「オズはね、芸術面でも才能があるんじゃないかと……」
皇后は、謁見の度に息子の自慢を続ける。
しかし、2人の反応が芳しくなくなってきた。
「本当にすごいですわ、第一皇子は」
「……当たり前だ」
第一皇子は徐々に褒められることに慣れ、マリーも聞き飽きてきてしまったのだ。
「どうしましょう、効果がなくなってきたわ」
「今こそ、嫌味を言ってみたらいかがでしょうか?」
「でも、かわいいマリーにそんなことしたくないわ。小さな頃から娘のように思って見てきたのよ?」
「だからこそです。皇后陛下。娘のように思っているからこそ、行うべきです」
「わかったわ。2人のためなら、心を鬼にして、するわ」
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「オズは優秀なのよ。マリーはいかがなのかしら? 最近はきちんと勉学に励んでらっしゃるの?」
皇后陛下が第一皇子を可愛く思っていらっしゃることはしっかり伝わっておりました。
しかし、私のことを責めるような発言をなさるように、なっていらっしゃいました。
私、第一皇子をお褒めになられる皇后陛下のお姿は、微笑ましいような気持ちで拝見しておりましたわ。
私のことを批判するようにおなりになって……。はっ!? これが、“愛しい息子をよくも奪いやがって”というものですわね!? 私、理解いたしましたわ。
「母上、マリーにそのような発言なさらないでください」
第一皇子が庇ってくださいました。不覚にもお胸がキュンとしてしまいましたが、なりません。愛しい息子の守った女として、余計反感を買いますわ。
「大丈夫ですわ、第一皇子。私、わかっております」
後で、2人きりの時に、私のことは庇わないでください、と申し上げましょう。
そうすればきっと、皇后陛下も第一皇子のお気持ちが恋愛感情ではないと気づいてくださるはずです。
それとも、これが嫁姑問題というものなのでしょうか?
皇后陛下に疎まれてしまうと、私の結婚生活は不安でいっぱいですわね……。でも、私以外、立場の合う同年代の高位貴族がいないことをご存知なはずなのに……。はっ! 私としたことが、“かわいい息子たんをよくも”は、そのような常識を打ち破ってしまう感情由来のものでしたわ……。それは、仕方のないことですわね。
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「第一皇子、先ほどは庇っていただき、ありがとうございました」
「いや……」
「しかし、これからは大丈夫ですわ。皇后陛下は正しいことをおっしゃっていらっしゃいますもの。私も、次期皇后として相応しくなれるように、励みますわ」
「それは……」
「では、失礼いたしますわね」
勇気を出して愛しい女性を庇った第一皇子であったが、マリーにばっさりと断られてしまった。そのときの第一皇子の悲しそうな顔は……失恋でもしたかのようであった。
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「マリー、あなたももっとオズに相応しいようになさい?」
「はい。申し訳ございません」
「オズも何か言ってやってちょうだい?」
「……もっと励め」
「かしこまりました」
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「ねぇ! なぜかオズもマリーを責めているわ? どういうことなのかしら? 私、オズに確認してくるわ!」
「お待ちください。皇后陛下。説明いたしましょう。こういう作戦なのです。」
「まぁ! 作戦だったの? それなら、先に教えてちょうだいな!」
「はい。逆らうことのできない皇后陛下に、勇気を出して逆らった……そうすれば、身を挺して守る皇子様の出来上がりでございます。そのために、一時的に皇后陛下のお言葉を肯定するようになさっていらっしゃるのです」
「でも、それだとマリーには味方が誰もいないことになるわ? マリーが辛いでしょう? 私、そこまでしたくないもの」
「大丈夫ですわ。2人きりの時にはフォローするように伝えてありますわ。あと、第二皇子様がその場では守っていらっしゃるでしょう?」
「まぁ、フェルはマリーを本当の姉のように思っているから、守っているわね……でも、やはり、ここまでしないとダメなのかしら?」
「お辛いですわね、皇后陛下。わかりますわ。お二人のためですが……おやめになられますか? 私、今まで皇后陛下の相談役として精一杯努めてまいりましたが……間違ったことはございましたか?」
「ないわ! ごめん、疑ったつもりじゃなかったの。そうね、私2人のために頑張るわ」