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第五話

どれくらい時間が経っただろうか。

半刻だろうか。

それとも一瞬だっただろうか。

クライオが魔法で起こした雨はまだ止んでいない。


ソロモンは雨に打たれながら鎮火した村の中心で膝をつく。

初めて見た広範囲にまでわたり影響を及ぼす魔法に、ただぼうっと空を見上げる。


「どうだソロモン。お前の可能性を捨てて良かっただろ?」

クライオはソロモンの隣に立ち高笑いをする。


「そこに誰かおるのか」

ソロモンとクライオは声のする方へ視線を移す。

ローブを着た白髪の中年男性がソロモン達の方へ駆け寄ってくる。


「なんだぁ?偉そうな髭をしたおっさんだな」


「そんなこと言っちゃダメだよ。クライオ」


「クライオだと?俺様を呼び捨てにするとは、いい度胸じゃねぇか。クライオ様だろ」


「おぉ、こんなところに人が。怪我は無いか、少年」

中年男性に声をかけられて、ソロモンがクライオから視線を移す。


「はい、大丈夫です」

ぼうっとしていた意識が中年男性との会話のために戻ってくる。


「そうかそうか、とんでもない魔力を感じたから来てみたら、酷い有様じゃ。たまたま雨が降ったから鎮火したようじゃが」

散乱する住人達の死体と焼け落ちた家屋や森を見渡す。


「えぇ、本当に」

悲しみと憎悪が入り混じった目でソロモンも村だった場所を見渡す。

その視線に中年男性は気付いていたが、敢えて何も言わずにいた。


「へぇ、このおっさん、マナを感じることが出来るのか。なかなかやるなぁ」

ソロモンはクライオの方に視線を向けるが、すぐに男性の方へ視線を戻す。

その様子を見て男性は不審に感じるが、話を続ける。


「お主、エルフじゃろ?実は儂もエルフなんじゃよ」

中年男性は自分の耳を見せる。

男性の耳はソロモンと同じく尖っていた。


「どうじゃろ、少し離れた場所に儂が世話になっとる村がある。行ってみんか?みな、人間族じゃがエルフにも優しい人間ばかりじゃよ」


「すいません。僕にはやらなければならないことがありますので」


「そうかそうか。じゃが、見てごらんなさい。空はもう暗くなっとる。今日だけでも村に来てみんか?」

男性の言う通り、完全に陽が落ちて少し前を見るのも大変なくらいに辺りは暗闇に閉ざされている。


「儂は少し魔法の心得が有っての、待っとれよ」

男性は自身の体ほどある杖を掲げる。


「炎よ、灯りとなりて道を示したまえ。炎の灯火ファイアライト

小さな炎球が男性の周りをフヨフヨと浮き、少し先まで照らす。


「はぁ、人ってのは器用なもんだな。小さな炎を灯りに使うとはなぁ」

クライオは浮いている炎球に近づき、いろいろな角度から様子を見ている。

ソロモンはそれを目で追う。


「それじゃあ行くとしようか。こっちじゃよ」

村に向かって男性が移動し始めるがソロモンは動こうとしない


「何してるんじゃ。はよ来なされ」


村に行くとは一言も言っていないが、これは大人しくついて行くしかないようだ。


「分かりました」


村までは半刻も歩かない距離だった。

エルフの村からほど遠くない場所に人族の村があるのは知らなかった。


「人の村か。昔行った場所よりもなんだか寂れてるな。それに面白そうなことはなさそうだ。一日休んだらさっさと別の場所に行こうぜ」


「そうだね」

ソロモンはクライオに返事をする。

中年男性は一瞬視線をソロモンに移すが、すぐに前に戻す。


「おっ、ルミアスさん戻ったんだね。慌てて村から出ていったからびっくりしちまったよ。後ろの子供は?」

辺りは暗くなっているというのに村の入り口には槍を持った男が立っている。

おそらく番兵なのだろう。

自分の故郷は優秀な兄が不思議な力で村の周辺に結界を張っていたので、誰かが入ってくればすぐにわかるようになっていたが、人族はどうやらそれをしていないらしい。


「フォッフォッフォ、とんでもない魔力を感じてな。慌てて見に行ってみたら村が一つ滅ぼされておったわ」

ルミアスが番兵の方に近づき耳打ちをする。

「この子はその村の生き残りじゃ、優しく接してやってくれ」


「他でも無いルミアスさんの頼みだ。村のみんなに伝えとくよ」

ルミアスは番兵に礼をして、一直線に民家に入っていく。


「ふぅ、やっと家に戻って来れたわい」

ルミアスはローブを脱ぎ、椅子に腰掛ける。


「うわぁ、えらく質素な家だな。こりゃ、俺様が寝る場所はなさそうだ。ここで休むとするか」

クライオはルミアスの狭い家の中を見渡し、窓付近の壁にもたれかかる。

腕を組み目を瞑って、休息を取り始める。


「だから、そんな風に言うのは良くないって」

ソロモンの言葉を聞いているのかわからないがクライオの反応はなかった。


「なぁ、少年。名をなんと申す?」

ルミアスがソロモンに話しかける。


「僕はツニア村ソロモンです」

クライオの方から視線をルミアスに向ける。


「ふむ、儂は話しているところを聞いたかもしれんがルミアスという。してソロモン。一つ聞かせて欲しいんじゃが、お主には何が見えているんじゃ?」

ルミアスは言葉を一度区切る。


「初めは一人で話しているのかと思っていたんじゃが、目の動きなんかを見ていると明らかに何かを追っているように見えるんじゃ。そこに誰かおるのか?」

ルミアスは窓付近の壁の方へ視線を向ける。


「えと、クライオがいます」


「クライオとな?儂には何も見えんが」


ソロモンの戸惑う様子にクライオが笑い始める。


「ははは、そうだソロモン一つ言い忘れていたんだがよ。俺様達、悪魔は普通のやつには見えねぇぞ」


「見えない?」


「あぁ、常人には見えねぇ。俺達が姿を見せようと思えば見えるがな。こんな風に」


「ふぉぉぉぉぉ!」

クライオの姿が見えるようになったようで急に現れたので、ルミアスは椅子から転げ落ちる。

いきなり現れたらただでさえ驚くのに、クライオは悪魔なので見た目が人間離れしている。

余計に驚いただろう。


「よう、オッサン。邪魔してるぜ」


「お、驚かすでないわ!」

ルミアスは声を張り上げる


「ははは、おっさん面白えな。今日はこのまま姿見せておくからよ」

クライオはニタニタと笑う。


「あれがクライオです・・・」

ソロモンは申し訳なさそうに話す。


「なるほどのう。誰と話しているのかと思ったが、ようやく理解できたわい。それにしてもどうやって姿を消してたんじゃろう。儂にもやり方を教えて欲しいわい」

顔を赤らめて、明らかに良くないことを考えている顔をしている。


「おじさん・・・」

ソロモンはルミアスを見て引いている。


「ふぁ!?まぁ、今日はゆっくりと休むが良い!ソロモンはそこのベッドを使うと良いぞ」

顔をすぐに真顔に戻して、ルミアスは椅子で目を瞑る。


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