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第304話 狐阿七大王、甥っ子たちを諭す

 金炉精と銀炉精は母親の容態が思った以上に悪化していたので、お互い何も喋らずに狐阿七大王のところへ戻った。


「それで、納得のいく金丹はつくれたのかい?」


 二人の様子から色々と察し、あえて明るく尋ねた叔父に、金炉精と銀炉精は顔を見合わせた。


「あっ、そうだった!」


「大切なものをもってきたんだった!」


 実は二人は、太上老君のところで宝貝作りの手伝いのほかに、金丹作りを学んでいる。


「狐阿七叔父さん、あのね、金炉たち、いいものを持ってきたんです」


「いいもの?」


 お茶の用意をしながら狐阿七大王は興味深そうに首を傾げる。


 金炉精と銀炉精は顔を見合わせてから、卓の上に紫金紅葫蘆を置いた。


 その宝貝を見た途端、狐阿七大王は難しい顔をした。


「……これは、太上老君の宝貝だろう?どうしてこんなものを……」


「借りたんだよ!それでね、この中に何が入ってると思う?」


 まさか勝手に持って来たのでは、と鋭い予想を立てる叔父に、慌てて金炉精が立ち上がる。


「え?あぁそうだね……瓢箪だし、酒かな?わかった、太上老君が隠し持っていた極上の酒だろう!」


 正解だろう!と得意げにいう狐阿七大王に向かって二人は腕を交差して唇を尖らせた。


「ハッズレ〜!」


「違うのかい?」


「んっふっふ〜!この中には、なんと玉果が入っています!」


「入っています!


 得意げにいる金炉精の真似をして、銀炉精もえへんと胸をそらして言う。


「なんだって?!」


 想像もしていなかった答えに、狐阿七大王は思わず叫んだ。


「この玉果があれば、母さまもきっと治るはずだよ!」


 狐阿七大王は紫金紅葫蘆を覗き込み、その中身を見て表情を変えた。


 念仏を唱え、身の回りに結界を張っている玄奘を見つけたからだ。


 結界のために玉果の成分は抽出できていない。


 狐阿七大王は中にいる僧侶が姿形を保って生きていることに心の底からホッとした。


 そして紫金紅葫蘆を金炉精と銀炉精に渡して、滅多に見せない厳しい表情で二人に言った。


「二人とも、この方を元の場所に戻して来なさい」


「なんで?!」


「どうしてそんなこと言うの?!」


 狐阿七大王は抗議する二人に「当たり前だろう」と言った。


「おおかた、こちらの方をどこかから連れ去って来たんだろう。お坊様じゃないか。道理を曲げた行いで救われても九麻姉様は喜ばないよ」


 狐阿七大王に諭され、二人は涙目で俯いた。


「それは……」


「そうかもしれないけど……」


 金炉精の言葉に続けて、銀炉精がいう。


 二人は下唇を噛んで、ボロボロと溢れる涙を拭う。


「九麻姉様のことは、この叔父さんに任せなさい。お前たちは太上老君の元へ行って修行を」


 狐阿七大王が二人を諭していたその時。


 何かが金炉精たちの過ごしている部屋に勢いよく突っ込んできた。


 激しい衝突音と、作り上げられる瓦礫の山。


 幸いなことに、九麻夫人の部屋からは離れているため彼女が目を覚ますことはないだろう。


「二人は下がっていなさい!」


 何者かの襲撃を警戒し、狐阿七大王が剣を抜き瓦礫の山の様子を伺う。


 すると、瓦礫を避け孫悟空と猪八戒が現れた。


 洞府に飛び込んできたのは、觔斗雲に乗った孫悟空と猪八戒だった。


 二人は觔斗雲の勢いをつけすぎて洞府に衝突したのだ。


「やいお前、この狐野郎ども!お師匠様をさらいやがって!とっととと帰しやがれ!!」


 事故の痛みなど大したことのないと言うふうに、孫悟空は如意金箍棒の先端を狐阿七大王に向けて言った。


「ああ、君たちはこのお坊様のお弟子さんなのか。甥っ子たちが失礼したね。今……」


「ダメっ!」


 警戒をといた狐阿七大王が孫悟空に紫金紅葫蘆を渡そうとしたところ、金炉精と銀炉精がそれを奪い取った。


「これで母さまを助けるんだから!」


「絶対、渡さないんだから!」


 二人は印を組んで叫んだ。


「疾!鬼神変化!!」


「変化!」


 金炉精は金角に、銀炉精は銀角にと、巨大な鬼の姿になった。


「お前たち、やめなさい……!」


 狐阿七大王の静止も二人には届かないようで、金角と銀角は紫金紅葫蘆をもって洞府の外に出て行った。


「狐のクソガキがただ大きくなっただけで何になるってんだ!行くぞ八戒!」


「おう!」


 孫悟空と猪八戒も彼らを追って出ていく。


「ああ、もう……!」


 狐阿七大王は鬼に変化した二人を止めなければと思うものの、重病人の姉を一人で置いておくことはできない。


精細鬼せいさいき伶俐虫れいりちゅう


 そこで狐阿七大王は二人の小鬼を呼び出した。


「ご主人さま、我らはここに」


「お呼びでしょうか」


 現れた小鬼たちはその場に跪く。


「少し厄介ごとを片付けてくる。姉の世話を頼んだよ」


「承知いたしました」


 小鬼たちの返答をきくやいなや、狐阿七大王は剣をとって「ああ、もう!!!」と呟きながら出ていった。

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