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二十二話 ※本当にお馬鹿です。



 部屋も大分スッキリしてきた。もう倉庫とは呼ばせない。狭いだけで部屋である。


 さて。夕暮れ寮、ラブホ化計画(馬鹿)の準備を着々と進めるオレである。ラブホテルを色々と検索して「こことかどうだ?」とか「ここ面白そう~!」って感じで晃と探している。晃の方は「う、うん」とか「あー、んー。ソウダネ」って、どこかぎこちない感じなので、もしかしたら反対なのかも。


 まあ、ネタとしてはどぎついのかも知れないけどさ。男子寮のノリってヤツだよ。きっとウケる!(確信)


 というわけで、色々と吟味した結果、地元の高速道路付近に建てられている、とあるラブホテルへ行く事になった。一番近くにあるラブホテルは駅近くなのだが、そちらは写真をみる限り、ビジネスホテルみたいな普通の感じだったのだ。


「ラブホテルって僻地にあんのな」


「そりゃあ、周囲にあったら嫌でしょ」


「そっか?」


 運転席に座る晃の姿は、なんとなくいつもより格好いい。いや、いつもイケメンだけどさ。


 今日は周囲に何もない場所に行くため、車を出してもらった。晃の運転する車に乗るのは初めてなので、それも結構嬉しい。


 鼻息混じりでドライブを楽しむオレとは反対で、晃はやや緊張した面持ちだ。久し振りの運転で、緊張しているんだろう。


「晃、運転上手じゃん」


「このくらい、普通だろ」


 とか言っちゃって。口許が緩んだの解ってるんだぜ。




   ◆   ◆   ◆




 予定していたホテルは閑散としていて、すんなりと入ることが出来た。まあ、土曜の真っ昼間にラブホテルに来るヤツの方が少ないんだろう。


 扉を開き、さっそく中の様子を確かめていく。


「おおーっ。ラブホって感じだ!」


 壁紙は赤だ。高級感を演出しているのか、アラベスク模様が全体的に描かれている。大きなテレビにゲームにカラオケ。アミューズメントもそれなりに揃っている。


(ふむふむ。ローションにコンドームか。これを置くだけでもそれっぽいな)


「晃! ベッドでかい!」


「あんま、はしゃぐなよ」


 スプリングを確認し、上機嫌のオレに晃が近づく。晃はやはりテンションは低く、表情が固い。


「――陽介」


「あっ! 風呂!」


 何か言いかけた晃の横をすり抜け、ガラス張りの風呂を見に行く。


 風呂は用意できないけど、やっぱチェックしたいポイントだよな。


「おおーっ。光る! あ、晃! これジェットバス! 一緒に入ろう!」


「――う、うん」


 晃を誘い、バスルームに引っ張り込む。お湯を溜めてパッパと服を脱ぐオレに対し、晃はやけにモタモタしていた。


 とぷん。浴槽に浸かると、すぐにジェットバスを起動する。


「おひょー、良いわー」


「っと、結構、強めだな」


 お湯の中は、謎にライトアップされていて、妖しい雰囲気がある。だけど、ジェットバスで揺れる水面が光を拡散して、ちょっとだけ綺麗だった。


「案外、ロマンチック」


「……だな」


 下から照らされるライトの光が、晃の頬を染めていた。水しぶきが跳ね、雫が肌に浮く。


 ドキリ。鼓動が跳ねた。


 晃が鬱陶しそうに、濡れた前髪をかきあげる。濡れた髪が肌に張り付いている。


(……)


 ゴクリ。喉を鳴らす。


 親友の色気がヤバい。こんなにエッチな雰囲気の男だっただろうか。ドクドクと心臓が鳴る。


 お湯にたぷんと顔を浸けるオレに、晃が怪訝な顔をした。


「何してんの?」


「ぶぉあぶおぶ」


「解らんて」


 言い訳を考えて視線を逸らし、バスルームの入り口に置かれたものが目に入った。


「あっ!」


 ザブンと湯船から飛び出し、バスルームに駆け込む。


「っ、おい、跳ねただろっ」


「晃っ! これ!」


 それを引っ張りだし、身に纏う。


「バスローブ! これ良い!」


 バスローブ良いじゃん。ホテルなんかにもあるけど、結局使ったことないんだよな。でも、これ雰囲気あるじゃん。


 フッフッフ。夕暮れ寮ラブホテル計画が着々と進むぜ。


「――……」


 晃が生暖かい目でみているが、構うもんか。バスローブ引っ張りだし、晃に手渡す。


「はい、お前の分」


「……まあ、着るけど」


 何か諦めたようにため息を吐く晃に対し、オレは上機嫌で笑うのだった。




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