授業中はずっと魔法について考えていた。
新規に魔法を作るならみんなが使ってくれるような魔法が良いのだけど万人に受ける魔法ってなんだろうか?
まずみんなが欲しいと思う効果であること、これは必須。
次に消費MPの低さもほぼ必須だろう。
その上で何度も使用したくなる魔法が望ましい。
とすれば、毎日使うような魔法が良いか?
「能見、能見!!」
「は、はい!!」
慌てて立ち上がると目の前に先生がいた。
いつの間にこんな所に来たんだ?
「上の空ってレベルじゃないな」
「雲を眺めていたもので」
「掴めない雲を見ても役に立たないぞ」
もう掴めない雲なんかじゃない。
ようやく手元に降りてきたんだ。
これを研究するのは授業なんかよりよっぽど役に立つと思う。
「もうすぐ試験もあるんだし勉強しておいた方がいいぞ」
「わかりました、勉強します」
魔法の勉強を、ね。
先生が戻っていったのを確認してまた考えにふける。
学校の勉強はいつでも出来るけど魔法の勉強は今が旬なんだ。
長い長い授業が終わり、ようやく休み時間。
さっそくネットを見て情報を仕入れる。
なるほど、まったく同じ効果の魔法は作れないのか。
作ろうとしても登録されている魔法が表示されるだけらしい。
次に効果を曖昧にするほど消費MPが膨大になる。
例えば漠然と物を動かす魔法にすると消費MPが意味不明な数値になる。
大きさ・重さと言った指定がないかららしい。
他にも時間移動や若返りなどの現実で出来ないことも可能なようだけど、それは効果を限定的にしても消費MPが桁外れに大きいらしい。
うーん、魔法でしか出来ないことをやるにはMPが足りない。
どうしてもレベルを上げるしかないな。
授業終了後。
「俺は帰って魔法を使う準備するぞ!!」
翔は放課後になるとすぐそう宣言して帰っていた。
たしかに魔法解禁に備えるのもありか。
「お兄ちゃんお帰り」
「早いな」
家に帰ると陽菜が既に帰宅していた。
普段は遊び歩いているのに珍しい。
「楽しみすぎて走って帰ってきた」
「解禁はまだいつか分からないだろ」
「肌がきれいになる魔法使うんだ」
「絶対一時的な効果だよ、それ」
「やってみなきゃわかんない」
怪しい商品に騙される人みたいなことを言ってる。
そもそも肌を気にする年齢でもないだろうに。
「お兄ちゃんもやったら?」
「それでモテるならやるよ」
「じゃあやめたほうがいいね」
「そこはモテるよって言えよ!?」
「真実は残酷なんだよ、お兄ちゃん」
うんうんと頷く陽菜。
陽菜は明るい美人でなおかつ気やすい性格なので非常にモテる。
なぜ同じ親から生まれてこんなに顔面偏差値が違うんだ。
「お兄ちゃんは使いたい魔法あった?」
「あるけど決めきれてない」
「ひと目見てスパッと決めなよ」
実はひと目見て決まっているけど陽菜には言えない。
透視とスカートめくりの魔法なんて言ったら馬鹿にされるに決まってる。
でもエロは男子高校生のロマンだから仕方ない。
そりゃあ無理やり襲うとかはやりたいと思わないけどちょいエロぐらいならやりたい。
「まあお兄ちゃんはムッツリだからどうせエロ関係なんだろうけど」
「違うよ!?」
「ほんと?」
「きっと、たぶん、おそらく、めいびー」
「魔法なんかに頼らず普通に口説いたらエロいこと出来るよ?」
「それが出来たら苦労しない」
「魔法ならエロいこと出来るの?」
「男なら、危険をかえりみず……負けると分かっていても戦わなくてはならない時がある」
「つまり失敗する予感があると」
「まあそんなに上手くいくとは思わないし」
「仕方ないなぁ、失敗したら私を口説く権利をあげよう」
「君が生まれた時から好きでした!!」
「トゥンク」
「ちょろい」
まあたとえエロに使えない魔法だったとしても悔いはない。
魔法を使うということがロマンなんだから。
・・・
今日は早めにご飯を食べて寝床に入る。
新しく増えていく魔法は気になるけど、今日の夜に魔法が解禁される可能性は高い。
そうなった時のために睡眠時間は確保しておこう。
「人類諸君、もうすぐ解禁だ」
声とともに飛び起きて世界書を開く。
相変わらず頭に直接響いてくるけど、どうやって声を伝えているのかな?
「さてその前にこちらから一つ理を提供しよう」
「[対抗呪文]、この理は常にきみたちを守るだろう」
世界書の左上あたりに目のようなアイコンが出た。
触ってみるとページが勝手にめくれて魔法のリストのページになった。
名称:対抗呪文
登録者:
効果:自身に対する望まない効果を否定する。24時間有効。
消費MP:1
[対抗呪文]というからには何かに対してのものだよな?
望まない効果を否定するってことは魔法を打ち消すってことだろう。
事前に使っておけば自動発動する感じかな。
「では解禁だ、楽しみたまえ」
声が聞こえなくなった。
え、これで使えるようになったのか?
ならまずは効果の分かりやすい[炎]から使ってみよう。
「【ほn ブブブブ
マナーモードにしていたスマホが振動し始めた。
相手を見ると予想通り翔からだった。
「火が出たぞーーー!!!」
「狼少年か何かか?」
テンション最高潮だった。
そりゃ手から火が出たら嬉しいよな。
さっそく俺も……。
「【炎】」
手の平からパッと炎が出て終わった。
イメージとしてはステーキのフランベだ。
「一瞬だったろ?」
たしかに一瞬だったけど間違いなく炎は出た。
そして現在MPを見てみると11減っている。
つまり俺は今魔法を使ったんだ。
正直信じきれていなかった部分がある。
実際は効果なんて出ないんじゃないかと思っていた。
でもたしかに効果は出ている。
……あれ、どうして11減っているんだ?
[炎]の魔法は消費MP10だったよな。
あ、そうか、[対抗呪文]の分か。
「ちなみにオレの[ヒートテイク]は発動したかどうかすら分からなかった……」
「+3℃じゃ仕方ない」
そういう分かりづらいのを選ばなくてよかった。
これで自信を持って魔法を試せる。
「よく見たら左上に名前とレベルと経験値ってのが増えてるな」
翔からの言葉を聞いてページ左上を見るとたしかに項目が増えていた。
レベルと経験値の表記から連想するのはレベルアップだろう。
「レベル1で経験値11だけど翔は?」
「レベル1で経験値14だな」
経験値が11スタートということはないだろう。
なら俺の11は何らかの理由で増えたことになる。
そして[炎]と[対抗呪文]で消費MP11。
どう考えてもMP消費=経験値だろう。
だとすれば翔の14は……。
「[炎]と[ヒートテイク]に加えて2種も使ったのか」
「なんでそんなことわかんだよ!?」
「消費したMPと経験値が一致してる」
「あ、本当だな」
驚いているけど考えていけば普通に分かる話だろう。
つまりMPを消費することでレベルアップするということなのか。
「これレベルアップしたらMP増えるのかな?」
「RPG的にはそうだろうな」
「だとすると魔法を作るって不利じゃない?」
「たしかにな……」
理論上毎日経験値30得ることが出来るはずなのに魔法を作った人はそれが少なくなる。
維持コストのせいで魔法が使いづらい上にレベルアップも遅くなるなんてデメリットが大きいにもほどがある。
だとすれば魔法を作るメリットとは……?
「翔、経験値は今14だよな」
「ああ、それがどうした?」
「【ヒートテイク】」
手に持っている枕が気持ち温かくなった気がする。
+3℃じゃほんとに分からないな。
「なんか15に増えたぞ!?」
「そういうことか」
「知っているのか、真琴!?」
「お約束のセリフありがとう」
誰かが魔法を使えばその分の経験値がもらえる。
シンプルで分かりやすいメリットだ。
うまくやれば自分一人では到底稼げない量の経験値を得られる。
「ノリで言ったけど、どう考えても今オレの魔法使ったからだよな」
「その通り」
さっきのはネタなだけで翔もとっくに気づいている。
ここで重要になってくるのは魔法を使ってくれる人が多いほど経験値が入りレベルアップが早くなる。
レベルアップが早いほどMPが増えて強力な魔法が作れるということだ。
「これ、強い人ほど強くなりやすいシステムじゃない?」
「そうなるだろうな」
一度波に乗れれば一瞬で高レベルに到達すると思う。
逆に言うと波に乗れない限り高レベルは難しい。
「なんとか高レベルになりたいな」
高レベルになってもっと性能の良い魔法を使いたい。
そのためにはやはり魔法を作って使ってもらうしかない。
使われるにはよほど個性のある魔法じゃないと……。
「珍しく真琴がやる気だな」
「こんな面白いもの見せられてやる気にならない訳が無い」
非常に考えがいのある内容だし魔法で出来ることを想像するとワクワクする。
「面白い魔法思いついたら教えてくれ」
「もちろん」
「じゃあそろそろ電話切るぞ」
「また学校で」
すぐにでも他の魔法を使ってみたいのは山々だけど手当たり次第試すにはMPが足りない。
時間が立てばある程度情報も出るだろうしここは我慢して一度寝よう。
……くそ、でも試したいなぁ、なんで消費MPなんてあるんだよ。
寝床についてもしばらくは眠れなかった。