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〈番外編〉マリーの新婚生活

「マリー、こちらにいらっしゃい」


「はい、皇后陛下」


 マリーとフェルディアが結婚して半年後。マリーは皇后に呼び出された。


「遅くなってしまって申し訳ないけど、数日間休みをとって、フェルと新婚旅行にでも行ってらっしゃい」


 皇后から無造作に差し出された書類は、マリーがずっと憧れつづけていた南国の島やなかなか行けない異国など、さまざまな旅行プラン一覧だった。



「これは……?」


「私がいくつか見繕っておいたわ。若い人たちに人気なのはこれだと、その、人が言っていたから。別にそこじゃなくてもいいわ。行きたいところに行きなさい」


 少し顔を赤くして目を背けながら、皇后がそう言い放つ。


「皇后陛下は、マリー様に楽しんでいただけるようにマリー様のお好きな南国や皇后陛下ご自身が行ってよかった地など、いくつか案を考えていらっしゃいました。お休みの間の業務は、皇后陛下と皇帝陛下がなさるように準備も済んでおります」


 皇后専属の秘書的な役割をしている侍従が、そう言葉を付け加える。


「よ、余計なこと言わないの! マリーが好きなところに行かなくなると困るでしょう!? いいのよ、マリー。行きたいところに行きたいだけお行きなさい?」


 鉄壁の微笑に戻った皇后にそう言い渡され、マリーは頭を下げる。


「ありがとうございます。皇后陛下。フェルディア様にご相談の上、決めさせていただきますわ。すべて素敵な提案で、その中でも、私、南国の案がすごく気に入っておりますわ」


「い、いいのよ! 早く行ってらっしゃい!」




ーーーー

「と、いうことでしたわ」


「僕が提案しようと思っていたのに、母上に先を越された!」


 悔しそうに顔を歪まされるフェルディア様に、思わず私は笑ってしまいます。お二人のお気持ちが嬉しくて、胸がぽかぽかいたしますわ。


「マリーはいつからどこに行きたい?」


「え? フェルディア様は?」


「マリーと一緒ならどこでもいいよ? うーん、でも、マリーがずっと夢見ていた南国に一緒に行けたらうれしいなぁ」


「ふふふ、私の気持ちを皆様見抜いていらしたのですね? そんなにわかりやすいかしら? 私もフェルディア様と一緒に南国に伺わせていただけたら、すごくすごく嬉しいですわ」


 私がそう言うと、フェルディア様にぎゅっと抱きしめられました。思わず顔が赤くなってしまいます。


「じゃあ、父上と母上に仕事は全部押し付けてくるから、すぐに行こうね?」


「ふぇ、フェルディアさま!?」


 両陛下へ仕事を押し付けると言い放ち、部屋を出て行ってしまったフェルディア様を、私は呆然と見送ります。





「喜んで受け取ってきてくれたよ。せっかくなら、近くの行きたい国も回ってきていいよって休暇3週間勝ち取ってきた。というか、母上が父上に説得してくれてたよ」


「さ、3週間!? そんなに離れて大丈夫なのでしょうか?」


 両陛下の能力を疑う意図ではなく、ご負担を考えての発言でしたが、受け取り方によっては、能力を疑う発言になってしまったと思って、そっと反省いたしました。


「大丈夫だよ。いつもマリーが頑張りすぎだっておっしゃってたし、今までの苦労も少しでも癒してきてほしいって」


「ありがとうございます」






ーーーー

「まぁ!」


 南国独特のもわっとした熱気に、少し暑い陽射し。私は、初めて感じるその感覚に胸が湧き踊ります。


「おいで、こっちにうちの別荘があるから」


 一応国内ではあるので、誰に気遣う必要のない別荘を皇家も持っているようです。そちらに案内していただきます。


 ふと道端の海に目を落とすと、エメラルドグリーンに輝き、透明度の高さから、海を泳ぐ魚たちも見えます。ずっとずっと憧れていた海に感動してしまいます。


「あとで泳ぐ?」


「え!? 泳いでよろしいのですか!?」


 令嬢としては泳ぐなんてはしたないこと、と思われてしまうと思って言い出せなかった憧れをフェルディア様から言い出してくださいました。


「うちの別荘の海なら、泳いでも誰にも見られないし、泳ぎやすい服も用意してあるよ」


「まぁ! ぜひお願いしますわ!」


 ずっと皇后となるための教育を受けてきたため、なかなか子供のように遊んだ経験がなかったため、ドキドキとしてまいりました。


「泳ぎ方なら教えてあげるから。手取り足取り、ね?」


「えぇ! よろしくお願いいたしますわ!」


 その時の私に言いたいですわ。フェルディア様のご用意された服が“水着”という布面積の少ない服であったことと、泳ぎを習うには密着しなければならないことを。断るなら、ここがチャンスでしたのに!




「ふぇ、ふぇ、フェルディア様!? こちらの服、丈がすごく短くて、身体のラインがわかりすぎます。下着のようで恥ずかしいですわ!?」


「大丈夫、出ておいで。ほら、よく見せて?」


「無理ですわ! これはお見せできませんわ!」


「じゃあ、タオルでもかぶっておいで? 海に着いた時に外せばいいだろう?」


「そ、それなら……」





「お待ちください! 海も透明度が高いからフェルディア様にはすべて見えてしまいますよね!?」


「なんでそこまで恥ずかしがってるの? 恥ずかしがるような仲じゃないよ?」


「こんな、明るいところで、こんな格好……」


「でも、泳いでみるならその水着がいいんだよ。おへその出るビキニもあるけどそっちにしとく?」


「……こちらにしておきますわ」


 私は勢いよく、海に駆け込み、少しでも身体を隠しました。

 フェルディア様が私の投げ捨てたタオルを畳んで置いてから、そっと追いかけていらっしゃいます。



「じゃあ、泳ぎ方を手取り足取り教えさせてもらうね?」


 なぜか獣に狙われた獲物になった気分になりながら、そうして、私たちの新婚旅行は始まったのでした。

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