海に住む龍神の宮殿へ届くように、陶海燕が祭文を読み上げ、供物を川へと落としていく。
どんどん捧げられる供物は、身が詰まっているのか一つも浮き上がらずに沈んでゆく。
「龍宮に運ばれていく……」
何かが見えているのか、それとも故郷に運ばれる供物たちをうらやんでいるのか、玉龍は郷愁の念に駆られたようにつぶやいた。
これから礼部の祭祀官たちが呼び戻そうとしている玄奘の父、陳萼は、かつて玉龍が暮らした龍宮にあると言う。
礼部の官吏である陶海燕が中心となり、儀式は滞りなく進んでいった。
最後の供物が川に捧げられ、太鼓が打ち鳴らされる。
「んー!!ん!!んんんん!!!」
そこへ、礼部ではなく御林軍に運ばれてきたのは、猿ぐつわをはめられ、恐慌状態に陥った劉洪だった。
劉洪が陶海燕の元に運ばれると、彼女は徐に剣を抜いた。
「何を……?」
玄奘は困惑した。
「沙悟浄、お師匠様の目を塞げ!」
孫悟空が小声で沙悟浄に言う。
「いえ、私は大丈夫です……!」
だが玄奘は首を振り、沙悟浄を拒んだ。
「でも、お師匠様……ああ、もう!」
殷開山も、殷温嬌と張氏も鬼のような形相で劉洪を見ている。
三人はこれから何が起こるかを理解しているようだ。
「私も、これから何が起こるのかしっかりと見届けなければ」
しかし玄奘はこの選択をすぐに後悔することになる。
「このものの生き肝を供物とし、陳萼をこの場に戻したまえ!」
陶海燕が高らかに唱え、祭文を鼎に投げ入れた。
祭文を飲み込んだ鼎からはたちまち炎が上り、その形はまるで龍のようだった。
赤々とした炎をあげて燃える祭文を背に、陶海燕はシャリン、と音を立てて剣を鞘から抜き取った。
翡翠が飾られた儀式用の宝剣である。
陶海燕は宝剣を手に、劉洪を振り返った。
「んー!んー!!」
涙目で叫ぶ劉洪は御林軍の兵士に姿勢を正され、囚人用の着物をはだけさせられる。
陶海燕は無表情で劉洪へと近づいていく。
「んー!んんー!」
劉洪は逃げようとするが、御林軍は逃すまいと一層手に力を込める。
そして、陶海燕は劉洪の腹からその肝を抜き取った。
劉洪が猿轡をしたまま絶叫し、虚な目で陶海燕を睨みつけ、何故、と返り血を浴びた陶海燕に目で訴える。
「あなたを処刑はしませんが、儀式には使うんですよ」
そう言って血を滴らせながら川のそばまでくると、肝を川へと投げ入れた。
絶命した劉洪は御林軍に運ばれていった。
「うっ……っ!」
玄奘は口元を押さえ、うめいた、
その儀式はあまりにも悍ましく、玄奘は込み上げるものを必死で抑える。
「だから目を塞げっていったんですよ……玉龍」
「うん」
玉龍は如意宝珠で玄奘の気分を和らげる。
「お師匠さま、俺に寄りかかってください」
「ありがとう……ございます」
沙悟浄は青白い顔をして冷や汗を浮かべる玄奘を支え、その汗を拭く。
「ほらお師匠さん、のみもの。スッキリするから」
清涼感のある薬草で作ったお茶を猪八戒が渡した。
「オシショーさまのおばあちゃんたちは大丈夫かなあ」
玉龍が心配そうに振り返ると、意外なことに殷開山を始め殷温嬌と張氏も平然と儀式の進行を見守っていた。
そのころ、川に投げ入れられた劉洪の生き肝は、巡海夜叉の手に渡っていた。
「おお、これは。時期が到来したと言うことか」
様々な供物を手に巡海夜叉は龍宮へと向かって行った。