皇帝との間には、いろいろあったものの、2人の皇子はとても愛らしい。
皇后は2人を愛し育てた。
特に、皇帝を疑うことなく愛し合った状態で産んだ第一皇子に、どうしても甘くなってしまう。皇后本人も気づかない程度ではあるが。
こんなにも可愛らしい愛息子たちは、浮気するような男にはならないと盲目的に信じていた。
常日頃、『お母様は浮気なんてしたら、絶対許しませんからね』と言い聞かせていた。
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3歳になった第一皇子を同じ年代や少し上の子供達と交流させようと考えた。友人ができたら、嬉しいだろう。
子供達の集まるお茶会を開催することとした。第二皇子はまだ幼いから留守番だ。
「息子のオズベルトですわ? よろしくお願いします」
「オズベルトでしゅ……」
皇后の影に隠れながら、小さな声で挨拶するオズベルト。かわいい、と、親たちが沸く。
「はじめまちて、マリリアントでちゅ。ウィナーベルこーしゃく家のマリーでちゅ」
少し恥ずかしそうに、ただ、笑顔を浮かべて挨拶するマリーの姿に、第一皇子は恋に落ちた。一目惚れだ。
集まった子供達の中でも一際目を惹く愛らしさだから、仕方ないだろう。
「マリーちゃん、かあいいね?」
他の公爵家の子供たちがマリーに声をかけている。この年の公爵家の子供はみんな男の子だ。
6才以上離れると公爵家でも女の子はいるにはいるが、もう皆婚約者が決まっている。
男爵家には令嬢がたくさんいるが、公爵家や皇子とトラブルになっては困ると親たちは近づけない。
「マリー、オズとあしょぼ?」
「いいでしゅよ? おーじしゃま」
マリーを取られてしまうと思った第一皇子が声をかけて、2人は遊び始めた。愛らしい姿に親たちも嬉しそうだ。
「あら? マリリアント嬢とオズベルト様は気が合ったようね?」
そう親たちが話している。そう言われると、第一皇子もマリーのことを、もっと気に入ってしまった。
その夜、第一皇子は皇后に頼み込んだ。
「おかーしゃま、おかーしゃま。僕、マリーとけっこんちたい! 僕、“浮気”なんてしないで、ずっとずっとマリーだけをたいせちゅにするよ?」
「まぁ、気が早いわね? オズがもう少し大きくなったら、お母様が公爵家に頼んでみましょうか? その前に、お父様にも頼まないとね?」
翌朝、第一皇子は皇帝に頼み込んだ。
「おとーしゃま、僕、マリーとけっこんちたい!」
「もう少し、大きくなったら、公爵家に相談してやろう」
皇帝も皇后も微笑ましく思っていたのは最初の数日だけだった。そこから、毎日毎日、第一皇子はマリーの話をし続け、結婚を頼み続けたのだ。
「こ、ここまで想っているなら仕方ないな。次期皇后を考えるには、3才ではまだ幼すぎると思ったが……身分的にも釣り合いが取れるのは彼女くらいなものだ。公爵家に相談してみようか?」
「そうしましょうか……」
少し疲れた表情の皇帝と皇后が、公爵家に相談しに行った。
「まだ幼くて、皇后に相応しい人物に育つとは限らない。他の公爵家にも子供が産まれる可能性があるからもう少し検討しては?」
公爵家の返答は、おおよそそのような物であった。正しく、その通りだ。
「おかーしゃま、おとーしゃま。マリーのおかーしゃまとおとーしゃまになんて言ってたの?」
「もう少し大きくなったらまたお話ししましょうって…………」
「いやぁぁぁあ! マリーと結婚ちたいーーー!」
大人しい第一皇子が暴れ回り、その後も毎日懇願する。仕方なく、再度公爵家に頼み込みに行き、仮という形で婚約が結ばれた。
「ぼくね、マリーのこと幸せにちゅるの!」
暴れ回っていた頃と打って変わってご機嫌な様子の第一皇子のマリーへの愛の微笑ましさに、皆が温かく見守っていた。