目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第十七話 完 後編

「憑依ってことですか?」

「そういうこと」

「憑依って、そんな馬鹿なこと」

 小萱は、目の前で起こっていることを受け入れられないようだ。

「あんたの方が馬鹿でしょ。なんで信じられないの?」

「そんなのありえないでしょ?」


「あるないで言い争ってても、時間の無駄ですね。なんで殺そうと思ったのか、教えてくれませんか?」

 浅霧が言った。

「昔から、お姉ちゃんお姉ちゃんうるさかった。まぁ、無視すればどうとでもなったけど、成長していくにつれて、周りがね。私はなにも悪くないのに、気持ち悪がって。いっつも変な目で見られて、陰で噂されて。それで、引きこもった。


 だけどね、もっと関わるようになってきて。離れればよかったのにとか思ってるんでしょ? そんな簡単じゃない。将来も不安だし、なにやっても関わってくるし、そんなこんなで呆れるの通り越して、何もかもが爆発した。もう殺してやろうって。そしたら、返り討ちにあっちゃった」


「わかりました。何度も首を絞めたのは、なんでですか?」

「そりゃあ、嫌がらせに決まってるでしょ? 首絞めて何度も起こして、苦しめてやろうと思った。丁度死神が助けてくれたから、愛実をもっと苦しめられた。でもまぁ、あんまりスッキリしなかったけどね。そんなときに、こいつの体を乗っ取って生活できれば、あいつがいない人生を送ることが出来ると思って」


「それでは、愛実さんが死んだものと同じじゃないですか? 約束と違うと思いますが」

「違くないでしょ? ”貰う”としか言ってない。まだあいつはこの中にいる。気持ち悪くて仕方がない」


「貰うって?」

「それは死神に聞いて」

「死神って?」

「あんたにゲームを仕掛けた張本人」


 霊能力者が言っていた死神という存在が、どうやら的中だったようだ。恐らく、あの透明人間と呼んでいた人物だろう。知らない情報も知っている、これは間違いない。今まで抑えていた感情が溢れ、衝動に身を任せて問い詰めた。


「だったら、埋まってるところを言え」

 こちらに視線を向けるも、黙ったまま。さらに追い打ちをかける。

「答えろ」

「他に聞きたいことはないの?」

 視線を粗里と帆野の間に向けた。奥から声がした浅霧の方向を見ているのだろう。

「愛実さんの命が掛かってる」

「私たちの首を絞めたのは?」


 そのまま浅霧が話を進めた。不快感を残したまま、不可抗力的に話を聞くことになる。

「死神に言われて」

「狙いは?」

「それは自分で考えて。あとは本人に聞いて」


「まだ手を組んでるって考えてもいいんですね」

「そうだね」

 浅霧は、そのまま階段を下りていく。粗里と小萱の様子が気になって視線を向けるも、粗里は先に歩いていった。頭に来ていた帆野は、きつく問い詰める。

「いい加減場所を教えろ」


「うるさいなぁ、掘れば済む話でしょ?」

 堪忍袋の緒が切れ、胸倉をつかもうと迫るも、小萱に止められる。

「急ぎましょう」


 共に庭へと急いだ。投げ捨てた二本のうち、一本のシャベルを手に持って、リビング前に位置する場所に足を止める。浅霧は、ここから見えない場所――恐らく、帆野がストーカーの有無を聞き出すために使っていた部屋の奥側、丁度その部屋を入って左手に位置する庭に粗里。帆野は、リビングの窓が見える位置。粗里と挟んで小萱が穴を掘った。道路側を背にして、帆野は始める。


「掘れば済む話って言ってました」

 小萱は、どうも先ほどしていた発言が気になるらしい。

「え?」

「答えを言ってるようなもんですよ」

「そうですね。でもやっぱり、どこかわからないんですよね」

「本当に庭で間違いないんですか?」


 それに答えようとしたが、寸前のところで思いとどまる。ハッキングして記録データを盗み見たとは、さすがに言えない。が、そのあとの会話を想像すると、とてもじゃないが穴を掘ることに集中できない。しかし、誰も答えなかった。それはそれで怪しまれそうで、不安も止まらなくなった。うまくごまかして、答えようかと模索する。


「勘ですか……」

 小萱が勝手に納得してくれたことに、少しばかりホッとしたが、それも一瞬のことだった。頭の中に、小萱という人間がどういう人物かを想像してしまう。ここで無理には聞き出せず、わからないふりをしてやり過ごし、なにか探っているのではないかと。


 小萱を呼ぶのは、不安もあった。SDカードを入手した方法を聞かれれば、説明に困る上、映像では恣意的に死んでいることを示しているが、あくまでその程度であるということ。つまり、何故死んでいると思っているのか、という点。聞こうと思えば聞けるのに、小萱は一切聞かずにことを進めている。ますます掴めない。


 様子が気になった帆野は、小萱の方へと視線を向ける。黙々と穴を掘っているようだ。帆野の視線に、気がついているかどうかはわからない。作業を開始しようと視線を戻そうとした時、窓を開けて座り込んでいる香奈の姿が映った。悠々とした態度で眺める姿に煽りすら感じて、怒りが沸騰しかける。


「どこに埋められているかぐらい、教えてくれませんか?」

 小萱の声が聞こえる。手を止めて、香奈の方を見ていた。やはり、なにも答えない。

「質問が悪かったですか? 場所は家で、と聞けばよろしいですか?」

「そう。この庭のどこか」


 庭、というのは答えるようだ。狙い通りと言えばそうなのだが。庭の具体的な場所は言わないのに、山や家などの場所なら言う。やはり、死神が関わっているというのは明白のようだ。人を挑発する、ゲーム感覚でやっている。


 土に怒りのエネルギーをぶつける如く、力強く掘っていく。スッキリしたのか、次第に頭が冷えていったと同時に、不安がよぎる。もし、死体に傷が付きでもしたら。そんな罰当たりなことは出来ない。我に返って少しばかり力を抑えた。


    ・  ・  ・


 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。不安はあるものの、満足する地面の深さまで掘った後、別の場所へと移動して穴を掘る。そこまで庭自体は広くないため、見つかるのも時間の問題なはずだ。時計を確認すると、二十一時半を回っている。リミットまであと三十分ということか。


 他のメンバーも、もしかしたら二つ目の場所を掘っている人間がいるかもしれない。四人がかりでやっていて、これほどの時間が経つとは思いもしなかった。もっと奥深くに掘られているのだろうか。そうだとすると、これまた時間がかかってしまう。焦燥感ばかりが募っていった。


「ねぇ、まだ見つからないの? 私はどっちでも良いんだけど」

 シャベルを地面に突き刺し、一歩一歩を踏みしめて香奈に近づいていく。その様子に気が付いた、小萱が力ずくで静止した。さすが警官ともあって力はある。

「いい加減にしろよ!」


 腸が煮えくり返るも、香奈は徹底して態度は変わらない。小説を読んで、足を庭側に投げ飛ばしたまま、リビングと庭をまたいで寝転がっていた。

「今は探してください。お願いします」

 小萱を突き飛ばすなどの、危害を加えて引き離すほどの気持ちはないが、出来ることならこのままいかせてほしい。


「死体を見つければ、相手に復讐できます。それで借りは返しましょう」

 浅霧の言葉で、すうっと気持ちが引いていく。元の場所へ戻って、掘り進めたその時だった。「あ」と、粗里が声を出す。鼻を腕で抑えた粗里が見える。近づいて穴に視線を向けるも、まだなにも姿が見えていないが、臭いが上がってきているために間違いはない。これ以上、掘り進めるのはということで、後は小萱に任せることにする。


 小萱の方へと視線を向けると、死体を確認せずにスマホで連絡をした。残り十五分と言ったところ。ひとまず、愛実の命を救えたことは胸を撫で下ろせる。結局のところ、それは香奈の配下の元でという非常に後味の悪い終わりになった。小萱が電話を終えたところで、香奈に声を掛けた。


「じゃあ、約束通り」

「うん。わかってると思うけど、”愛実は貰わない”ってだけで、私が憑依しないとは言ってない」

 ぐっと拳を握る。あまりに卑怯ではないだろうか。

「この体は私の物。流石に、あんな体は嫌だしね」

「いいんですか? その体は殺した側。嫌ではありませんか?」


 浅霧はそう問う。

「別に。生きられるのなら、これくらいのリスク」

 答えて、本棚がある隣の部屋へと移動していった。なんだか無性に悲しくなった。家族そろって笑っていたあの姿を、もう一度見たくなる。リビングにあるテレビの元まで行くが、妙な違和感が心に産まれる。


 ある一人を除く、誰もかれもがその写真から消えていた。恐る恐る手に持って、はっきりと視界いっぱいに写す。気のせいではない。視力も悪くないが、さすがに自分の目を疑った。隅々とじっくり確認しても、未だなおそれを受け入れられない。


 その後、警察が来て三人の指紋と事情聴取をした後、浅霧の事務所へと戻った。


 翌日。帆野の自宅でテレビを見ていると、ニュースでは”立て続けに起きていた、植物人間の一部犠牲者が息を吹き返す”と報道されていた。その約束はどうやら守ったらしい。しかし、早海の事も含めて、モヤモヤとした感情が残った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?