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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記! 〜前×9世で守れなかったあなたを今世では絶対守ります!〜
深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記! 〜前×9世で守れなかったあなたを今世では絶対守ります!〜
小日向星海
歴史・時代外国歴史
2025年02月26日
公開日
42.2万字
連載中
天界の将、捲簾大将(けんれんたいしょう)にはずっと昔から気にかけている人がいた。

その人は人間で、ある時は漁師、ある時は僧と、幾度となく転生を繰り返している。

そしてその人の何度めかの転生のとき、捲簾大将は偶然その人と出会い、親しくなる。

しかし人の世は激動。

そこは戦、天災など、常に困難が降りかかる世界で、その人は異民族の襲撃により命を落としてしまう。

そばにいたら守れたのに。そんな後悔が、捲簾大将を突き動かした。

捲簾大将がその人の生まれ変わりを見つけても、すでに骸になっていることがほとんどで、捲簾大将はその骸から頭蓋を取り出し首飾りのように連ねて保管していた。

いつか再び出会う時が来るようにと願いを込めて、捲簾大将が集めた頭蓋の数は九つにものぼった。

そんなある日、捲簾大将は西王母主催の蟠桃会にて、警備をすることになり、養子の青鸞童子(せいらんどうじ)と連れ立って蟠桃園へ行った。

そこで、ドジを踏んで西王母の怒りを買い、鞭打ちの刑ののち地上へ堕とされてしまう。

人の世界に堕ちた捲簾大将だったが、これを好機としてずっと気にかけていた人を河伯と名をかえ探すことにした。

人の世界に堕とされた河伯は、果たして無事白骸の持ち主と再会できるだろうか。

九つ連ねた白き頭蓋──白蓋(はくがい)──に想いを乗せ、あの日の後悔を二度と味わわないように、河伯は決意を胸に再会を望み続けている。



※BL臭はありますが、BLではありません。BL未満で
す。しかし書いていく中でBL展開になったらBLタグをつけます。

※古典文学である、呉承恩原作『西遊記』をベースにしています。
※かなりオリジナル設定が入っているので、やりたい放題してますすみません! 

※タイトルに文字と副題を追加しました(3/30)
河伯との再会までを書く予定でしたが、天竺到着まで書こうと思ったためです。

【参考文献】
当作品におけるお経、仏像、仏教については以下の文献を参考にしました。

洋泉社MOOK『お経と仏像で仏教がわかる本』 発行人 江澤隆志 編集人 梨本敬法

洋泉社  2017年3月20日 

『仏像礼賛』 著者 籔内佐斗司 ビジュアルだいわ文庫 大和書房 2015年5月25日 第一刷


※無断転載を禁止します。
※こちらは小説家になろうでも連載しております。

第1話 蟠桃会にて

【一、蟠桃会にて】


 ここは人間たちから天界とも呼ばれる崑崙山にある、西王母が管理する蟠桃園ばんとうえん


 辺りには熟れた甘く濃い蟠桃の香りがたちこめ、優美な楽器の演奏がどこからか流れてくる。


 春の日差しが暖かな三月三日の今日、ここで崑崙の王である玉皇大帝の妻にして全ての女神の長、西王母が主催する蟠桃会ばんとうえが開かれる日だ。


 蟠桃は三千年に一度実をつけるという桃で、この蟠桃会では崑崙の神仙を集め、長寿と繁栄を願い蟠桃が振る舞われる。


 そこには捲簾大将をはじめとして、多くの天将や武神たちが会場の警備などに駆り出されている。


その昔の蟠桃会では、桃の見張り役を任されていたはずの猿の妖怪が盗み食いをしたり、またその次に開かれたときは酒に酔った天界軍の関係者が、こともあろうに月仙女の嫦娥じょうがに無理矢理言い寄って、仕置きの末地に堕とされるという問題をおこした。


大切な蟠桃会に二度もミソがつき、厳重な警備を敷いて今回こそはと三度目の正直で蟠桃会をつつがなく終えたいというのが西王母の願いでもある。


そんな蟠桃会の中、捲簾けんれん大将は養子の青鸞童子せいらんどうじを伴い宝物殿に向かっていた。


青鸞童子は青鸞せいらんという青い巨大霊鳥の子どもで、その昔、親鳥をうしない命尽きようとしている時に捲簾大将に拾われ彼の養子となった。


 その後道術の修行をして変化の術を習得し、つい先日捲簾大将の身の回りの世話をする役目を任される童子となった。


 青い羽毛に覆われた鳥の体は愛らしい人間の少年に変化し、その色は髪色に反映されている。


 その青い髪を頭頂で結び、青の羽根飾りをつけ童子服に身を包んだ青鸞童子はどこか誇らしげだ。


 まだ完璧に化けられず、たまに尾羽が出てしまったり顔だけ鳥になったりするのだが、今日この日は完璧に化けられたので、蟠桃会の警備をする捲簾大将に追従することを許された。


 青鸞童子はいずれ義父と同じく天帝の将として働く身。


 義父の仕事を手伝うのも青鸞童子の大切な修行なのだ。


 捲簾大将と青鸞童子は、招待された女仙の一人である麻姑まこより奉納された、霊芝酒れいししゅを、玻璃はりの杯で飲みたいという西王母からそれを持ってくるよう命じられた。(玻璃は水晶のこと)


「こちらです。捲簾大将、これは西王母様のとっても大切な、大切な至宝ですので、割らないよう、よそ見や回り道などなさらず、くれぐれもどうかお気をつけてお持ちください」


 普段少しぼんやりしていると一部では有名な捲簾大将は、宝物殿の管理官から口酸っぱく言われながら玻璃の杯を受け取った。


義父ととさま、行きましょう」


「青鸞、ここは家ではないのだから捲簾大将と呼びなさい」


 青鸞童子に武器を預けた捲簾大将は苦笑して言った。


青鸞童子と連れ立って蟠桃会の会場へと戻る途中。


 中庭の通路を通っていた時、ふと春の風がそよいで二人の元へ桃の香りを運んできた。


「良い香りですね。この香りだけで蟠桃を食したような心持ちになります」


 崑崙の神仙の中でも、西王母に選ばれたごく一部のものにしか与えられない蟠桃。


一体どんな味がするのだろうかと青鸞童子はうっとりとして言う。


「何を言っているんだ青鸞。この匂いと同じ桃の味だろう?」


 なにを考える必要があるのか、と捲簾大将は不思議そうに首を傾げる。


「それはそうかもしれませんけど……」


 返ってきた言葉に不満があるのか、青鸞童子は愛らしい紅色の頬を膨らませた。


 頬が落ちるほど甘いとか、目玉が飛び出るほど芳醇だとか、もう少し夢のあることを言ってくれたらいいのに、だから義父には嫁がいつまでも来ないのだと青鸞童子はため息をついて頬のふくらみを無くした。


(見た目は本当に良いのですけれど……)


 袍衣の上からでもわかる、逞しく筋肉質な体。


 深い藍色の肌とは対照的な、結い上げられた明るい紅蓮の髪はふわふわで、まるで夕暮れに染まる綿雲のよう。


 整った面差しに、形のいい凛々しい眉と金色の大きな瞳は、すれ違う神女仙女だけでなく、同性の天将たちからもため息と熱い視線が向けられるほどだ。


 そして蟠桃会のために袍衣の上から重ねた煌びやかな鎧と相まって、今日の義父はいつも以上に見目麗しい美丈夫である。


 捲簾大将は、青鸞童子にとっての自慢の義父であり、変化の術を習得したいま、こうして近くを歩けるのはとても幸福なことだった。


(あぁ、もったいないなあ)


 青鸞童子は唇を尖らせ何度目かのため息をついた。


 今まで捲簾大将は青鸞の世話ばかりで、自分のことは二の次だった。


 だから青鸞が変化の術を習得して童子となった今、義父にはそろそろ伴侶を見つけて欲しいと思っているのだけど。


 養子の心義父知らずとばかり、青鸞は苦笑した。


 一方、捲簾大将は空を見上げて別のことを考えていた。


(あのひとはいま、どこで何をしているだろうか)


 青鸞童子の心配をよそに、捲簾大将には思いを寄せる存在があった。


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