燃え盛る森の中、木々と家屋が音を立てて崩れ落ちる。
少年は声にならない声で叫び、絶望に打ちひしがれる。
強く握った拳には血が滲み出る程に何度も地面を殴った。
自分が居て何かが変わったかは分からないが、それでも自分の無力さを恨まずにはいられない。
憎悪に満ちた少年の瞳に映るのは・・・。
◇
僕の兄ルカインは極めて優秀だ。
兄には不思議な力が有った。
掌を翳すだけで勢いよく水を放出し、手で空を扇ぐと強い風が吹く。
地面に触れれば地形を変えて、思った場所に火を起こすことが出来るのだ。
その不思議な力を買われて村の防衛を全てを担っている。
それだけに留まらず腕っぷしも強い。
僕達森の民が住んでいる森に侵入してきた悪意ある平地の民を一人で制圧して、帰ってきたのは村の誰もが知っている話だ。
不思議な力と組み合わせた剣の腕は誰も真似することが出来ない。
それは一つの芸術だと感じるものもいるだろう。
そういった理由で村の男衆の中には兄に尊敬の念を抱くものも多いのだ。
兄を慕っているのは男性だけではない。
サラサラの金髪を綺麗に整えて、目鼻立ちの整った綺麗な顔をしている。
村の女性達は年齢に関わらず兄が横切るだけで黄色い声を出す。
さらに頭脳明晰で防衛体制や緊急時の流れなども全て兄が考案しており、この村の防衛の要は兄だと誰もが理解している。
若い衆皆の強い推薦も有り、兄は史上最年少で村の議会にも所属していた。
議会とは村の運営や取り決めなどを決める場所で、基本的には経験豊富な人。
つまり、村の中でも老練なものしか入れないのだが、若い衆全員の推薦となれば誰も断ることができなかった。
そんな天才的な兄も初めは議会の中でも若造と甘く見られることもあったのかもしれないが、それでも長老達と必死に議論をしていた兄は本当にすごいんだと思う。
村の若い衆全員が何かしらの憧れを兄に対して抱いているのだ。
一番近くで見ていた僕が兄に憧れを抱かないはずがない。
自分だって兄のように強く気高い剣士になりたい。
誰に言われるでもなく、そんな漠然とした夢をずっと持っていた。
だが、現実はそんな甘くはなかった。
兄は自分が使う不思議な力を村人達に教えて、皆が大なり小なり兄が使っていた不思議な力を使うことができるようになっている中、僕には才能が無いのか全く発動することがなかった。
不思議な力が使えないことは僕の夢を打ち砕くだけではなかった。
誰でも出来ることが出来ないというのは、人を罵るのに充分に素材となる。
親からは兄と比べられ心無い言葉を浴びせられた。
村人は表立って何かをいうことはないが僕が側を通るとコソコソと何かを言っていることが多々あった。
同い年のくらいの若い衆には暴力を振るわれたこともあった。
だけど兄だけは、兄だけは違った。
親に何か言われた時は庇ってくれた。
村人達には僕のいいところを言い触れてくれた。
暴力を振るわれてる時はすぐに駆けつけて僕を守ってくれた。
それでも兄が外の見回りに行ってる時なんかを見計らって暴力を振るわれることはあったが、兄を心配させたくないという一心で兄には言わなかった。
兄のお荷物になりたくなかったから。
兄は僕が掛けて欲しい言葉をいつも掛けてくれる。心が読めるのではないと何度思ったことか。
そんな兄にかけてもらった言葉で僕は生涯絶対に忘れることが出来ない言葉がある。
"こんな力が使えなくても気にする必要ないさ。俺と同じことをする必要はない。自分の出来ることを探せばいいんだ"
僕はこの言葉の通り、自分に出来ることを探した。
そして12歳になった僕は木こりとして、村に木材を供給している。
不思議な力が使えないと判明してから6年が経ったが今でも諦められない自分がいた。
いつかあの力を使えるようになって、自分を唯一認めてくれた兄の負担を肩代わりしたい。
その気持ちは心の奥深いところに根付いていた。
何度も諦めようと思ったが、兄に対する強い憧れが邪魔する。
木こりの仕事はそこまで忙しく無く、ちゃんとやっていれば問題ないので、仕事がない時はずっと練習に励んでいたが使える気配すらない。
少し木こりの仕事の話をしようと思う。
この村の近くには天にも届くのではないかと思うほどに大きな樹が存在する。
大樹の強い力のおかげでこの村は豊富な資源があり生活には困らない。
ただ大樹の生命力が強すぎて尋常では無い速度で周りに木が生えてくるのだ。
その為、専属の木こりが大樹のそばにある小屋で寝泊まりをして、毎日木を切り倒す必要があった。
僕が仕事に就く前に木こりをやっていた者は自分で切り倒した木に押しつぶされて死んでしまったらしい。
そこで僕に声が掛かった。
大樹のそばにある小屋で死ぬまで過ごすことになるが、むしろありがたいと思った。
僕は村に住む全員から疎まれていて、必要最低限しか交流もない。
当たり前のことを当たり前に出来ない僕は厄介者だったのだろう。
村人達の目を気にして仕事をするより、一人でコツコツとしている方が性に合う。
むしろそんな厄介者の僕だからこそ声が掛かったのかもしれない。