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第4話 隠したくても光るもの

「みーっけ!」


 真珠の声が響いた瞬間、屋上の空気が弾けたようにざわめいた。


 「え、誰か見つけたの?」

 「何が? ていうか、何探してたんだ?」

 「もしかして……?」


 下の校庭からも、教室の窓からも、多くの生徒たちが彼女を見上げている。


 そして、その注目の先にいるのは――僕だった。


 屋上から見下ろす真珠の瞳が、まっすぐに僕を捉えている。

 風に舞う白金色の髪、その中で輝くような笑顔。


 「優!」


 その声に、僕の胸が強く揺さぶられる。

 目の前の光景が、夢のように感じた。


 ――いや、これは現実なんだ。


 だけど……


 「なあ、あいつの名前……確か天川優斗だろ?」

 「え、じゃあ、探してた"優"って……」

 「天川って、あのストーカーの?」


 周りの生徒たちがひそひそと話し合い、視線がどんどん僕に集まっていく。

 気まずさと焦りが混じる中、真珠はそんなことはまったく気にせず、満面の笑みで言った。


 「やっと会えた!」


 彼女がそう言って駆け出したのが見えた瞬間、僕はとっさに教室を飛び出した。


 ――このままじゃ、みんなの前で何を言われるかわからない。

  何か誤解される前に、とにかく彼女のもとへ行かないと……!


 廊下を駆け抜け、非常階段を駆け上がる。

 足音が響く中、胸の奥で心臓の鼓動がどんどん速くなる。


 屋上への扉を勢いよく押し開けると、強い風が頬を撫でた。


 ――そして目の前に、真珠がいた。


 「優!」


 彼女がぱっと振り向き、嬉しそうに駆け寄ってくる。

 キラキラと輝く笑顔に、僕の胸がぎゅっと締めつけられた。


 「さっきの歌……最高でした!」


 心からの思いが、口をついて出た。


 真珠の目がさらに輝く。


 「ほんとに!? 良かったぁ!」


 胸に手を当て、ほっと息をつく彼女。


 「私、初めて聴いた時からあの歌が大好きなの! ずっと歌いたくてうずうずしてたんだよ!だからね、早く完成させて! 私に歌わせてよ!」


 彼女が一歩踏み出し、勢いよく詰め寄ってくる。


 「え、えっと……」


 どうしよう。

 彼女の熱量に圧倒されそうになりながら、僕はなんとか言葉を探す。


 「えっと……その……もう少し手を加える予定で……」


 「じゃあすぐやって!」


 即答だった。


 「えぇ……」


 思わず困惑の声が漏れる。

 そんな僕をじっと見つめていた真珠が、ふと何かを思い出したように、首を傾げた。


 「あ、そういえば……」


 僕の顔を覗き込むようにしながら、彼女がにっこりと微笑む。


 「ねえ、あの曲のタイトルってなんていうの?」


 ――その瞬間、僕の思考が止まった。


 タイトル……

 それは、歌い手界隈で、一際輝く乙女座の星、スピカを思って僕がつけた名前――


 『君は僕の一等星』


 つまり……彼女自身を想って作った曲だった。


 「……」


 言えない。

 恥ずかしすぎる。


 顔が一気に熱くなるのを感じながら、僕はぎこちなく視線を逸らした。


 「え? なに? なんで黙るの?」


 不思議そうに首を傾げる真珠。

 僕が答えないのが気になったのか、彼女はさらに詰め寄ってくる。


 「ねえねえ、教えてよ!」


「……いや、その……」


 僕はしどろもどろになりながら、必死にごまかそうとする。


 「えっと……まだ決めてなくて……」

 「うそだ!」


 即座に否定された。


 「優Pの曲って、タイトルもしっかり考えてから作ってるじゃん!だからもう決まってるはず! で、何? 何なの?」


 う、鋭い……!

 やばい、このままじゃ絶対バレる。


 「そ、それは……」


 なんとか誤魔化そうとするけれど、真珠は一歩も引かない。


 「えー、教えてよー! ねえねえ!」

 「……」

 「ねえってば!」

 「……」

 「教えてくれないなら、勝手にタイトルつけちゃうよ?」


 「えっ……」


 僕が驚いて顔を上げると、真珠はいたずらっぽく笑っていた。


 「じゃあね~、えっと……『スピカのためのラブソング』!」


 「なっ!?」


 顔が一気に熱くなる。


 「ち、違う! そんなんじゃない!!」


 「じゃあ何なの?」


 「えっと……その……!」


 「ほら、言えないってことは、やっぱり私のためのラブソングなんでしょ~?」


 「違う! 違うから!!」


 「へえ~? そうなの~?」


 「だから違っ……!」


 「ふふっ」


 僕が必死に否定している間に、真珠は嬉しそうに笑っていた。

 くるくると風になびく髪を押さえながら、楽しそうに僕を見つめてくる。


 「ねえ、優、そんなに照れること?」


 「……っ」


 ……もう、ダメだ。


 まともに顔を見られない。

 このままだとずっとからかわれる気がする。


 「と、とにかく! まだタイトルは秘密です!」


 「えー、ケチ~!」


 ふくれっ面をする真珠。

 だけど、その表情はどこか楽しそうで、まるで無邪気な子供みたいだった。


 僕はそんな彼女を見ながら、心の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。


 彼女はまるで、僕の世界を明るく照らす光みたいだ。


 ……だからこそ、このタイトルを、彼女に素直に伝えられる日が来るといいな。


 そんなことを思いながら、風に吹かれる空を見上げた。


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