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第5話 スピカの約束

屋上の風が心地よく吹き抜ける。


 僕と真珠は、まるで世界から切り離されたかのような、二人だけの空間にいた。


「ねえ、優?」


 真珠が僕の顔をじっと覗き込む。


「な……なに?」


 さっきまでのやりとりで、僕はすでに顔が熱くなっていた。 正直、これ以上彼女と話すのは心臓に悪い。


 でも、真珠はニコッと笑って―― 次の瞬間、僕の手をそっと握った。


「……っ!」


 思わず息を呑む。


「本当に、見つかってよかった。」


 その言葉は、まるで宝物を探し当てた子供のような、純粋な喜びに満ちていた。


 僕は何も言えず、ただ彼女を見つめることしかできなかった。


「ずっと会いたかったんだよ?」


 彼女の瞳が真っ直ぐ僕を射抜く。真珠の言葉の一つ一つが、胸の奥に深く染み込んでいく。


「……でも、僕なんかに会っても……」


 思わず口をついて出た言葉。


 真珠の眉がピクリと動く。


「僕は……みんなに嫌われてるし、気持ち悪い奴だって思われてる……」


 自分で言いながら、胸の奥が痛くなる。


 そんな僕を見て、真珠は少しだけ口を尖らせた。


「私言ったよね!?」


 彼女は手を離すと、両手を腰に当て、得意げな顔をする。


「そんな真っ黒な学園生活、全部塗り替えちゃおうよ!って……これからは、私がいるから大丈夫!」


「え……?」


「私が優の味方になるし、全部ひっくり返してやる!」


 そう言い切る彼女の顔は、とても自信に満ちていた。


「でも……そんなことできるわけ……」


「できるよ?」


 真珠は僕の言葉を遮るように、強く言い切った。


「だって、私、スピカだもん!」


 真珠は自信たっぷりに笑った。まるで自分の力を信じて疑わないかのように、輝く瞳で僕を見つめてくる。


 ……そうだった。 彼女は、あのスピカだ。 ただの人気歌い手じゃない。 彼女の歌には、人の心を動かす力がある。


 僕だって、何度も救われた。 彼女の歌に――彼女の存在に。


「優、もう一度信じてみない?」


 彼女は、まるで僕の心の奥底まで見透かしているような目をしていた。


「私がいるから、きっと大丈夫だからさ!」


 その言葉に、僕の心はぐっと引き寄せられた。どこか遠ざけていた感情が、少しずつ解けていくような気がする。


「ほんと、スピ……いや、早乙女さんって強引」


 そう言おうとした瞬間、真珠がすばやく人差し指を僕の唇に当てた。


 「ねぇ、優?」


 真珠は人差し指を僕の口元に当て、いたずらっぽく微笑んだ。


 「私のこと、真珠って呼んでよ?」


 「え、いや……」


 戸惑う僕を見て、真珠はじれったそうに軽くため息をつく。


 「ほら、恥ずかしがらずに!」


 彼女のキラキラした瞳に見つめられ、言葉が喉に詰まる。


 「し……」


 「うん、あと少し!」


 「真……」


 「もう一声!」


 「……真珠」


なんとか口にすると、彼女は満面の笑みを浮かべた。


 「よろしい!」


 得意げに言いながら僕の肩をポンと叩き、少しはにかんだように笑う。


 それを見て、僕もつられるように笑ってしまった。


 「ふふ、優って照れると可愛いね!」


 真珠は無邪気に笑う。


 その屈託のない笑顔が可愛くて、思わず目を細めてしまう。


 こんなやり取りが、懐かしくてたまらない。ずっと忘れていた楽しさが、胸の奥からじんわりと蘇ってくる。


 ……もしかしたら、彼女となら、もう一度学園生活をやり直せるかもしれない。

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