晃に肩を押されて、ベッドに沈められる。キスをしながら、晃がバスローブをはだけさせ、肩を撫でてくる。
「ふっ……、ん……」
「陽介……」
吐息を吐き出して、晃の唇が鎖骨に落ちる。そのまま、肌を滑る唇に、ゾクゾクと身体が震えた。
「あっ……、それ……」
敏感な突起を舌先でつつかれ、ビクンと身体が跳ねる。晃は舌先でそれを弄びながら、もう片方の突起を指で摘まんだ。
「っ……!」
甘い痺れに、どうして良いか解らなくなる。明確な快感とは違う、もどかしい感覚。だが、確かに気持ち良くもある。
「あっ……、晃っ……」
「可愛い、陽介……」
「っ、な、なんだよっ、可愛い、って……」
恥ずかしさに、顔を腕で覆う。そんな風に、言われたことなどない。
「陽介は可愛いよ……。明るくて、笑顔で、いつも楽しそうで」
「ばっ……! いま、言うことじゃないだろっ……!?」
急に褒められ、カァと顔が熱くなる。そんな風に言われたら、嬉しくてにやけてしまうだろうが。
「
カリっと、歯を立てられ、「あっ!」と悲鳴を上げる。
「か、噛むなよっ……」
「ゴメン、痛かった?」
そう言いながらフッと笑う様子に、オレは内心(絶対に反省していないな)と思った。晃は悪びれた様子もなく、そのまま舌先で入念に愛撫を繰り返す。ざわざわとした快感が、腰のあたりに疼き出した。
(すげ、ドキドキする……。死にそう……)
恥ずかしいし、緊張するし、どうにかなってしまいそうだ。
晃が顔を上げ、バスローブを縛る腰ひもに手を伸ばした。その手を思わず掴んで、首を振る。
「ま、待って、そのっ……」
「なに」
「あ、あんま見るなよっ……」
「今さら? 部屋で全裸でうろついてるだろ」
「それは、そうなんだけど」
それはそうなのだが、今までと今は違うじゃないか。その時は別に風呂上りでウロウロしてただけだし、今はエロいことをしようとしている。ていうか、お前がエロい目で見るからだろうがっ。
グダグダしている俺に、晃がしびれを切らすように強引に紐をほどいた。
「あっ! おま」
「それ、興奮するだけだから」
「――は……あっ!?」
なんだよ、興奮って。
真っ赤になって戸惑うオレの太腿に、晃がバスローブ越しに自身を押し付けた。晃の欲望が、既に堅く張り詰めている。ゴクリ、喉を鳴らして、オレは唇を結んで押し黙った。本人の申告通り、興奮しているのだろう。オレを抱きたくてそうなっているのだと思うと、非常に恥ずかしいやら、嬉しいやら。
「っ……、そ、それなら、お前も脱げよ……」
バスローブの前を合わせて身を隠しながら、晃にそう告げる。躊躇するかと思ったのに、晃は眉を上げて鼻を鳴らすと、思い切りよくバスローブを脱ぎ捨てた。
「――っ」
ドキリ、心臓が鳴る。ホテルの赤味の強いライトが晃の肌を照らす。裸を見たことがあると言っても、まじまじと見たことはない。程よく筋肉のついた、引き締まった身体は、なんとなくエロい雰囲気がある。オレが晃にやましい気持ちがあるから、そう見えるだけだろうか。
「脱いだぞ。ほら、お前も脱げよ」
「っ、う、ん」
こうなると、恥ずかしがっているのがダサいように思えて来る。晃はなんでもないように振舞っているのに、オレばっかり意識しているみたいだ。
パサリとバスローブを脱ぎ、近くにある椅子に放り投げる。晃がオレの肌を見る。視線を感じる。首筋、鎖骨、胸。腹、臍。それに、半勃ちしているのも。
晃はオレと向かい合って、頬に手を伸ばしてきた。オレたち、本当にヤるのか。マジで、冗談では済まなくなる。互いに抜きあったけど、それはなんか、言い訳出来そうな気がしてた。けど、これはそうは行かない。
晃の唇が、瞼に触れる。そのまま、頬、唇と降りてくる。優しくキスをされて、自分が酷く緊張しているのだと気がついた。小さく震える手を、晃が握る。
「どうするか、知ってる?」
とは、そういう性知識があるかの確認だろう。男同士のなんたるかを詳しく説明しろと言われれば、経験も興味もなかったのでハッキリ言えばよく知らない。だが、悪ふざけめいた下ネタとして、ケツを使うという知識はある。そっちには女性相手にも興味がなかったため、当然未経験。AVにそういうジャンルがあるのは知っているが、マニア向けという意識しかない。つまり、殆ど知らない。
「触り程度」
「OK。まあ、何とかなるだろ」
「……」
行き当たりばったりである。晃の方は知っているのだろうか? 詳しい話をしないまま、晃は備え付けてあったローションを手にした。
「陽介、脚、開いて」
「え」
その言葉に、羞恥心がブワッと湧いてくる。
「いや、嘘、無理」
「……陽介」
甘い声で囁かれ、ビクリと肩を揺らす。宥めるように額にキスする晃に、おずおず、といった感じで足をゆっくりと開く。すげえ、抵抗ある。半泣きになりながらだ。途中から、晃が膝を割って、強引に腿を開かせていった。死ねる。
ハァ、と晃が吐息を吐き出す。見られている、というのは、顔を見なくても解った。オレは顔を背けて、何かを堪えている。オレの死因は恥ずか死だったと伝えてくれ。もう限界だ。
つっ。と。濡れた感触がして、ゾクッと身体を震わせた。未経験の感覚に、身体が震える。
同時に、何故、今だったのか。
『嘘だったんだ? 最低だな、お前』
と、悪夢がフラッシュバックした。
ドン。
反射的に、目の前の晃を突き飛ばしていた。ハァハァと、荒い呼気を吐き出す。晃の顔が、強張っていた。
「あっ……、っ」
「――」
互いに、言葉が出なかった。
なんとなく目に入った晃の熱は、急速に冷めていた。オレ自身も。
「あ、その、違……」
「――っ……」
言い訳しようとしたが、言葉が出てこなかった。晃が顔を歪める。
何と、いうつもりだ。
今、このタイミングで、「あれは嘘だったんだ」と言えたなら、良かったのかも知れない。けれど、怖くて。
晃の手を失うのが怖くなって、声が出なかった。
しばらく、どちらも黙っていた。一ミリも動かず、ただ茫然としたまま見つめ合う。肌が冷えて、いい加減冷たくなっていたけれど、言い出せずにいた。
先に動いたのは、晃のほうだった。ぎこちなく笑って、何でもないようにオレの肩を叩く。
「っ、ご、ごめんな。ビビったよな。怖かっただろ」
「晃……」
「ほら。冷えるだろ。なんなら、もう一回風呂入っても良いし」
「あの」
「ゴメン、もう言わないから」
言葉を紡がせず、晃はぎゅっと、オレを抱きしめた。その肩が、震えている。
「……ゴメン、晃……」
晃の背に、腕を回す。
晃は、心底ホッとしたように、吐息を吐き出した。