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三十三話 オレたちの日常



 何を言っているか解らないかも知れないが、家に帰ったら部屋がラブホになっていた。部屋はピンクのライトでライトアップされていて、ベッドには真っ赤なシーツが掛かっている。悪い夢を見そう。ベッドサイドにはローションとコンドームをセットし、エッチな映像作品も用意。小型冷蔵庫の中にはドリンク各種とアイスが突っ込んであってサービスも充実。唯一の難点は部屋の中にシャワーがないってこと。


「完璧じゃん」


「完璧だな」


 オレと晃は出来上がった部屋を見て、満足して頷き合った。「夕暮れ寮ラブホ化計画(馬鹿)」が無事完成である。いやあ、あちこち行って研究したかいがあったな(笑)。非常にそれっぽく仕上がったじゃないか。ここが男子寮じゃなけりゃ完璧だった。


「まあ、ラブホとは言ってるけど要するにホテルよな。たまには他の部屋に泊まれるってのも良いと思うのよ。気分転換にもなるし」


「まあ、そういう考えはアリか」


 オレも本当にラブホになるとは思ってない。さすがに身近にホモなんかいねえだろ(ブーメラン)。


「どうする? 宮脇でも招待する? それとも航平? 二人閉じ込める?」


「閉じ込めてどうすんだよ。宮脇は微妙に潔癖だから、他人のベッドとか嫌じゃね?」


「ああ。確かに」


 シーツは綺麗にしてあるけど、そういうところ神経質そうだよな。まあ、オレこのベッド使ってないんだけどさ。オレの部屋は、相変わらず晃の部屋である。自分の部屋は物置状態を脱したが、依然としてろくに使われていない。


「しかし、片付けしている時は、出ていくのかと思ってたのに、まさかラブホ作ろうとしてたとはね……」


「いやあ、最初は晃が風邪ひいた時のために部屋を片付けておこうと思ったんだけどさ。気づいたらやりたくなっちゃって」


 オレが部屋を片付けていた時、晃はオレが出ていくつもりなのだと思っていたらしい。オレはただ、部屋を使っていないと傷むと聞いたから片付け始めたんだけどな。風邪とかケンカとかで一緒に寝られないとき用とかにも良いし。ちなみに、ケンカする気配は今のところない。ささやかな言い合いや誤解はあるものの、大抵は晃が泣き出して終わり。このイケメン、大分泣き虫である。


 晃が不意に、背後からオレを抱きしめて来た。急に抱きしめられ、「おわ」と変な声が出る。


「晃?」


「本当にちゃんとラブホっぽくなったか、確認したほうが良くない?」


 耳元にキスを落としながら、そんなことを言ってくる。オレは呆れ半分、同意半分で口元を緩める。


「ベッドの使い心地とか?」


「ん」


 ギシと音を立てて、ベッドに横たえられる。唇に吸い付きながら、晃が服の裾に手を差し入れる。


「レビュー入れないと……」


「最高のホテルでしたって?」


「シャワーがないのがマイナスです。って」


 オレの返答に、晃は目を丸くし、オレの額に自分の額を擦りつけ、クスクスと笑った。




 ◆   ◆   ◆




「あん? ラブホだ? また馬鹿やってんな」


 航平の声に、「まあな」と返事をする。


「レビュー評価は星4つ。清潔なベッドに充実したアメニティ。雰囲気の良い部屋には見放題の動画チャンネルもあります。ただしシャワーはありません」


「ウケる。まあ良いよ。律でも連れて行くわ」


「オレはお前が吉永パイセンを律呼びしてんのがウケるわ」


 七つ上だぞ? 先輩だぞ? 敬え?


 突っ込んでみたが、航平は鼻を鳴らしただけだ。取り敢えず予約二名様確保である。せっかく作ったのに、オレたちだけ使うのもなんだしな。


(まあ、晃とイチャついたベッドを使わせるという罪悪感も、多少あるんだけど……)


 まあ、良いだろう。航平だし。宮脇だったらなんか繊細だから、体調不良になるかもしれないけど、航平なら雪の日に裸で外に出しても風邪ひかなさそうだし。


 オレは航平を見送り、晃の部屋へと戻った。ベッドの上では晃が、スマートフォン片手に寛いでいる。その横に飛び乗るようにダイブして、膝の上に顎を載せた。最近は晃の膝の上がお気に入りである。あまりゴロゴロしていると晃のスイッチが入ってしまうので要注意だ。


「航平どうだった?」


「吉永パイセン連れて泊まるってさ。ちゃんと二人で使ってくれんのウケる」


「まあ、吉永さんなら笑って許してくれるだろ」


 あの人ノリ良いし、と晃が髪を撫でて来る。その手が心地よくて、目を細めた。


「んー。しかし、ラブホ面白いと思ったけど、ボツだな。なんか冗談通じる人どのくらいいるか解らんし」


「鮎川と岩崎は? 鮎川絶対怒らんでしょ」


「あー。仏の鮎川だもんな。でも岩崎ちゃんちょっとヤンキーじゃん。怖いわ」


 色々と案を出すが、やっぱり誘える人物が少ない気がするんだよね。


「俺はもう一回、お前としても良いけど」


 晃が顔を覗き込んで、そんなことを言ってくる。ムードのある部屋でのエッチは、ちょっと異空間っぽくて盛り上がってしまったんだよな……。しかも晃のヤツ、ノリノリで三回も――。


「やっぱ、ラブホなしだわ」


 ベッドどころか、壁に手をついてもしたし。床でも――。と考えると、やっぱりそんな部屋を他人に貸すのは良くない気がする。精神衛生上。


「なしだな」


 晃も同意する。


「次、何しような~」


「遊びも良いけど、俺は少し恋人らしく過ごしたいけどな?」


「っ……、それは……」


 晃の言葉に、カァと顔が熱くなる。晃が身をかがめ、キスを落とす。俺は晃の首を引き寄せ、唇に吸い付いた。


「んっ……。キスだけ……?」


「隣、航平と吉永さん来るんじゃないの?」


「……じゃあ、出来るだけ、静かに」


「オーライ」


 晃はクスリと笑って、オレの首筋にキスをした。





終わり






(余談)




「おい晃、置いてあったゴムとローションねーんだけどwww」


「えw あいつら使ったの?wwww」





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