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第30話 恋の迷走、千秋編

 放課後の屋上。夕陽が赤く校舎を染め、吹き抜ける風が肌寒さを運ぶ。私は、わけもわからずここへ連れてこられた。


「……何なのよ、早乙女さん?」


 戸惑いと苛立ちを隠せずにそう問いかけると、真珠は私の前に立ち、にこりと微笑んだ。


「あのね、千秋ちゃん」


 なぜか少し楽しそうに話し始める彼女に、私は警戒心を強める。


「私ね、千秋ちゃんの恋を応援したいなって思ってるの!」


「は……?」


 思わず眉をひそめた。何を言ってるの、この子?


 応援? どういうこと? そもそも何のつもりでこんなことを言ってるの?


「え、なんか変なこと言った? だって優、千秋ちゃんのこと本当に好きなんだから、千秋ちゃんの恋を応援するのは普通でしょ?」


 ……何なの、この子。なぜそんな当然のように言えるの?


「ちょっと待ってよ……応援って、どういうこと? なんであなたがそんなこと言うの?」


 私は思わず語気を強めた。彼女が優斗とどんな関係なのか、なぜここまで首を突っ込んでくるのか、まるで理解できない。


「だって、優が千秋ちゃんのこと好きだから。千秋ちゃんのこと大事に思ってるから、私もちゃんと応援しなきゃって思ってたんだけど……」


 淡々と語る彼女に、胸の奥がざわつく。


 だけど、その次の言葉で、私は完全に思考を止めた。


「でもね、なんかおかしいんだよね。優って千秋ちゃんの話をする時、いつも辛そうな顔をするの」


 は……?優斗が? 私の話をするときに、辛そうな顔をする?


「そ、それは……早乙女さんには関係ないでしょ」


 無意識に声が冷たくなる。意味がわからない。優斗がそんな顔をする理由なんて……。


 何を根拠にそんなことを言うのか。そもそも、優斗と彼女はどういう関係なの?


「だからさ、もし千秋ちゃんが本当に優を幸せにできないのなら——」


 次の瞬間、彼女の言葉が私の思考を一気に引き裂いた。


「私が優を奪っちゃうかもよ?」


 ……え?


「……は? ちょっと待ってよ」


 意味がわからない。


 この子、今何を言った?


「まさか、あなた、優斗君のこと好きなの!?」


 混乱したまま問い詰める。だって、そうとしか思えないじゃない。彼氏を奪うなんて、普通そんな言葉が出てくる?


「えっ……?」


 だけど、真珠は本気で驚いたように目を瞬かせた。


「す、好きって……私が、優を?」


 ……この子、もしかして自覚がない?


「だって今、奪うとか言ったじゃない。優斗君が好きだから奪うって意味じゃないの?」


 半ば呆れながら詰め寄る。けれど、彼女の反応は私の想像を超えていた。


「え……私……優のこと好きなのかな?う~ん……」


 本気で悩み始めた。


「なんでそこで悩んでるのよ!」


 私は思わず声を上げる。


 何なの、この子……!?


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