目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第十二話 線になる瞬間

 とりあえず、今後のことを模索するということで浅霧宅へと移動する。お互いに思うところはあるだろうが、車内では一切の言葉を交わされることない。


 疑問を口にするほどの覇気もなく、永遠と助手席から見る風景を心に染み渡らせ、自己責任に駆られて思考を巡らせていた。


(なにがいけなかった?)

 確かに、浮遊できた場合、あの床に置かれた鈴は役を果たさない。しかし、それを赤外線カメラによってある程度はカバーした。なにより、しっかり何者かをとらえることが出来たという結果が物語っている。


(もしかしたら、映像を再度、確認しなかった落ち度?)


 しかし、香奈に渡している以上、以降の映像は確認できない。あるいは、単純に力不足だということなのだろうか。浅霧はしっかりと自殺させないよう抑えていた。念のため、最新の注意を払って御札も付けている。


 寝るときに判明していたが、そもそも御札が効かないのは、映画でも見たことがある。強力な怨霊の場合、それを跳ね除けるだけの力を持っている。


 あれがそもそも創作の中だけの話だということは帆野自身も抱いていたが、今回の失敗から導き出される答えは、真実であるということだろう。


 透明人間と二人組、というのも驚きだ。恐らく、あの映像で浅霧が蹴られたのは、その隙を生ませた何者かの存在による影響だというところなのだろう。


 うかつだったというよりかはあのカメラワークでは、把握しきれなかったのは無理もない。が、もう一人の存在はいったい誰なのだろうか。


 何故、撮影していたのかもそうだ。”恨んでやる”ということから、残った人たちにこの映像を見せかったということだろうか。


(ある意味、遺書ってこと? それにしても、何で撮る必要がある? 見せるにしても、それは誰に? 愛美さんに? それとも両親に?)

 そもそも両親はどこにいるのだろうか。先日には顔を見せなかった。旅行なのか、仕事なのか、あるいは別のなにかだろうか。


 死の予言がされていたのに関わらず、死ななかったのはなぜか。

(いや)


 そう、一度は倒れている。わかりやすく考えるのであれば、気絶したというのに近いだろうか。生き返ったという表現が出来るのであれば、それの方がより正しい。


 このことに関しては思いもつかない。考えるにしても、やはり生き返ったとしか考えられなかった。


「帆野さん」

「はい」

「気になったんですけど、”姉さんがいない”って言ってましたよね」

「そういえば……」


「もしかして、二重人格だったんではありませんか?」

「え、ええ? だって、写真には……」

「そうですね。その辺は、後になってわかるかもしれません。だけど、愛実さんは”姉の部屋”と言ってました」

「映像の、ですよね」

「はい」


「そうだとすると、俺の能力はいったい」

「帆野さんが見たのは、愛実さんの体で見ただけだと思います。なので、映像で見た部屋を愛実さんの部屋だと思ってしまいましたが」

「あ、あぁ……」


(それで、辻褄が合う)

「私たちは、二人の姿を同時に見ていません。声でのやり取りは聞いていますが。しかし、愛実さんの中にいる香奈さんが殺されたのだとすれば、帆野さんが見た予言はなんの不思議もありません」


 頭の中に一筋の閃光が走る。それは、霧の中で道筋を教えてくれるような直感。

 ストーカーの話を聞きに行ったときもそうだ。勘違いなどではなく、愛実が出てきた部屋は間違いなく香奈の部屋。


 しかし、中身が入れ替わっていたからこそあの部屋に愛実がいた。加えて、浅霧が買い物に行っているとき、死の映像の件や植物人間の事件もあって、念のために部屋の近くで座っていた。


 その時も、二人の姿を同時に目撃していない。香奈の部屋に入る愛実は、二人のやり取りを声でしか聞いていない。


「で、でも、そうなると、本人は……」

「殺されたんじゃないでしょうか。そうすると、あのファイルにこもった怨念も繋がります」

「あ、あぁ”香奈さんの怨念が宿ってる”ってやつでしたっけ」


「はい」

「じゃああれは生霊じゃなくて、怨霊ってことですか?」

「そうですね。そうと考えると、辻褄合うんじゃないでしょうか」


「そう、ですね」

 考えるまでもない、そう考えていいだろう。

「だとすると……」

 と、ある可能性に気がついた。


「幽霊の正体って、本物の香奈さん?」

「ですね。どういう経緯かは知りませんが、透明人間と手を組んで愛実さんを殺そうとした」


 どうしたものか。警察に相談しようものも、現状死体も見つかっていなければ証拠があるわけでもない。


 ”香奈の幽霊を見た”と言っても、まともに取り合ってくれないのがオチだろう。このまま幕引き、というわけにもいかないはずだ。出来ることなら死体を見つけ、そのあとのしかるべき対応は、警察に任せたい。


 当然、ある程度は疑われるだろう。

「これから、証拠を探すってことですか?」

「そうしましょう。透明人間もありますし」

「証拠……証拠なんかどこに」

「ビデオ」


「ビデオ?」

「愛実さん、反応おかしくなかったですか? 私が”SD-ドの中に大切なファイルでも入っていたんじゃないか”って言ったときです」

「確かに変でした」


「あれがもし、香奈さんと争った瞬間の映像だったら」

「あぁ……」


「本人は驚いたと思います。突然、あの時の映像が撮られていると知ったら。それで、慌てて消した。いつから姉の人格があったかは知りません。けど、あの様子からして、心当たりはあるはずです」


「確かめてみたいですね。でも」

「はい。たぶん、中には入れてくれないでしょうね」


 浅霧の事務所近くに到着する。パーキングエリアに車を止めた。

「ひとまず、なにか軽くご飯買っていきましょう。話の続きは、事務所で」

「わかりました」

 そうして、車を後にした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?