俺という人間を表すのならば「平凡」という言葉で表せられると思う。それほどまでに何をやってもいつも平均程度の結果しか生むことが出来ないでいる。
小学生の時、小さい頃は足が周囲の人よりも少しだけ早かったので、調子に乗りサッカー何て始めたけど、足が速いだけでは何もできるはずもなく、そのうち大きくなった体格の人達に敵わなくなって辞めてしまった。
いや。サッカーを辞めたのは正確にはそれだけが理由じゃないんだけど……。
中学生になっても身長が伸びる事も無く、体格が小さい事で困る事も多くなったけど、中学二年生でぐっ!! と遅れていた成長期が始まった。
体格的に追いついて来たけど、その頃になるともう『身体能力』だけが目立つようなものじゃ無くなっていて、早ければ高校受験に向けて成績が良い奴らが目立ちもし始める。
俺は勉強することは好きだけど、自分で進んでするという事は苦手で、どちらかというと嫌いかな? だから予習復習なんてするはずもなく、学校でする勉強で止まっているから、成績が上がる事はないので中位程度をさまよっていた。
それでも高校受験に向けて追い込みは少し掛けたけど、自分が『行きたい』学校ではなく、『行けそうなところ』に絞って受験したから何とか合格する事はできた。
そんな俺
校門を抜け、案内に従って入学式に付き添ってくれた母さんと共に学校敷地内へと入っていく。
「緊張してる?」
「緊張? 何で?」
「何でって……。今日は入学式なのよ?」
「あぁ……。別に入学式ってだけで小学生も中学生でも経験してるからなぁ……」
「はぁ……。どうしてそんな風に育っちゃったのかしらねぇ……」
「うぅ~ん……でも間違いじゃないだろ?」
「まぁ? 確かにそうだけど……」
一緒に歩く母さんと話しながら、まずは自分の苦明日がどこなのかを確認し、「あ、アイツも一緒のクラスか……」と心の中で少しだけホッとした。
「よう拓!!」
「ん? おう……柊斗」
「ん? なんだよ元気ねぇな!! そんなんじゃせっかくの高校生ライフが台無しになるぜ?」
「ほっとけ!! 俺はいつもと一緒だからな」
「あはははははは!! そうだな!! そうでなくちゃ拓じゃねぇ」
背中越しに声を掛けて来たのは一応の幼馴染である
俺達が二人で話し込んでいる少し離れた所では、柊斗のお母さんと俺の母さんがお辞儀を交えつつ和やかに話をしていた。
暫くはそこで時間を使っていたけど、人もあとからあとから来るという事で、一端俺達と付き添いの保護者は別々の場所で待機する事になるので移動する。
俺達は各自の割り振られた教室へ。母さんたちは体育館へと歩いて向かう事にした。
「ところでよぉ……」
「ん?」
「クラス割見たか?」
「さっき見ただろ?」
「そうじゃなくってさ!! 女子だよ女子!!」
「あぁ……見たような見て無いような……」
「なんだよハッキリしないなぁ!!」
「だって記憶にねぇもん」
教室へと続く廊下を歩きながら、いかにもワクワクしてます!! といった感じの柊斗。それとは反対にあまりテンションの上がらない俺。
「女子がどうしたんだよ?」
「それがな!! 聞いて驚け!!」
「おぉ……?」
「
「真下?」
「そう!! 真下!!」
「ふぅむ?」
「あれ?」
おいおいどうした!! みたいな顔しながら俺の方を見る柊斗。
「その真下さん? がどうしたんだよ?」
「ほら去年の秋頃に話題になってただろ?」
「話題に? なんの?」
「隣りの市の中学校から全国大会に出た二人の中学生が居るってだよ」
「そういえば……あったなそんな話……」
柊斗の話を聞きながら、去年の事を思い出す。
柊斗の言った通り、確かに昨年の秋頃になってそういう話を聞いたことが有った。
確か一人は短距離走で、もう一人はハードルの選手として、全国大会に出た女の子がいるとかなんとか。
いや、実のところを言うと、全国大会に出るとかうんぬん言われる前から、ウチの学校の陸上部男子も女子もその子達の事を話しているのを何度か聞いたことが有る。
自分達のタイムとはひとレベル違う速さで圧倒した女子二人がいるという事と、その見た目の事。
女子部員たちは席が近い事もあって、凄いとかくらべられるのが損だよねとか、記録の事が話題になる事が多かったのに対して、男子部員たちはカレシが居るのかとか、アイドルになるんだとかいろいろな色恋的な噂が大半だった。
それを聞きながらも、俺とはどこか遠い世界の出来事を話しているような感覚に陥っていたことを覚えている。
「で?」
「でって……。いやまぁ
「持てねぇ。だって俺には関係ねぇからな」
「そうでも無いぜ?」
「あん?」
「ほら……」
そう言って柊斗が顎でくいっと先を促すので、視線だけを向けると、スッととある教室へと入っていく女子生徒の姿が見えた。
あまり良くは見えなかったけど、黒いサラッとした髪が動きと共にキラッと輝いて見えたのは気のせいではない気がしている。
「ん?」
「あれがその噂の一人、真下瞳ちゃんだよ」
「へぇ~……。って、あれ? あの教室って……」
「そう!! 今気が付いたか? なんと俺達とクラスメイトなのだ!!」
「あっそう……」
「冷た!!」
「いやだってよう。柊斗と一緒の学校に行く事になったのはいいとして、まさか同じクラスになるとは思ってなかったし、それに何? 噂の美少女陸上選手とか、勘弁してほしい……」
「そういうなって!! この学校は2年生の時にクラス替えがあるから、その時まで一年間は一緒だぜ」
「はぁ……。早く来年にならねぇかな……」
「……変わらねぇな拓は」
「まぁな」
大きなため息をつきながら、俺は自分のクラスへと入っていく。俺と一緒に柊斗も入って来たけれど、この入った瞬間に一斉に向けられる視線というのがどうも苦手だ。
そうは思ってないだろうけど、どうにも『品定め』されているような気分になる。
黒板に書かれた名前を基に自分の席へを探して歩く。
そうして辿り着いた自分の席へと荷物を置き、一息入れた所で少し視線を前に向けると、隣りから先ほど見かけた長い黒髪が目に入った。
――あれ? この子もしかして……。
そう思っていると、不意に隣の席の子が俺の方へと視線を向けた。
「なに?」
「え?」
「あなたが見えるから。で何かしら?」
「あ、えっと……何でもないけど。よろしくね」
「うん。でも……何でもない……」
そうとだけ言うと彼女はスッと正面へと顔を戻し、一人俯いた。
「………」
俺はその後も何も言葉がでず、しばらく彼女の横顔を見ていたけど、ハッとして慌てて視線を戻し、机に置いておいた荷物を片づける。
――なんでそんなに悲しそうな顔をしてるんだよ……。
俺が一番最初に彼女へと抱いた感想。
これが俺と『猫な彼女』の初対面だった。