バスローブを羽織ったまま、部屋に戻る。ベッドサイドに置かれたメニュー表を確認して、フムフムと唸った。
「なるほど。酒頼んじゃう?」
「馬鹿。車だって。泊まるなら良いけど」
「あ、そっか」
ちょっと残念だが、オレだけ飲むのは悪いしな。まあ、お泊まりしても良いけど、外泊申請は出していない。寮の規則で、遅くなるときや外泊には許可が必要だ。
晃が背後から手を伸ばして、メニュー表を奪い取り、そのままテーブルに戻した。
「おん?」
「まあ、座ったら」
「ん。だな」
もう十分堪能した気もするけれど、時間はまだまだある。ゆっくりしていくのも良いだろう。ご休憩だけに(なんつって)。
一人で笑っていると、晃が肩をグイと引き寄せる。
「んお?」
「無防備」
なんのこっちゃい。そう返そうと思った唇を、晃の唇が塞ぐ。
「んむっ?」
舌を捩じ込まれ、ゾクリと背中が粟立つ。見透かすように、晃の手が背中を擦った。
「あ、ちょ……」
「舌、出して」
言われるままに、舌を伸ばす。
あ、これ、エロいキスだ。
(あ、あれ……?)
舌をなぶられ、ゾクゾクと背筋が震える。ちゅ、ちゅくと、水音が響く。
「あ、晃っ……、ま」
「待たない」
ハッキリそう告げられ、ビクンと身体が跳ねた。
身体に体重をかけられ、そのままベッドに押し倒される。そうなれば、何が起きているかようやく気づいて、動揺して顔が真っ赤になった。
(ちょちょちょ、ちょま)
いや、待たないと言われた? いやいや。待て待て。
「ちょ、ちょ、ちょ、ストップ!?」
「は?」
不機嫌そうに、晃が顔を上げる。不機嫌なイケメンも格好いい。
とは言え、オレは動揺して、半ばパニック状態である。だって、現在バスローブ一枚。つまり、かなり無防備な状態。
「ちょっと、待って」
「待ちたくないんだけど」
「いっ、いつそんな空気に?」
「最初からだろ」
呆れた様子の晃に、一人(ひょええ)と身体を抱き締める。
「まさか、ホテルに来て『そんなつもりなかった』って言い出すタイプ?」
晃の言葉に、オレは引き笑いを浮かべる。
「いや、あの、その」
だって、まさに『そんなつもりなかった』ってヤツなんだもん。
「その、次の遊びを」
「その話、後で良いだろ」
「いや、だって」
後でも良いけどさ。その話に関係があるんだもん。
体育座りになったオレに、晃は呆れた様子でため息を吐いた。すぐそばに座り直して、オレの頭を引き寄せ、髪にキスをする。
「嫌?」
「え?」
「嫌なら、しな――い、努力する」
「あは」
努力かよ。
なんだ。ちょっとビックリしたけどさ。別に嫌な訳じゃない。
キスだって、触るのだって、したんだし。
「……晃は、したい感じ?」
ドキドキと鼓動が高まる。晃が頬に触れながら、「うん」と頷いた。
「したいよ」
掠れた声でそう言われて、ドクドクと鼓動が高鳴る。
「オ、オレ、おっぱいねーし、付いてるけど」
「今さら」
ちゅ、とこめかみにキスされ、肩の力を抜いた。
オレで、良いのか。晃は、オレとしたいのか。
(……ちょっと、嬉しい。気がする……)
じわり、頬が熱くなる。
オレは、晃が好きだ。キスしたいし、それ以上だって、したい。
「ちなみに、オレが下ってこと?」
「……」
「なに目逸らしてんだ」
「……嫌? 俺、陽介と、繋がってみたい……。陽介の中に、入らせて」
明確に、役割を宣言され、ゾクンと肩が震えた。
まあ、なんとなく、そんな気はしたんだ。だから、なんというか、やぶさかではない。うん。嫌じゃない。
「い――い、よ」
呟きはキスに呑まれて、最後まで発することは出来なかった。