それから数日、捲簾大将は時間の許す限り下界に滞在した。
数日経ったが、崑崙山のある天界で過ぎた時間はほんの少ししかない。
下界と向こうでは流れる時の速さが違う。
馮雪は商売の他に結婚式の準備と忙しく、毎日岩場に来ることはできなかった。
捲簾大将は日が登ってから岩場に登って、のんびりと釣り糸を垂らし日が暮れるまで馮雪が来るのを待ち続けた。
ある日には人間の姿に変化し、こっそり阿千村にいってみたこともある。
こぢんまりとした、でも村人同士は
村にこっそり行ったとき、龍神の穴場に馮雪が迷わずこれるよう、龍神の手形も渡した。
人の姿に変化した捲簾大将に気づいた馮雪は仰天していたが、手形を喜んでくれた。
その時の馮雪の驚きようは、と捲簾大将は何度か思い出しては笑いを堪え過ごした。
今日はひさびさに手が空いたらしい馮雪がやってきたので、二人して夢中になって釣りを楽しんだ。
そして、大量に捕まえた魚を串焼きにしようと、火を起こしてその周りに串に刺して並べたていると。
「あの……」
「どうした?」
意を決したようにおずおずという馮雪の事は見ずに、捲簾大将は手際よく魚を串に刺していく。
うっかり串で手を刺したら大変だ。
「あなたは仙人様なのですか?」
突然の質問に、なにを聞かれるのかと身構えた捲簾大将はうっかり魚を落としそうになった。
「なんだ、俺はそんなたいそうなものではないよ」
ようやく顔を上げて馮雪に目を向けた捲簾大将は苦笑して言った。
「名は明かせないが、まあ、玉皇大帝に使える崑崙の一武官だ、とでも言っておこうか」
「ヒェッ!そんなお方だったのですか……!いけません、魚の準備は全部おいらが!」
馮雪は慌てて自分の作業を中断して言う。
「今更だろう。それに、自分で取った魚を自分で料理するのも釣りの
そう言って、串に刺した魚を火にかけると、馮雪には焼き上がった串焼きの魚を渡し、自分も魚にかぶりついた。
「うん、生の魚も良いが、やはり焼いてもうまいな」
捲簾大将が馮雪をみると、彼も魚をかじり微笑んだ。
「はい、おいしいです」
「すまないな、我々は
「いえ、そんな……」
「だが俺を呼ぶときに名を知らぬのでは不便か。この場に限り、お前の考える名で好きに呼ぶといい」
「そんな畏れ多い……」
「俺が良いと言っているのだ。さ、呼び名をつけるがいい」
そう言うと、馮雪はしばらく考え込んで、ようやく思いついたのかハッとして顔を上げた。
「では、あなたのことを
「和尚?私は仏に仕えてはいないが?」
このように魚も食うぞ、と苦笑して言うと、馮雪は首を振った。
「ある道に
「好きにしろ」
しばらくは薪がパチパチと
うまいものを食べる時は無言になるのは、人も天の大将も同じなのだろう。