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透視魔法

 結局いつ寝たか覚えてない。

 ただそれでもいつもよりかなり早い時間に起きてしまった。

 うん、もう情報は出てるだろうし起きていいよね。

 自分に言い訳をしてさっそくネットを見るといろいろ情報が出ている。


 最初のレベルアップは経験値30なのか。

 それなら今日中にいけるな。

 ただレベルアップでMPは1増える……、正直微妙だ。

 10とか20とか増えると思っていたのに。


 魔法は炎系と電気系が人気だな。

 どっちも一瞬だけ見える程度だけどそれがいいらしい。

 ちなみに人に危害を加える魔法は全部[対抗呪文]で弾かれるようだ。

 やっぱりわざわざ使わせるだけあるな。


 あ、俺の使おうとしていた風起こしの魔法について書かれてる。

 スカートがなびく程度の風が起きました、だって。

 ……知ってた、消費MP10なら仕方ない。

 もっと強い風を起こすにはもっと消費MPが大きくなるだろう。


 もう一つの透視の方は何の情報も出てないな。

 かなり条件がついている変わったものだったし使う人がいなかったのかな?

 ならこちらは実際に使ってみるしかないか。


 改めて魔法の情報を見てみる。


名称:そこに山はあるか

登録者:足切 刀

効果:好意を持っている異性にのみ使用可能。

   通常の発動条件に加え理の名称を対象に伝えることが必要。

   1分間対象の服を透視する。

消費MP:10


 非常に個性的な魔法だと思う。

 名称もそうだし効果も条件が多い。

 他の透視魔法も検索してみたけどこれほど条件の多いものはない。

 それに登録者の名前も変わっている。

 刀なんて名前は珍しい。


 この魔法を気に入ったのは作成者の意図を感じられるからだ。

 好きな子しか見えない点やわざわざ相手に使うことを伝える点に作成者のこだわりを感じて使いたくなってしまった。


「お兄ちゃんおはよう、今日は早いね」

「おはよう、当たり前だろ」

「ちゃんと寝たの?」

「一応な、というか陽菜も寝てないだろ」

「寝れるわけないよ」


 陽菜のテンションが高いな。

 魔法が上手くいったんだろうか。


「どう? 魔法の効果出てる?」


 俺に顔を近づいてきた。

 ただ何の魔法かわからないのに効果と言われてもな。


「今日もかわいいぞ」

「誰もそんなこと聞いてないよ、肌のことよ、は、だ」

「中2で肌が汚いわけないだろ」

「甘く見てるとすぐ劣化するんだよ」


 それはその通りだな。

 改めてじっと陽菜の肌を見る。

 瑞々しく綺麗な肌のように見えるがいつもよりハリがない。

 普段以上にノリで喋っている感があるし、寝てないと言ってたから単に寝不足だな。


「肌には早寝早起きが一番の魔法だぞ」

「たしかに」


 自覚があったらしい。

 もしかしたらそれを隠そうとしたのかもしれない。

 ただ本当に肌が綺麗になる魔法があったとしても効果時間が切れたら終わりだろう。

 一時しのぎにしかならないと思うんだけどな。


「お兄ちゃんは何の魔法使ったの?」

「炎が出るやつ」

「ほんとに出た?」

「出たぞ、一瞬だけな」

「おおー、名前は?」

「[炎]」


 そう伝えた瞬間、世界書を出して左手で操作し始めた。

 相変わらず操作が早い。

 右利きのくせに左手でよく操作できるものだと思う。

 眺めているといきなり陽菜の右手から炎が出た。


「は?」

「あ、ほんとに出る、すごーい」

「今どうやって魔法使った?」

「タッチして使用しただけだよ?」

「は?」


 当たり前の事のように言ってるけど意志を持って声に出す以外にやり方があるのか?


「タッチできるんだから使用も出来るよ」

「いやいやいや、そんな説明なかったし」

「これだからお兄ちゃんは」


 ヤレヤレという感じのリアクション。

 でも使い方には声に出すって書いてあったしわざわざ他の方法なんて試さない。

 まさかそんなやり方があったなんて。


「そうやって決めつけて行動に移さないから彼女出来ないんだよ」

「彼女は関係ないだろ!?」

「じゃあ聞くけど、好みの女性100人から無関心なのと好みの女性99人から嫌われるのどっちがいい?」

「好みの女性100人から無関心」


 嫌われるより無関心の方が良いに決まってる。

 無関心ならまだ好かれる可能性があるけど嫌われたら終わりだ。


「お兄ちゃんならそういうと思ったよ」


 うんうんと頷いている陽菜。

 なんか調子に乗っていそうなのでほっぺたをつまんでおく。


「いひゃい」

「力ほとんど入ってないだろ」

「はましのつづき」

「はいはい」


 陽菜のほっぺたはさわり心地いいのでついつまんでしまう。

 昔からよく触っているのに嫌そうな顔しないんだよな。


「もう、妹のほっぺたは自由にするんだから他の女の子にもすればいいのに」

「嫌われるのに出来るわけないだろ」


 陽菜は妹だからこんなに気安く対応できるけど他の女の子にやったら嫌われるに決まってる。


「まさにそこだよお兄ちゃん」

「どこだよ」

「さっきの続きで99人に嫌われて100人目で好かれるならどっちを選ぶ?」


 さっきの続きと言うとつまりこういうことか。

 ・好みの女性100人から無関心

 ・好みの女性99人から嫌われて1人から好かれる

 それなら一択だよな。


「好みの女性99人から嫌われて1人から好かれる方」

「だよね、お兄ちゃんはそれ出来てる?」

「は?」

「99人どころか1人に嫌われるのすら怖くて動かないよね、だから彼女出来ないんだよ」


 返す言葉もない。

 でも言われてみればその通りだ。


「不細工でも彼女出来る人はそれを実践してるんだよ」

「面と向かって不細工とは失礼な」

「お兄ちゃんは仮にも私のお兄ちゃんなんだから素材は悪くないよ、中の下くらい」

「褒めてないよな!?」


 かばうふりをして後ろから撃つのが陽菜らしい。

 もっと頑張れってことだろう。


「何もせず無関心から好意に変わることなんてないんだよ」

「いやでも何かきっかけがあれば」

「そのきっかけを自分から作ろうって話だよ、お兄ちゃん」


 完璧なまでに叩きのめされた気分だ。

 ただドヤ顔をしている陽菜は調子乗り過ぎだと思うのでほっぺたを引っ張って伸ばしておく。


「いひゃい」

「調子に乗る妹にはお仕置きだ」


 引っ張って遊んでいる時に時計が視界に入って気づいた。

 しまった、もうこんな時間だ。

 今日は早めに行かないと行けないのに。

 急いでご飯を食べて学校に向かう。


 駆け足で向かっているとお目当ての女の子を見つけた。

 クラスメイトの藤田透子。

 黒髪ストレートロングで整った顔立ちなのに、いつも不機嫌そうな顔をしている女の子。

 何を話してもそっけない態度でろくに会話しないので非常に話しかけづらい。

 そのせいでみんなから少し浮いた存在になっている。


 俺はそんな彼女と一番会話している。

 きっかけは同じ委員になったことだ。

 話しかける機会が多くなったことで周りから仲が良いと認識されて、みんなが藤田さんへの頼み事を俺経由でするようになった。

 今ではほとんどマネージャーみたいな状態になっている。


 ただ俺も別に嫌な訳では無い。

 たしかに何を話しても不機嫌そうな顔をしていて会話もほとんどない。

 けど最後まで話を聞いてくれるし頼んだことはちゃんとやってくれる。

 一緒に話すうちにいつの間にか好きになっていた。


「藤田さん」

「……なに?」


 先を歩いている藤田さんを呼び止めるといつもどおりの不機嫌そうな顔をしている。

 もう慣れたけど笑えばきっとかわいいだろうな。


「【そこに山はあるか】って登山家の言葉知ってる?」


 もちろん登山家が本当に言ったのかは知らない。

 魔法の名称を伝えるのを誤魔化すために適当にでっちあげただけだ。

 世界書を手に持ち意志を持って言葉を伝えた瞬間、藤田さんの服が透けた。

 普段隠されているきれいな肌があらわになり、ひらひらが少しついている白いブラと普通の白いパンツが見えた。

 おっぱいは服の上から予想したサイズより大きい。

 大きさにこだわりはないけど大きいならそれはそれで嬉しい。


 にしても本当に透けてる……。

 炎のように一瞬かもと思っていたけどそんなことはなかった。

 ただ服は透けるけどポケットの中のものは透けないらしく学生証や筆記用具等の小物が宙に浮いて見えている。


「……え?」


 藤田さんは混乱してるようだ。

 前フリなくいきなり質問するのは初めてだから仕方ない。

 ただそこからの動きは予想外だった。

 藤田さんはなぜか体を手で隠した。

 たしかに視線はそちらに向いているけど服を着ているんだから気にする理由はないはず。


「なんで?」

「は?」

「なんでワタシなの?」


 初めて藤田さんから質問された。

 でもどういう意味だろう。

 用事もないのになぜ話しかけたのかってこと?

 それともワタシに聞くなってことだろうか。


「藤田さんがよかったんだ」


 ちゃんと俺の話を聞いてくれる数少ない相手。

 もし本気で女性に質問しないといけない内容があるなら迷いなく藤田さんに聞いていただろう。


「そう」


 納得してもらえたらしい。

 分かりづらいけど肩の力が少し抜けたのが証拠だ。


「ならいいわ」

「へ?」


 そう言って、体を隠していた手を戻した。

 一体何がいいんだろうか。


「あの、どういうこと?」


 特に返事はない。

 そしてタイミングを同じくして魔法の効果が終わった。


 ええと、ここからどうしようか。

 さっきの「ならいいわ」が気になるけど、どう聞いたら答えてもらえるだろうか。


 会話の切り出し方に悩んでいるとそのまま振り返って学校に歩いていってしまった。

 会話がまだ途中だったのにこんなことは初めてだ。


 もしかして怒らせてしまっただろうか。

 でも怒らせるような会話内容じゃなかったと思うし、最後は「ならいいわ」と言っていたよな。

 一体どういうことなんだ。

 しばらく考えてみたけどよく分からないままだった。


 まあとりあえず魔法の実験自体は成功だった。

 難点は相手に言葉を伝えないといけないので、二度と使えないってことかな。

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