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三話 悪趣味なイタズラ



 それからと言うもの、オレの部屋は完全に遊び場と化し、期間限定のピザ店やバーへと変貌した。その為、オレは晃の部屋に居を移し、ただでさえ狭い寮の部屋に二人で住むと言う、奇妙な共同生活が始まったのであった。


 ピザ屋は大好評だったし、バー営業も楽しかった。屋台飯もそれなりに面白くて、そば打ちはマジで本気になった。オレはすっかりそば打ち名人になっていたし、晃の作る出汁は完璧で、オレたちは将来は蕎麦屋をやることさえ検討した。


 なお、寮の共有ルームで営業していた蕎麦屋は、「食堂の利用者が減るからやめてね」と、栄養士さんの初瀬川はせがわさんがクレームを入れてきたので泣く泣く営業停止になった。ちなみに、この初瀬川という男は、食堂のメニュー開発も行っている人だ。美味しいと評判の夕暮れ寮の食事は、彼のお陰である。




「次、何やる~? そろそろネタ切れなんだけど」


 そう言いながら、オレはテーブルに置いた小さな鏡を覗き込む。チョイチョイと前髪を弄りながら、「う~ん」と唸っては顔をしかめた。


「そうだなあ……。なあ、洋介、何やってんの?」


「ん。何か上手く染まんなかった……。セルフじゃなくて美容院行きゃ良かった」


「そうか? 綺麗に染まってるじゃん」


 そう言いながら、晃は読んでいた雑誌をベッドに置いて、オレの髪をさらりと撫で上げた。項を撫でられ、ぞわっと背筋が粟立つ。


「うひっ! ばっか! やめろって。そこ弱いんだから」


「あ、ゴメン。ちゃんと綺麗じゃん? 良い色」


「そっかなぁ……。まあ、晃がそう言うなら……」


 セルフで染め上げた髪は、金髪から毛先に向けて赤くなっている。本当はもっとカッコ良く仕上げたかったのに、なんだかイマイチ。そう思っていたが、不思議と晃に褒められると、悪くない気もしてくるから不思議な気分だ。


 オレと晃は、昔からのマブダチみたいに仲が良い。寝るのも起きるのも、飯を食うのも一緒だし、風呂だって(大浴場なので)一緒だ。この部屋だって、一人用の部屋なのに、二人で使ってるから、結構狭いんだけど、そんなのが気に入らないくらいだ。


 今も、各々勝手なことをしながら、呑気に過ごしている。


「そろそろ寝る?」


「んー。寝る」


 晃の声に、のそのそとベッドに潜り込む。晃は布団を捲って迎え入れてくれて、いつもの定位置に横になる。


 他人の気配も、ベッドの狭さも、最早気にならない。


「ふぁ……」


「あ、洋介。俺、明日飲みだからね。遅くなるよ」


「あ? ん、解った」


 そういや、飲み会だって言ってたっけ。晃の部署は、割りと飲み会あるんだよな。


 ふあ、ねむ。


 曖昧に頷いて、オレは夢の中に落ちていった。




   ◆   ◆   ◆




 遅くなるという宣言通り、晃が帰ってきたのは門限ギリギリだった。随分飲んだらしく、帰ってきた時には顔が真っ赤で、足元はフラフラだった。


「うっは、しこたま飲まされた? 珍しいの」


「うーん、世界が回ってる……」


 晃は馬鹿みたいに飲むタイプじゃないので、恐らく飲まされたのだろう。フラつく晃を迎え入れる。まあ、晃の部屋なんだけど。


 晃はそのままベッドにフラフラと近づき、ドサッと倒れ込むように寝転んだ。


「おーい。お前シャワー浴びてないのにベッド上がるなって」


 ほぼ同居となってから、オレたちの間には簡単なルールがある。


 勝手に他のヤツを部屋に入れない。


 遅くなるときは連絡する。


 シャワーを浴びずにベッドに入らない。


 この三つだけだ。あとは好きに寝転がっていようが、晃の服を着ていこうが、オレのアクセを着けていこうが、お構い無し。


 大雑把な二人の、簡単な決め事と言うヤツである。


 晃は「んー、ちょっとだけー」と唸るような返事をして、ピクリとも動かない。仕方がないと溜め息を吐き出し、オレは晃を放置して部屋の角に置かれた水槽に手を伸ばした。


 扉を開けたらビーチだった事件から、我が家(※晃の部屋)で飼っているヤドカリのヤッくんである。エサをあげると寄ってくる姿が可愛い。ふふ。


 ヤドカリと戯れてしばらく。晃を振り返る。気づけばすっかり爆睡モードに入ってしまったらしく、クースーと寝息が聞こえてきた。


「あらら。ダメだこりゃ。起きないヤツだな」


 仕方がないと諦めて、晃の顔を覗き込む。端正な顔立ちは、いつもより赤みがさしていて、ちょっと酒臭かった。


「せめてジャケットだけでも脱がすか~」


 そう言いながら晃の肩からジャケットをひっぺがし、ついでにスラックスも脱がせていく。


「ん……」


 丁度寝返りを打って表になった身体から、さらにシャツをひっぺがした。


「ひゅー、良い身体~。イケメンー」


 そう言いながら靴下を脱がせたところで、ふと悪い癖が顔を覗かせる。


(あ、これ、イタズラしたら面白くね?)


 頭に沸き上がったアイディアに、実践したい欲がムクムクと沸き上がる。悪趣味なイタズラも、きっと晃なら笑い飛ばして許してくれるに違いない。


 そう思うと、やらなんてあり得ない気がしてしまう。


(酔った勢いでヤっちゃいましたドッキリ! あると思います!)


 どんな反応をするか想像して、ワクワクが止まらない。イタズラの成功を想像して、ニヤニヤしながら行動を開始する。


 思いきり良く、笑いながら晃のパンツを脱がせ、自分もスエットを脱いでパンイチになる。


(いや、待てよ。ディティールが大事だ)


 思い止まっていた最後の一枚を脱ぎ捨て、素っ裸になる。裸で寝転がる晃の横に並んで、布団を被った。


 正直、男同士で裸で寝るなんて正気じゃない。けど、面白さが先だってしまって、笑いを堪えるので精一杯だった。


 要するにオレは、バカなのである。







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