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第8話

 一方で直樹は今も警察と共に丈二の目撃情報を追っていた。

 そんな中で一つの情報を見て若手の刑事が呟く。


「うわ、ラブホ行ってんすか? 流石に引きますわ……」


 丈二を悪く言うような発言にベテランの刑事が若手の頭を軽く叩く。


「おい、そんなこと言うな」


 そして視線を直樹の方へ。

 友人が聞いている事をベテラン刑事は考慮していたのだ。


「さーせん……」


 直樹に軽く頭を下げる若手刑事。

 しかし直樹は彼を咎めなかった。


「良いんですよ、アイツもやらかしてる身なんですし」


 そう言いながら目撃情報などの資料を手にする直樹。

 警察の捜査に協力していたがそれは友人が心配だったからである。


「でもやっぱ俺も追い詰めてたのか……」


 自分にも原因があると考え頭を抱えてしまう。


「いや直樹さんは悪くないっすよ、友人のこと考えてたんでしょう?」


 若手刑事が慰めてくれるが直樹は嘆いたままだった。


「じゃあどうすりゃ良かったんだろう、お母さんの件もどうしようも無かったし……」


 何も他の解決策が見当たらない、やはりあの時の結果は必然だったのか。

 丈二が言う母親の精神の件も確かに危ういのだから。


「その母親の件で彼は追い詰められたと聞きましたが具体的な話を聞かせてもらえませんか?」


 ベテラン刑事が直樹の向かいに座り話を聞こうとする。

 直樹は渋々答えた。


「はい。アイツとは幼稚園で会って、その時からお母さんは怖かった印象があります」


 幼稚園の時から丈二とは付き合いがあった、そして母親の様子も覚えている。


「園にいる間はずっと丈二と遊んでました、明るいヤツだったけど最後はいつも焦った母親に"受験勉強しなきゃ"って無理やり帰らされて泣いてましたね」


「なるほど」


「一回見たんですよ、幼稚園を出た後に車の前で思い切り母親にぶたれる所。声は聞こえなかったけど凄い形相だったのを覚えてます」


 そして話は高校になってからの事へ。


「高校生になってから再会したんですけど随分と暗くなってましてね、相変わらず放課後は塾とかで忙しいみたいだったし」


 そして母親の事も話す。


「遊び誘ったりしても"母さんがダメって言うから"って断って、全部お母さんが基準になってました」


 そこから直樹は推測で丈二の心情を話してみる。


「アイツは母親とか他人に怒られないか、ガッカリさせないかで全部判断してるんすよ。自分はどんどん傷付いてんのに……!」


 だからこそ直樹が力強く丈二に怒ってしまった事も影響したのだろう。


「そんで遂に壊れちゃったんだと思います、俺も追い詰めた要因の一つです……」


 後悔を強く言葉にする直樹に刑事たちは少し同情してしまった。


「なるほどね……」


 頷くベテラン刑事は何か思うように天井を見上げていた。






 つづく

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