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新婚生活

 結婚から1年後、第一皇子を出産する。しかし、その妊娠中に皇帝は家臣の策略で他の女性に手をつけてしまう。


「なぜ、このようなことをした?」


「お言葉ながら、陛下。やはり、陛下の高貴な血筋を多く残さないわけにはまいりません」


「起こってしまったことはどうしようもない。皇后には決して伝えるな。妊娠中に精神的負担をかけ、子に何かあったらそれこそ其方の言う高貴な血筋を失うこととなるのだぞ? それと、彼女は何者だ? どうしてこのようなことをしたのだ?」


「寛容なお裁きありがとうございます。もちろん皇后陛下には内密にいたします。この者に関しましては、本人よりお話しさせてください。では、失礼致します」


 ニヤニヤと手を擦り合わせながら、家臣は去って行った。




「なぜ、このようなことをしたのか? 皇后と私の話は国内で有名で、其方が辛い思いをするだけだとわからなかったのか? その様子、私に想いを抱いているとは思い難い」

 震えながら、丸まる少女に皇帝は問いかける。


「誠に申し訳ございません。」


 少女の語る生い立ちは、皇帝の想像を遥かに超えていた幼い頃に両親を亡くし、孤児として生きてきた少女。

 路上で盗みを働き、時には泥で喉や腹を満たし、小鳥やネズミを捕まえて食べることができた日は大ご馳走と喜んで過ごしたそうだ。


 そんな折、少女や両親を探していたという祖母が現れ、少女を引き取って育ててくれたのだ。

 少女の父と母は元没落貴族と平民で、駆け落ち同然に結ばれたという。

 例え、没落しそうと言えども、腐っても貴族。路上生活と比べると天国のようであったという。


 しかし、その祖母は重い病に侵され、今まさに命の灯火が尽きるかという状況だという。少女の家にはその病を救うための医療を受けるための資金があるわけがない。まだ祖母から経営を引き継いでいない彼女が家を救えるはずがない。

 そんな折、声をかけてきた家臣に大変感謝しているそうだ。





 このようなことをしなければならなかったその少女の身上を聞き、皇帝は同情のままずるずると逢瀬を続けてしまう。


 男女の関係はなくとも、皇后にとっては裏切りであろう。


「自分を救ってくれた皇后のように、私も誰かを救えるだろうか」


 常々そう考えていた皇帝は、その少女を救うことに異常なほど熱い意欲を燃やしていた。

 また、孤児たちを救おうと少女からさまざまな話を聞き出す。

 まるで、出会った頃の皇后と皇帝のように……少女が皇帝に憧れ以上の感情を抱くのも、当然のことであった。




 情を抱いていたものの、皇帝の心までは少女に奪われなかった。しかし、後ろめたい気持ちはあったので、皇后には必死に隠していた。


 その少女は、手に入らない皇帝への想いを燻らせ、その愛を一身に受ける皇后への嫉妬を募らせ、ついには皇后に皇帝との逢瀬の証拠を残すなど少しずつ嫌がらせをしていった。

 その結果、皇后は手をつけたことを知ってしまい、その後の関係も続いていることを匂わされて激怒した。ひどい裏切りだ。


 命懸けで必死に皇帝との我が子を産み育ててる間の出来事だ。

 世間では安産といえども人生において最も痛い思いをし、乳母はいるものの、身体のダメージを負った状態で判明した出来事だ。

 しかも、トラウマを知っている愛している相手からの裏切り。許せるはずはない。




 また、わざわざ残された証拠から、少女の「皇帝は私と今も男女の仲にあります」という書き残しを信じ込んでしまう。

 皇帝に問い詰めると、男女の仲ではない。

 少女は可哀想な存在で、自分が救いたいのだと言う。


 肉体関係はなくとも、そんなどっちつかずの態度は皇后にとって契約違反でしかない。


 激怒して離婚を言い渡そうとする皇后に、愛しているのは君だけだと皇帝は言った。

 皇帝を愛していた皇后は、極度の鬱状態に陥りつつも、それでも尚別れられない。やっと母の気持ちを理解したのかもしれない。


 皇帝はその様子を見て深く反省し、少女との縁を切った。

 幸か不幸か、最初の一回で子をなすことはなかったようだ。

 皇帝は反省の意を示すために、自らを不能とすることも考えたが、皇子が1人だけでは何かあった時に世継ぎがいなくなってしまう。

 二度とこのようなことがないように、魔法で皇后以外を女性と認識させないように処置することとなった。

 その時の家臣は、皇家反乱罪として国外追放となり、少女も祖母と共に国外追放となった。



 その後、皇后は精神に詳しいという1人の友人にカウンセリングやケアを受けることで救われ、徐々に回復していった。

 回復した現在も継続して相談し続けるほど、信頼を寄せている。


ーーーー

 その騒動から2年後。第二皇子を妊娠した。後のフェルディアだ。


 他人に優しくした代わりに大切な人を苦しめたことを後悔した皇帝は反省は、ここで自身を不能とする。

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