丈二は麗奈を人質にとる形でグループホーム内に戻り立て籠もった。
そこには母と同じように精神が傷付いた人達が暮らしており酷く怯えていたが気にしている余裕は無かった。
「クソっ、クソっ! 最悪だ……っ」
片手にモデルガンを持ったままもう片方の手で頭を搔きむしる丈二。
麗奈以外の人物は皆その銃は本物だと思っていた。
そんなものを持ち取り乱している丈二にひたすら怯えている。
「お兄さん、やりすぎだよ……!」
流石の麗奈もあまりに予想外の展開となったため焦っている。
「他に方法ないだろ!」
明らかにキツく言い過ぎてしまったため少し反省するがもう遅かった。
外では警察の応援が到着しメガホンで丈二に呼びかける。
『人質を解放して出てきなさい』
その声に丈二は大声を返す。
自身の目的を伝えた。
「警察が撤退すれば出てくっ!」
換気のためか窓が開いていたので届いたようだ。
警察も対応に急いでいるらしい。
「こんなんじゃ警察は退かないよ⁈」
「分かってるよっ、でもどうすりゃいいか分かんねぇ!」
麗奈の言葉に丈二も返す。
言葉の通りどうすれば良いのか分からなかった。
「あ、あの……」
すると人質にされていたグループホームのスタッフが声を掛けてくる。
丈二は思わずそちらにモデルガンを向けてしまった。
「お願いします、ここで暮らしてる人達だけでも解放してください……彼らには家族がいるんです」
両手を上げて勇敢なスタッフが頼み込む。
その姿勢に少し圧倒されてしまう。
「貴方もお母さんが悲しみますよ……?」
しかしその言葉が丈二を逆上させた。
今ここで母の話題は禁物だった。
「ふざけんなっ! 今更アイツが俺の心配するわけねーだろ!」
スタッフの頭にモデルガンを突き付けて脅す。
「俺はずっとアイツに虐げられて来たんだ、それは棚に上げて俺の怒りが爆発した途端一方的に悪と決めつけんのか……⁈」
溜まりに溜まった想いをぶつける。
しかし怯えるスタッフの顔を見て少し冷静になった。
「って……あんたには関係ないよな、ごめん」
モデルガンを離すとスタッフは腰が抜けたのかその場にへたり込んだ。
そしてまた一方である人質の様子が変わる。
「ひっ、ひぃぃ……」
母親と同じグループホームの利用者だ、パニックになってしまったらしい。
怯える声がずっと響いている。
「くっ、水でも飲ませてやれ……っ」
麗奈にそう指示を出す。
すると麗奈は静かに動き出しその利用者に水を一杯あげた。
「すみません、これ飲んで下さい……」
水を一気に飲んだその利用者は少し落ち着きを取り戻した。
しかしまだ怯えて震えている。
「あ、貴女は何なんですか……? 人質か仲間か……っ」
麗奈が一体何者なのか問う。
人質にされているかと思ったら丈二と共に動いているのが不思議だったのだろう。
「私は……っ」
自分にまで恐怖の眼差しを向けられた事で麗奈は人質たちに同情してしまう。
そして丈二に抗議しに行った。
「ねぇもうやめてよ! 関係ない人まで巻き込みたくないっ!」
麗奈にまで抵抗された事で丈二は気が狂いそうになってしまう。
「分かってるよ間違ってる事くらい、でも……」
すると外からメガホンを通した声が聞こえる。
その声は聞き馴染みのあるものだった。
『丈二! いるのか⁈』
それは友人である直樹の声だった。
まさかここまで来てしまったとは。
「直樹……っ」
その名前を聞いて麗奈も反応を見せた。
「え、誰……?」
「車の持ち主だよ……」
「えぇ……?」
麗奈もここまで追い詰められてしまった事を理解する。
『今からお前のスマホに電話する、出てくれ!』
そう言って直樹は電話を掛ける。
丈二のスマホも着信音を流した。
「っ……!」
恐る恐る丈二は応答する。
他に道はないから。
「もしもし……?」
『丈二⁈ 本当にお前なのか⁈』
「あぁ……」
直樹はこのグループホームに丈二がいる理由を問う。
『お前何でここに、もしかして……』
「あぁ、母さんに全部話したよ」
『マジか、どうだったんだ……?』
結果は分かっていた、こんな事になっているのだから。
「上手くいった訳ないだろ、俺のこと疫病神だってよ」
あまりに悲惨すぎる結果に直樹も何も言えなくなる。
「ちゃんと向き合ったよ、頑張ったよ! でもこんなになっちまった、もうどうしようもねぇよ!」
直樹は丈二が立て籠もる理由は理解した。
しかしまだ分からない事がある。
『なぁ、じゃあ麗奈さんは何なんだ……?』
「はぁ?」
『何で向き合ったっつってんのに誘拐したままなんだよ?』
問い詰めてみると丈二はその真実を答えた。
「アイツは自分から着いて来たんだ、親に追い出されて居場所なくしたんだとよ。俺と同じなんだよ!」
真相を理解した直樹。
だからこそ言いづらくなってしまった事がある。
『その、麗奈さんの親なんだがな……』
「え……?」
次の直樹の言葉に丈二は驚愕した。
すぐさま麗奈を呼ぶ。
「おい、お前の親が!」
「え⁈」
状況が理解できない麗奈を他所にまたメガホンから声が響く。
それは丈二は知らないが麗奈はよく知った声だった。
『麗奈! いるなら返事してくれ!』
何とそれは麗奈の両親だった。
医者である父親がメガホンを持っている。
「お父さん……!」
麗奈は明らかに怯えたような表情を浮かべた。
丈二も事情を察知し冷や汗を流した。
つづく