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姑皇后の幼少期

 そもそも、皇后が浮気を絶対許せなくなったきっかけは、数十年前に遡る。


 皇后は、隣国の公爵家出身だ。両親は、政略結婚で結婚した。公爵家の一人娘の母に父が婿入りした形だ。

 ただし、母は父を愛していた。皇后も幼いときは、両親の愛を一身に受けて育ってきた。


 家族全員で旅に出たり、暑いときは屋敷の裏でこっそり水遊びをしたり……。



「お父様、だーいすき! お父様とけっこんするの!」


「ダメよ? お父様はお母様と結婚しているのよ?」


「お母様のいじわる! お父様は、私とお母様のどちらと結婚するの?」


「選べないなー? ただ、素敵な人と出会って、幸せになってほしいと願っているよ」


 温かい理想の家庭であったといえるだろう。

 皇后もいまだにあの頃の夢をよく見るという。




 しかし、10歳頃に両親が離婚することとなり、父は出ていった。原因は度重なる父親の不倫だ。


 徐々に増える夫婦喧嘩に、泣き喚く母。開き直って怒り始める父。それが10歳前後で皇后がよく見た家庭の風景だ。


「あなた! この女性はどなたなの? 先日、突然お越しになったのよ!」


「仕事の相手だ。いちいちいちいちうるさいな」


「まぁ! なんてこと!」


「お父様、お母様。おやめになって? お願いよ」


 最初は喧嘩を必死に止めていた皇后も、徐々に閉じこもって過ごすようになった。最後の頃は、子供心に傷を負いながらも、“またやってるわ。早く終わらないかしら。お母様、大丈夫かしら”と、早く終わることだけを考え、むしろ父が帰ってこないことを願っていたと言う。


 結局、不倫によって母は精神を壊し、離婚した頃には完全に病んでいた。毎日、父の幻影を求めて泣き喚いていた。

 なぜ、こんな男にそこまで愛を誓えるのだろう、と、皇后は疑問に思いながら過ごしていたらしい。





 18歳で、皇后は親戚である帝国の公爵家に引き取られる。それまでの間、執事たちに指示を仰ぎながら、公爵家の経営を、母のケアをしながら、自身の勉学をきちんとこなし、過ごしていた。

 広い屋敷の管理はメイドたちが中心に手助けしてくれていたが、10歳の皇后の身には、あまりにも重すぎる仕事量であった。

 皇后が18歳になった時に、周囲はやっとその状況に気づき、手を差し伸べたようだ。


 皇后が引き取られた後、母は医者に面倒をみてもらい、公爵家は親戚が管理してくれることとなっていたが、皇后が屋敷を出てすぐに、母は自殺してしまった。

 自分自身が離れてしまったから、母は亡くなったのだろうかと自責の念で、皇后も沈みがちになってしまった。

 その反動で、父を深く憎み、浮気をする男性のことが許せなくなった。




 例え、政略結婚はさせられたとしても、決して相手を愛しなどしない。できることなら生涯独身と思って過ごしてきた。

 皮肉にも、つらい暮らしで身につけた経営やさまざまな学問が、そのために役立ちそうだ。女1人、護衛に守られなくとも身を守るためにも、剣術等の訓練もしようと皇后は決意していた。

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