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二十三話 「したいよ」



 バスローブを羽織ったまま、部屋に戻る。ベッドサイドに置かれたメニュー表を確認して、フムフムと唸った。


「なるほど。酒頼んじゃう?」


「馬鹿。車だって。泊まるなら良いけど」


「あ、そっか」


 ちょっと残念だが、オレだけ飲むのは悪いしな。まあ、お泊まりしても良いけど、外泊申請は出していない。寮の規則で、遅くなるときや外泊には許可が必要だ。


 晃が背後から手を伸ばして、メニュー表を奪い取り、そのままテーブルに戻した。


「おん?」


「まあ、座ったら」


「ん。だな」


 もう十分堪能した気もするけれど、時間はまだまだある。ゆっくりしていくのも良いだろう。ご休憩だけに(なんつって)。


 一人で笑っていると、晃が肩をグイと引き寄せる。


「んお?」


「無防備」


 なんのこっちゃい。そう返そうと思った唇を、晃の唇が塞ぐ。


「んむっ?」


 舌を捩じ込まれ、ゾクリと背中が粟立つ。見透かすように、晃の手が背中を擦った。


「あ、ちょ……」


「舌、出して」


 言われるままに、舌を伸ばす。


 あ、これ、エロいキスだ。


(あ、あれ……?)


 舌をなぶられ、ゾクゾクと背筋が震える。ちゅ、ちゅくと、水音が響く。


「あ、晃っ……、ま」


「待たない」


 ハッキリそう告げられ、ビクンと身体が跳ねた。


 身体に体重をかけられ、そのままベッドに押し倒される。そうなれば、何が起きているかようやく気づいて、動揺して顔が真っ赤になった。


(ちょちょちょ、ちょま)


 いや、待たないと言われた? いやいや。待て待て。


「ちょ、ちょ、ちょ、ストップ!?」


「は?」


 不機嫌そうに、晃が顔を上げる。不機嫌なイケメンも格好いい。


 とは言え、オレは動揺して、半ばパニック状態である。だって、現在バスローブ一枚。つまり、かなり無防備な状態。


「ちょっと、待って」


「待ちたくないんだけど」


「いっ、いつそんな空気に?」


「最初からだろ」


 呆れた様子の晃に、一人(ひょええ)と身体を抱き締める。


「まさか、ホテルに来て『そんなつもりなかった』って言い出すタイプ?」


 晃の言葉に、オレは引き笑いを浮かべる。


「いや、あの、その」


 だって、まさに『そんなつもりなかった』ってヤツなんだもん。


「その、次の遊びを」


「その話、後で良いだろ」


「いや、だって」


 後でも良いけどさ。その話に関係があるんだもん。


 体育座りになったオレに、晃は呆れた様子でため息を吐いた。すぐそばに座り直して、オレの頭を引き寄せ、髪にキスをする。


「嫌?」


「え?」


「嫌なら、しな――い、努力する」


「あは」


 努力かよ。


 なんだ。ちょっとビックリしたけどさ。別に嫌な訳じゃない。


 キスだって、触るのだって、したんだし。


「……晃は、したい感じ?」


 ドキドキと鼓動が高まる。晃が頬に触れながら、「うん」と頷いた。


「したいよ」


 掠れた声でそう言われて、ドクドクと鼓動が高鳴る。


「オ、オレ、おっぱいねーし、付いてるけど」


「今さら」


 ちゅ、とこめかみにキスされ、肩の力を抜いた。


 オレで、良いのか。晃は、オレとしたいのか。


(……ちょっと、嬉しい。気がする……)


 じわり、頬が熱くなる。


 オレは、晃が好きだ。キスしたいし、それ以上だって、したい。


「ちなみに、オレが下ってこと?」


「……」


「なに目逸らしてんだ」


「……嫌? 俺、陽介と、繋がってみたい……。陽介の中に、入らせて」


 明確に、役割を宣言され、ゾクンと肩が震えた。


 まあ、なんとなく、そんな気はしたんだ。だから、なんというか、やぶさかではない。うん。嫌じゃない。


「い――い、よ」


 呟きはキスに呑まれて、最後まで発することは出来なかった。





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