はむ、と熱々のギョーザを口に放り込む。焼き目のついた皮がパリリと弾けると同時に、中からジュワワと肉汁があふれでてくる。豚の脂の甘さと旨味がぎゅっと詰まった、ジューシーな餃子に、思わず唸った。
「んんーっ♥ んまーい」
「はは。旨そうに食うなぁ」
カウンターに並んで座る晃が、オレの顔を覗き込んで嬉しそうに笑う。その表情にドキリとして、ゴクンとギョーザを飲み込んだ。
「な、なんだよ。見んなよ」
「あまりにも美味しそうに食べてるから」
「う、美味いんだもん、そんな顔になるだろ」
「うん。そうだな。俺のもやろうか?」
「い、良いって!」
譲ろうとする晃に、首を振ったのに、晃はオレの皿にギョーザを載せてきた。まあ、食べるけどさ……。
晃の視線が、落ち着かない。
(いやまあ、前からこんなヤツではあるんだけどさ……)
オレが食べていると、「もっと食え」とばかりに自分の分もくれるようなヤツだった。意識してしまうのは、キスをしたからだろうか。
(ってか、晃のヤツ、あんなキスするやつだったんだな……)
エロくて、激しくて、ちょっと、強引なヤツ。
と、思い出してしまい、ポッと顔が熱くなる。
(いかんいかん。思い出すな。……今までのカノジョとかとも、あんなキスしてたのかな……)
想像して、何故か胸がモヤりとする。
「? どうした、陽介」
「い、いや、なんでも」
急に黙り込んだオレに、晃が首をかしげる。
オレは誤魔化すように、「あ、チャーハンも頼んじゃおう」とわざと明るく振るまった。
◆ ◆ ◆
いやいや、違う。
そうじゃないのだ。
(キスに動揺してる場合じゃなかった……)
ベッドに寄りかかりながらテレビを眺め、急に思い出してセルフ突っ込みを脳内で行う。テレビではおしゃれなハンバーガー特集をやっていて、都内のカフェレストランを紹介するバラエティーが流れている。
「次、ハンバーガーでも作るか?」
「あー、うん。良いね。チーズ増し増しで肉! って感じのヤツ好き」
晃の言葉に相づちを打ちながら、脳内では別のことを考える。
動揺してる場合じゃない。はやく誤解を解くべきだ。
『あれ、冗談だったよ★ 騙された~?』
って、軽く明るく言わなきゃならん。もうキスまで(しかもベロちゅー)してしまったし、このままじゃ色々と気まずい感じになっちゃう。
ああ、嘘なんかつくもんじゃないな。イタズラにしても、ちゃんと分別をつけるべきだ。うん。
(しかし晃のヤツ、男相手に平気でキス出来ちゃうヤツなのね……)
そしてオレも、晃とキスしても平気なヤツだった。うん。
まあ、晃は見た目イケメンだし、毛深くないし、キモい感じじゃないからな。なんか別に、全然平気。
考えごとをしながらテレビを見ていると、不意に晃が肩をぶつけて来た。ビクッと肩を揺らし、晃の方を見る。
「っ、な、なんだよっ」
「聞いてんのかって。ボンヤリしちゃって」
「え? 何か言ってた?」
うわ、マジで聞いてなかった。晃はむぅと唇を曲げ、眉を寄せる。
「本当に聞いてないし……。明日、渋谷行くかって。さっき紹介されてた店」
「え? ああ、ハンバーガーの?」
「うん。俺、ああいうグルメ系ハンバーガー食ったことないし」
ああ、オレもあんなハンバーガー食ったことねえなあ。結構高いし、オシャレだけど。
晃は「それに」と言って視線を向けた。
「ちゃんとデートしたい、じゃん?」
「――は」
デート? デートって……。
一瞬、なんのことか解らず思考停止する。それから、遅れてジワりと顔が熱くなった。
「っ、あの、なあっ……。デートって……」
ただ、出掛けるだけじゃんか。そう反論しようとしたのに、晃が指を絡めてきたので、口に出せなかった。
ぎゅうっと唇を結んで、真っ赤な顔をしたオレを、晃が笑う。
「な、行こ?」
「っ――」
晃の唇が、耳を擽る。なぞるように触れられ、ゾクゾクと背筋が粟立った。
「んちょぉっ……!」
「陽介」
「わっ、解った! 解ったから!」
晃の胸を押し返しながらそう返事して、耳を押さえる。本当に、なにしやがる。
「あは。良かった。楽しみだ」
「このっ……」
文句を言ってやりたかったけど、嬉しそうに笑う晃に、結局は黙ってしまう。
(な、何がデートだよ。いつもと一緒だし……)
ただ遊びに行って、飯を食うだけだ。別に、デートでもなんでもない。
(それより、こんな雰囲気で言えるかよっ……)
すっかり嬉しそうにしている晃に、オレは結局イタズラだったと言えずに、そのまま曖昧にしてしまうのだった。