屋上の風が心地よく吹き抜ける。
僕と真珠は、まるで世界から切り離されたかのような、二人だけの空間にいた。
「ねえ、優?」
真珠が僕の顔をじっと覗き込む。
「な……なに?」
さっきまでのやりとりで、僕はすでに顔が熱くなっていた。 正直、これ以上彼女と話すのは心臓に悪い。
でも、真珠はニコッと笑って―― 次の瞬間、僕の手をそっと握った。
「……っ!」
思わず息を呑む。
「本当に、見つかってよかった。」
その言葉は、まるで宝物を探し当てた子供のような、純粋な喜びに満ちていた。
僕は何も言えず、ただ彼女を見つめることしかできなかった。
「ずっと会いたかったんだよ?」
彼女の瞳が真っ直ぐ僕を射抜く。真珠の言葉の一つ一つが、胸の奥に深く染み込んでいく。
「……でも、僕なんかに会っても……」
思わず口をついて出た言葉。
真珠の眉がピクリと動く。
「僕は……みんなに嫌われてるし、気持ち悪い奴だって思われてる……」
自分で言いながら、胸の奥が痛くなる。
そんな僕を見て、真珠は少しだけ口を尖らせた。
「私言ったよね!?」
彼女は手を離すと、両手を腰に当て、得意げな顔をする。
「そんな真っ黒な学園生活、全部塗り替えちゃおうよ!って……これからは、私がいるから大丈夫!」
「え……?」
「私が優の味方になるし、全部ひっくり返してやる!」
そう言い切る彼女の顔は、とても自信に満ちていた。
「でも……そんなことできるわけ……」
「できるよ?」
真珠は僕の言葉を遮るように、強く言い切った。
「だって、私、スピカだもん!」
真珠は自信たっぷりに笑った。まるで自分の力を信じて疑わないかのように、輝く瞳で僕を見つめてくる。
……そうだった。 彼女は、あのスピカだ。 ただの人気歌い手じゃない。 彼女の歌には、人の心を動かす力がある。
僕だって、何度も救われた。 彼女の歌に――彼女の存在に。
「優、もう一度信じてみない?」
彼女は、まるで僕の心の奥底まで見透かしているような目をしていた。
「私がいるから、きっと大丈夫だからさ!」
その言葉に、僕の心はぐっと引き寄せられた。どこか遠ざけていた感情が、少しずつ解けていくような気がする。
「ほんと、スピ……いや、早乙女さんって強引」
そう言おうとした瞬間、真珠がすばやく人差し指を僕の唇に当てた。
「ねぇ、優?」
真珠は人差し指を僕の口元に当て、いたずらっぽく微笑んだ。
「私のこと、真珠って呼んでよ?」
「え、いや……」
戸惑う僕を見て、真珠はじれったそうに軽くため息をつく。
「ほら、恥ずかしがらずに!」
彼女のキラキラした瞳に見つめられ、言葉が喉に詰まる。
「し……」
「うん、あと少し!」
「真……」
「もう一声!」
「……真珠」
なんとか口にすると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「よろしい!」
得意げに言いながら僕の肩をポンと叩き、少しはにかんだように笑う。
それを見て、僕もつられるように笑ってしまった。
「ふふ、優って照れると可愛いね!」
真珠は無邪気に笑う。
その屈託のない笑顔が可愛くて、思わず目を細めてしまう。
こんなやり取りが、懐かしくてたまらない。ずっと忘れていた楽しさが、胸の奥からじんわりと蘇ってくる。
……もしかしたら、彼女となら、もう一度学園生活をやり直せるかもしれない。