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二十六 決意



(言えんかった……)


 パソコンのモニターを睨みながら、ハァとため息を吐き出す。


 結局、あれから一週間が経ってしまったが、オレはまだ晃と話せていなかった。おかげで、仕事にもちっとも身が入らない。


 何度か「話がある」と言ったのだが、どうも晃のほうに話を逸らされてしまう。ラブホテルでの一件から、オレと晃の距離は、少し変わってしまった。相変わらずスキンシップはあるものの、深く触れ合うことまではしていない。抱きしめられ、キスはするものの、それ以上はないのだ。


 あの日、「ゴメン、もう言わないから」と言った晃の真意は、恐らくオレが晃とのセックスを怖がっていて、出来ないと思ったのだろう。それで、もうそのことには触れないと言ったのだ。


 だが、違う。そうじゃない。


 それは興味あるんだ。やってみたいと思ってる。けど、順番が違うと、理性が邪魔をする。


 晃と今後も向き合いたいのなら、付き合いたいと思っているのなら、オレが馬鹿だったことをちゃんと伝えないとダメだ。そして許しを請い、改めて晃が好きだと告白するべきだろう。もちろん、うまく行くとは思っていない。こんな非常識でどうしようもない嘘を吐いたオレを晃が許してくれるとは思えない。だから、これはケジメだ。


(――けど、全然、話せてないんだよな……)


 面と向かって話しても、どうしても話を逸らされる。「後で良いだろう」とか「今じゃなくていいよな」とか「それよりさ」とか、そんなことを言い出して、絶対に聞いてくれないのだ。


(なんでだ……)


 このままじゃ、ズルズルと今の状況を引きずるだけだ。ちゃんとしないと。ちゃんと、向き合わないと、オレは先に進めない。このままにしたら、絶対に後悔する。


 出来れば、友達を辞めるとまでは言わないで欲しいけど――。


(一か月口きかないくらいで、許してくんないかな……)


 ハァとため息を吐き、モニターを見る。考え事をしながら入力作業をしていたおかげで、画面に「晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃晃」と打っていた。慌ててデリートして、首を振る。こんなんじゃ、ダメだ。仕事に支障も出てるし、良くない。


 意を決して、スマートフォンに手を伸ばす。


『話したいことあるから、聞いて欲しい。大事な話。帰ったら話したい』


 そう、メッセージを送信する。


 しばらくして、メッセージには既読がついたが、返事が返ってくることはなかった。




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