「憑依ってことですか?」
「そういうこと」
「憑依って、そんな馬鹿なこと」
小萱は、目の前で起こっていることを受け入れられないようだ。
「あんたの方が馬鹿でしょ。なんで信じられないの?」
「そんなのありえないでしょ?」
「あるないで言い争ってても、時間の無駄ですね。なんで殺そうと思ったのか、教えてくれませんか?」
浅霧が言った。
「昔から、お姉ちゃんお姉ちゃんうるさかった。まぁ、無視すればどうとでもなったけど、成長していくにつれて、周りがね。私はなにも悪くないのに、気持ち悪がって。いっつも変な目で見られて、陰で噂されて。それで、引きこもった。
だけどね、もっと関わるようになってきて。離れればよかったのにとか思ってるんでしょ? そんな簡単じゃない。将来も不安だし、なにやっても関わってくるし、そんなこんなで呆れるの通り越して、何もかもが爆発した。もう殺してやろうって。そしたら、返り討ちにあっちゃった」
「わかりました。何度も首を絞めたのは、なんでですか?」
「そりゃあ、嫌がらせに決まってるでしょ? 首絞めて何度も起こして、苦しめてやろうと思った。丁度死神が助けてくれたから、愛実をもっと苦しめられた。でもまぁ、あんまりスッキリしなかったけどね。そんなときに、こいつの体を乗っ取って生活できれば、あいつがいない人生を送ることが出来ると思って」
「それでは、愛実さんが死んだものと同じじゃないですか? 約束と違うと思いますが」
「違くないでしょ? ”貰う”としか言ってない。まだあいつはこの中にいる。気持ち悪くて仕方がない」
「貰うって?」
「それは死神に聞いて」
「死神って?」
「あんたにゲームを仕掛けた張本人」
霊能力者が言っていた死神という存在が、どうやら的中だったようだ。恐らく、あの透明人間と呼んでいた人物だろう。知らない情報も知っている、これは間違いない。今まで抑えていた感情が溢れ、衝動に身を任せて問い詰めた。
「だったら、埋まってるところを言え」
こちらに視線を向けるも、黙ったまま。さらに追い打ちをかける。
「答えろ」
「他に聞きたいことはないの?」
視線を粗里と帆野の間に向けた。奥から声がした浅霧の方向を見ているのだろう。
「愛実さんの命が掛かってる」
「私たちの首を絞めたのは?」
そのまま浅霧が話を進めた。不快感を残したまま、不可抗力的に話を聞くことになる。
「死神に言われて」
「狙いは?」
「それは自分で考えて。あとは本人に聞いて」
「まだ手を組んでるって考えてもいいんですね」
「そうだね」
浅霧は、そのまま階段を下りていく。粗里と小萱の様子が気になって視線を向けるも、粗里は先に歩いていった。頭に来ていた帆野は、きつく問い詰める。
「いい加減場所を教えろ」
「うるさいなぁ、掘れば済む話でしょ?」
堪忍袋の緒が切れ、胸倉をつかもうと迫るも、小萱に止められる。
「急ぎましょう」
共に庭へと急いだ。投げ捨てた二本のうち、一本のシャベルを手に持って、リビング前に位置する場所に足を止める。浅霧は、ここから見えない場所――恐らく、帆野がストーカーの有無を聞き出すために使っていた部屋の奥側、丁度その部屋を入って左手に位置する庭に粗里。帆野は、リビングの窓が見える位置。粗里と挟んで小萱が穴を掘った。道路側を背にして、帆野は始める。
「掘れば済む話って言ってました」
小萱は、どうも先ほどしていた発言が気になるらしい。
「え?」
「答えを言ってるようなもんですよ」
「そうですね。でもやっぱり、どこかわからないんですよね」
「本当に庭で間違いないんですか?」
それに答えようとしたが、寸前のところで思いとどまる。ハッキングして記録データを盗み見たとは、さすがに言えない。が、そのあとの会話を想像すると、とてもじゃないが穴を掘ることに集中できない。しかし、誰も答えなかった。それはそれで怪しまれそうで、不安も止まらなくなった。うまくごまかして、答えようかと模索する。
「勘ですか……」
小萱が勝手に納得してくれたことに、少しばかりホッとしたが、それも一瞬のことだった。頭の中に、小萱という人間がどういう人物かを想像してしまう。ここで無理には聞き出せず、わからないふりをしてやり過ごし、なにか探っているのではないかと。
小萱を呼ぶのは、不安もあった。SDカードを入手した方法を聞かれれば、説明に困る上、映像では恣意的に死んでいることを示しているが、あくまでその程度であるということ。つまり、何故死んでいると思っているのか、という点。聞こうと思えば聞けるのに、小萱は一切聞かずにことを進めている。ますます掴めない。
様子が気になった帆野は、小萱の方へと視線を向ける。黙々と穴を掘っているようだ。帆野の視線に、気がついているかどうかはわからない。作業を開始しようと視線を戻そうとした時、窓を開けて座り込んでいる香奈の姿が映った。悠々とした態度で眺める姿に煽りすら感じて、怒りが沸騰しかける。
「どこに埋められているかぐらい、教えてくれませんか?」
小萱の声が聞こえる。手を止めて、香奈の方を見ていた。やはり、なにも答えない。
「質問が悪かったですか? 場所は家で、と聞けばよろしいですか?」
「そう。この庭のどこか」
庭、というのは答えるようだ。狙い通りと言えばそうなのだが。庭の具体的な場所は言わないのに、山や家などの場所なら言う。やはり、死神が関わっているというのは明白のようだ。人を挑発する、ゲーム感覚でやっている。
土に怒りのエネルギーをぶつける如く、力強く掘っていく。スッキリしたのか、次第に頭が冷えていったと同時に、不安がよぎる。もし、死体に傷が付きでもしたら。そんな罰当たりなことは出来ない。我に返って少しばかり力を抑えた。
・ ・ ・
あれからどれくらいの時間が経っただろうか。不安はあるものの、満足する地面の深さまで掘った後、別の場所へと移動して穴を掘る。そこまで庭自体は広くないため、見つかるのも時間の問題なはずだ。時計を確認すると、二十一時半を回っている。リミットまであと三十分ということか。
他のメンバーも、もしかしたら二つ目の場所を掘っている人間がいるかもしれない。四人がかりでやっていて、これほどの時間が経つとは思いもしなかった。もっと奥深くに掘られているのだろうか。そうだとすると、これまた時間がかかってしまう。焦燥感ばかりが募っていった。
「ねぇ、まだ見つからないの? 私はどっちでも良いんだけど」
シャベルを地面に突き刺し、一歩一歩を踏みしめて香奈に近づいていく。その様子に気が付いた、小萱が力ずくで静止した。さすが警官ともあって力はある。
「いい加減にしろよ!」
腸が煮えくり返るも、香奈は徹底して態度は変わらない。小説を読んで、足を庭側に投げ飛ばしたまま、リビングと庭をまたいで寝転がっていた。
「今は探してください。お願いします」
小萱を突き飛ばすなどの、危害を加えて引き離すほどの気持ちはないが、出来ることならこのままいかせてほしい。
「死体を見つければ、相手に復讐できます。それで借りは返しましょう」
浅霧の言葉で、すうっと気持ちが引いていく。元の場所へ戻って、掘り進めたその時だった。「あ」と、粗里が声を出す。鼻を腕で抑えた粗里が見える。近づいて穴に視線を向けるも、まだなにも姿が見えていないが、臭いが上がってきているために間違いはない。これ以上、掘り進めるのはということで、後は小萱に任せることにする。
小萱の方へと視線を向けると、死体を確認せずにスマホで連絡をした。残り十五分と言ったところ。ひとまず、愛実の命を救えたことは胸を撫で下ろせる。結局のところ、それは香奈の配下の元でという非常に後味の悪い終わりになった。小萱が電話を終えたところで、香奈に声を掛けた。
「じゃあ、約束通り」
「うん。わかってると思うけど、”愛実は貰わない”ってだけで、私が憑依しないとは言ってない」
ぐっと拳を握る。あまりに卑怯ではないだろうか。
「この体は私の物。流石に、あんな体は嫌だしね」
「いいんですか? その体は殺した側。嫌ではありませんか?」
浅霧はそう問う。
「別に。生きられるのなら、これくらいのリスク」
答えて、本棚がある隣の部屋へと移動していった。なんだか無性に悲しくなった。家族そろって笑っていたあの姿を、もう一度見たくなる。リビングにあるテレビの元まで行くが、妙な違和感が心に産まれる。
ある一人を除く、誰もかれもがその写真から消えていた。恐る恐る手に持って、はっきりと視界いっぱいに写す。気のせいではない。視力も悪くないが、さすがに自分の目を疑った。隅々とじっくり確認しても、未だなおそれを受け入れられない。
その後、警察が来て三人の指紋と事情聴取をした後、浅霧の事務所へと戻った。
翌日。帆野の自宅でテレビを見ていると、ニュースでは”立て続けに起きていた、植物人間の一部犠牲者が息を吹き返す”と報道されていた。その約束はどうやら守ったらしい。しかし、早海の事も含めて、モヤモヤとした感情が残った。