目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

二十八話 友人からのリークでは



 嘘は身を滅ぼす。とは誰が言い出したことか。ことわざではないにせよ、共感出来たからこそここまで浸透しているのだと思えば、嘘で身を滅ぼしたヤツは多いのかも知れない。


 オレは食堂でカレーを食いながら、入り口の方を見ては来ないだろう人物のことを想う。食堂のカレーは美味いのに、なんだか気分が上がらない。


 牛丼を送り付けあった日々も。ピザを大量に届けたあの頃も、一緒に蕎麦屋をやった日々も、帰ってこない。


 ため息を吐きながらカレーをかき混ぜていたオレの目の前に、同じくカレーライスの乗ったトレイを置いて、航平と宮脇が座った。


「なにかき混ぜてんだ。さっさと食えよ気持ち悪い」


「混ぜ派のみなさんも居るんだぞ久我。納豆とか生卵派もいるんだ」


「うへ」


 嫌そうに顔をしかめ、航平はスプーンを手に取り、大口を開けてカレーを口に運ぶ。


「なんか暗いぞ?」


「あー、うん」


 もう一度ため息を吐こうとして、ぐっと飲み込む。また暗いと言われそうだ。


(……宮脇は、オレと晃のこと、解ってるんだよな)


 何故かバレてしまった、二人の関係。宮脇なら、相談に乗ってくれるだろうか。間に立ってくれるだろうか。


「……あのさ、宮脇。ちょっと、相談が」


「相談? お前が?」


「お前には言ってねえし」


 口を挟んでくる航平を睨み、宮脇を見る。宮脇は目を瞬かせ、首を捻った。


「ん? どした?」


「いや、ここじゃちょっと……。晃のことでさ。地雷踏んで」


「はぁ? アイツ地雷なんかあるかよ」


「とにかく、相談」


 気の乗らなさそうな宮脇に、必死で頼み込む。


「今度なんか奢るから!」


「うーん。そういや、当の本人はどうしたよ? 交えた方が早くね?」


「いや、それは……。それに、晃のヤツ忙しいっぽくて。今週は残業とか」


 だからまずは相談に乗って欲しい。そう言い掛けたオレに、再び航平がしゃしゃり出てきた。


「ん? 残業なわけねえだろ。今あそこ閑散期だぞ。トラブルもねえし」


「え?」


 なんとなく、思っていたことを口に出され、言葉を詰まらせた。宮脇も眉を寄せる。


「は? じゃあ、なにやってんのアイツ。今週見てないぞ?」


「ネカフェに行ってるっぽいぞ。律が見かけたって言ってたから」


 航平の言葉に、思考が停止する。


(は? 忙しくない? 残業だって嘘ついて、ネカフェに居る?)


 つまり。


 ――つまり晃は、オレの話を聞く気がないのだ。


 オレとの話し合いを避けて、ネカフェで毎日時間を潰していたのだ。


 メッセージも無視して。


「―――」


 ぐっと拳を握ったオレに、宮脇が心配そうに顔を歪めた。


「一緒に行くか?」


「……一人で行く」


 宮脇が付いてこようとしたが、断って立ち上がる。


 今の自分の感情を、どう表現していいか自分でも解らない。モヤモヤして、イライラして、哀しくて、苦しくて。


 色を混ぜすぎて汚くなった絵の具みたいに、どろどろでぐちゃぐちゃしたものだった。


「深呼吸しとけ」


「……」


 航平の言葉に、息を浅く吸い込む。深呼吸しようと思ったが、うまく出来ない。航平は苦笑いして「ちょっと待っとけ」と言うと、ラウンジに置かれた自販機からビールを買って戻ってきた。


 無言で受け取り、一気に飲み干す。空いた缶を宮脇に押し付けて、オレは食堂を飛び出した。








この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?