「メルル、オズベルト様とここに行きたいですぅ!」
「そうか。じゃあ、今日の帰りに共に行こう」
「わーい! 皆様も一緒に行きましょう?」
「マリー様。余りにも…目に余りませんか…?」
「第一皇子が許可されたことに関しては、私は何も言えません。ただ、側室になられるお方なら、マナー等は指導させていただきたいと思います」
「お優しいですわ……マリー様は」
私はメルル様を受け入れることにしました。そのため、メルル様に側室として持つべき最低限の貴族としてのマナーを教えようと思ったのです。盛り上がる第一皇子の集団に近づくと、私はメルル様にそっと注意をさせていただきます。
「メルル様。そちらのお方は子爵令嬢でいらっしゃいます。まず、発言の許可をいただいてから、」
「ふぇえ! オズベルトさまぁ!」
「マリー! メルルをいじめるな! そんなんだから、母上もそなたを邪険になさるのだ!」
「申し訳ございません……ただ、メルル様には、第一皇子のお隣に居続けられるために相応しいマナーを身につけていただかなければ……」
「うるさい。僕はこのままのメルルを気に入っているんだ。メルルもこんなに怖がって泣いているではないか!」
「メルル様は泣き真似をしていらっしゃるだけで泣いては……」
「血も涙もない女だな! 見ろ、僕の周りの友人たちを! メルルにこんなに優しくできるぞ!」
「申し訳ございません」
例え、第一皇子に疎ましく思われようとも、次期皇后として側室候補の方のマナーを正さないわけには参りません。そこは、第一皇子を立てるべきところではないと私は考えます。
ちょうど、私が第一皇子とメルル様に謝罪しているところに、第二皇子であるフェルディア様がいらっしゃいました。
「兄上。マリー義姉様は、そちらの女性が側室としてあなたの側にいることができるように、次期皇后として注意してくださっているんですよ? 最低限の貴族としてのマナーもお持ちでないじゃないですか。そのままでは、側に置くことは不可能ですよ?」
「お前はいつもいつもマリーばかりだな? 全く。表情の乏しいマリーも、喜怒哀楽がはっきりと出て、笑顔の愛らしいメルルを見習ってほしいくらいだ。僕は今のメルルに癒しを感じているんだ。不足点は、マリーが補えばそれでいいだろう」
次期皇后として感情を出さないように必死に取り組んでまいりました。私の努力はなんだったんでしょう。そんな気持ちになりかけて、必死に立て直します。
「ふぇぇ。メルル、オズベルト様のためなら、マリー様にいじめられても精一杯頑張りますぅ!」
「メルル! なんていじらしいんだ! 心配するな。僕がメルルのことを守るぞ!」
第一皇子とメルル様は二人の世界に入ってしまいました。どうしましょう、と思い、あたりを見渡すと、第一皇子の取り巻き以外の皆様は困ったような表情を浮かべてこちらをご覧になっていらっしゃいます。ここは、帝国の権威の失墜をさけるためにも、綺麗にまとめて終了とした方が良いでしょう。
「第一皇子、メルル様。そして、この場にいらっしゃる皆様。お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした。しかし、次期皇后として、メルル様への指導は必須でございます。今後も、このような指摘はさせていただきますが、優しさとご理解いただけるように発言に注意して行って参ります。私の力不足で今後も騒ぎになってしまうかもしれません。メルル様のお心に敵うご注意ができるように成長して参りたいと思います。見守っていただけると、幸いです」
私が、謝罪の意を込めて一礼をすると、皆様拍手をくださいました。
少し顔をしかめている第一皇子も、この状態ではなにも言えません。メルル様は何か言いたげですが、第一皇子が抑えていらっしゃいます。
「義姉様、ご立派でした。行きましょう」
フェルディア様が声をかけてくださり、その場から連れ出してくださいました。
「大丈夫ですか? お疲れでいらっしゃいますよね。よければ、ご自宅までお送りいたします。あ、でも、僕がいたら休息できませんか?」
子犬のようなうるうるした目を私に向けられるフェルディア様の愛らしさに、思わず笑ってしまいました。さすが、弟です。自らの愛らしさをご理解していらっしゃいます。
「ふふふ。フェルディア様の愛らしさに癒されましたわ。義姉と義弟として、楽しく世間話をしながら帰りましょう?」
「はい! マリー義姉様!」
愛らしい笑顔に癒され、共に帰ることとしました。
「まだまだ弟か」
すっと無表情になって呟いた第二皇子の言葉は、誰の耳にも届かなかったようだ。
「義姉様! 今日、僕のクラスの先生が、授業中に」
「まぁ! そんなことがあったのね! フェルディア様の先生は天然でいらっしゃるのね」
私はクスクスと笑いながら、フェルディア様に手を取っていただき、馬車に乗り込みました。お話を聞いていくうちに、心が軽くなっていきました。