「ねぇ、私にいい案があるのだけど」
ある満月の晩、そう呟かれた家臣が、そっと声の主の側に寄る。
「なんだ? その案っていうのは」
「恋愛には、スパイスって必要でしょう?」
「まぁ、なくてもいいけど、あった方が盛り上がるな」
「だから、第一皇子が盗られると思ったら、マリーも焦るんじゃない? ちょうどいいことに、来年から同じ学校に通われるんでしょ?」
「おいおい、俺しかいないからって……ちゃんと敬称をつけろ。でも、いい案だな……」
反第一皇子派に陰で所属している家臣はニヤリと笑った。
「多くの子女たちに第一皇子を狙ったら結婚できるかもしれない、といったことを伝えて焚き付けるか……ついでにマリー様に冤罪をなすりつけるようにして、2人とも地に落としてやるか?」
「ふふふ。私は何も聞いてないわ。でも、そういうのが嫌いな皇后にはバラしちゃダメよ? うまく報告して?」
「おいおい、それでも皇后陛下の相談役かよ、わかったよったく」
ニヤニヤと相談している2人の足元に誰かの影が伸びてきて、肩を、軽く叩く。
「何か面白そうなお話をしてらっしゃいますね?」
「だ、だ、第二皇子!?」
「僕も混ぜてください? すごく興味があるなぁ」
「いや、これはその……」
「マリーお義姉様を悲しませるつもりなの?」
「いや、その、お二人に盛り上がっていただくために我々はせめてできることをさせていただこうと思いまして」
「ふーん? じゃあ、もう一度聞くよ? 僕のマリーを悲しませるつもりなの?」
「いえ、その、あの」
「まぁ、僕も好きにするから、2人も好きにしなよ? あぁ。母上には何も言わないでおいてあげるよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
去って行った後、2人は相談する。
「バラすかな?」
「バラさないって言ってたけど」
「バラすなら今ここで皇后のところに連れて行かれるよな?」
「それとも泳がせて証拠を固めようとしてるんじゃ……」
「僕のマリーと言ってたぞ?」
「待って、マリー様に手を出さなければ、バラさないって意味じゃない?」
「第一皇子が他の女に走ることは、マリー様を間接的に傷つけることになるんじゃないか?」
「……それなら、私たちはもう連れていかれてるわよ。マリー様と第一皇子が結ばれないことは推奨しているって意味じゃ……?」
「それだ! 見つからないようにこっそりやろう」