放課後の屋上。夕陽が赤く校舎を染め、吹き抜ける風が肌寒さを運ぶ。私は、わけもわからずここへ連れてこられた。
「……何なのよ、早乙女さん?」
戸惑いと苛立ちを隠せずにそう問いかけると、真珠は私の前に立ち、にこりと微笑んだ。
「あのね、千秋ちゃん」
なぜか少し楽しそうに話し始める彼女に、私は警戒心を強める。
「私ね、千秋ちゃんの恋を応援したいなって思ってるの!」
「は……?」
思わず眉をひそめた。何を言ってるの、この子?
応援? どういうこと? そもそも何のつもりでこんなことを言ってるの?
「え、なんか変なこと言った? だって優、千秋ちゃんのこと本当に好きなんだから、千秋ちゃんの恋を応援するのは普通でしょ?」
……何なの、この子。なぜそんな当然のように言えるの?
「ちょっと待ってよ……応援って、どういうこと? なんであなたがそんなこと言うの?」
私は思わず語気を強めた。彼女が優斗とどんな関係なのか、なぜここまで首を突っ込んでくるのか、まるで理解できない。
「だって、優が千秋ちゃんのこと好きだから。千秋ちゃんのこと大事に思ってるから、私もちゃんと応援しなきゃって思ってたんだけど……」
淡々と語る彼女に、胸の奥がざわつく。
だけど、その次の言葉で、私は完全に思考を止めた。
「でもね、なんかおかしいんだよね。優って千秋ちゃんの話をする時、いつも辛そうな顔をするの」
は……?優斗が? 私の話をするときに、辛そうな顔をする?
「そ、それは……早乙女さんには関係ないでしょ」
無意識に声が冷たくなる。意味がわからない。優斗がそんな顔をする理由なんて……。
何を根拠にそんなことを言うのか。そもそも、優斗と彼女はどういう関係なの?
「だからさ、もし千秋ちゃんが本当に優を幸せにできないのなら——」
次の瞬間、彼女の言葉が私の思考を一気に引き裂いた。
「私が優を奪っちゃうかもよ?」
……え?
「……は? ちょっと待ってよ」
意味がわからない。
この子、今何を言った?
「まさか、あなた、優斗君のこと好きなの!?」
混乱したまま問い詰める。だって、そうとしか思えないじゃない。彼氏を奪うなんて、普通そんな言葉が出てくる?
「えっ……?」
だけど、真珠は本気で驚いたように目を瞬かせた。
「す、好きって……私が、優を?」
……この子、もしかして自覚がない?
「だって今、奪うとか言ったじゃない。優斗君が好きだから奪うって意味じゃないの?」
半ば呆れながら詰め寄る。けれど、彼女の反応は私の想像を超えていた。
「え……私……優のこと好きなのかな?う~ん……」
本気で悩み始めた。
「なんでそこで悩んでるのよ!」
私は思わず声を上げる。
何なの、この子……!?