聞こえる音がとても心地よい。

 体に伝わる塩風は疲れた体を癒すにはちょうどよい冷たさだった。

 意外といいな。


 この島に来て初めて良かったと思った瞬間かもしれない。

 そう思った僕は、もっと海を近くで見ようと、身を半分乗り出す。

 そして、ここに来るまでの疲れもあって全体重をかけてしまった。


 ぎしり


 柵の右側にある柱が倒れるのが見えた。


 やばい。


 でも、気づいた時には既に遅かった。

 僕の体は崖から垂直落下して地面の方へと向かっていく。

 崖下にあるごつごつとした岩が正面に見える。

 このまま落ちれば死ぬかもしれない。

 でも、この状態でできることは何もない。

 僕は重力に身をゆだねるという形でそのまま落下した。



 波音がかすかに聞こえてゆっくりと目を開けると、そこは少し薄暗い場所だった。

 疲れた目を擦りながら周りを見渡すと、どうやらこの場所は洞窟らしい。

 少し離れたところにさっきまで見ていた海がある。

 僕は、崖の上から思いっきり落ちたはず……。

 助かったのか?

「よかった。やっと起きたね」

 声の聞こえた方を振り返ってみると、そこには自分と同じくらいの年をした女の子がいて話かけていた。

「大丈夫?痛いところはない?」

 この女の子がことことと歩いてきて、僕の隣で話かけてきた。

僕と同い年くらいだろうか。

髪は長く腰のあたりまではあり、体は女の子であるということを差し引いても華奢と呼べるくらいだった。

澄んだ水色のような青色のワンピースが海風でひらひらと揺れていてとても似合っていた。

「ここはどこ?僕は、崖から落ちたはずだよね?」

 僕は、真っ先に気になったことを女の子に聞いた。

 崖から落ちてからの記憶が一切ない。

 どうしてこんな洞窟にいるのか。

 どうやって僕を助けたのか。

「ここは君がさっきまでいた崖の下にある洞窟。さっき君が落ちてきたからそこに横に寝せておいたんだよ」

「そうだったんだ…… ありがとう。」

 僕は座ったままだけど、小さく頭を下げてお礼を言った。

 それに対して、この女の子はニコッと純粋に笑った。

「せっかく来たんだから私の探し物に付き合ってよ」

「探し物?」

 僕は、きょとんとしながら尋ねた。

「ブローチを無くしちゃったんだ。ちょっとこの洞窟を一緒に探してくれない?」

 そう言うと、女の子は右手を差し出してきた。

「意外とおっちょこちょいなんだね」

 僕は、そう言って自分の右手で女の子の右手を掴んだ。

「そういう女の子のほうがかわいいでしょ」

 そう言うと、女の子は僕の右手を思いっきり引っ張って立ち上がらせてくれた。

 そして、それと同時に女の子のショートの髪がゆらりと揺れた。

 夕日に照らされて笑顔でお願いをするこの子は自信に満ち溢れている。

 そして、それと同時に凄く可愛かった。

 助けてくれた恩もあるしこれくらいのことはするべきだろう。

「いつから探しているの?」

「今さっきだよ。本当は昨日ここに来たんだけど、夕方で暗かったから今日からにしたよ」

 女の子はにこっと笑ってこっちを見た。

 洞窟を見てみると、奥を見ても行き止まりが見えるくらいの奥行きだ。

 これならすぐに見つかるはずだろう。

 僕たちは、二手に分かれて探し始めることにした。



 そして、探し始めてから約15分後、岩の影にそれらしきものがあるのを発見した。

 僕は見つけたよと声をかけようとすると、先に奥の方から女の子の声が聞こえてきた。

「ないねー。もうそろそろ日が落ちるから今日はこれくらいにしようか。明日も探すから来てくれるよね?」

 その女の子は洞窟の出口から差し込む光で朱色に染まった顔に満面の笑みを浮かべて聞いてきた。

 短い髪を右手でくるくると触りながらこちらを見てくる。

 それに対して僕は無意識のうちに右手に握っていたブローチをポケットの中に隠した。

 自分でもどうして探し物を隠したのか分からない。

 そして、僕はぎこちない笑顔で振り向きながら答えた。

「いいよ」


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