何を言っているか解らないかも知れないが、家に帰ったら部屋がビーチになっていた。オレも解らん。なんでこうなった。
部屋の壁にはブルーオーシャンなポスターがでかでかと貼られ、床一面に敷き詰められた白い砂。ビーチパラソルにプールサイドによくあるパイプのベッド。砂の上には貝殻やら、ヒトデやら。あと、生きたヤドカリがノコノコと歩いている。
オレは無言で、一度部屋の扉を閉めた。407号室。合ってる。
もう一度部屋を覗く。ビーチである。
「おおおお晃ぁあああぁぁあ!! あの馬鹿、何してくれてんだ!」
◆ ◆ ◆
夕日コーポレーションの運営する独身男子寮『夕暮れ寮』というのが、オレの住んでいる場所である。
寮ってどんなもんかと思っていたけれど、同世代の集まりは案外楽だし面白い。社会人経験の浅いオレだが、正直に言えばまだ大学生気分が抜けていない。まあ、馬鹿な同期のせいもあるかも。
寮に住むオレの同期は、オレを含めて四人。
ドキュンファッションで、ややヤンキーみたいなルックスの
型で押したような若手サラリーマンみたいな風情の
で、多分、一番オレと仲良くしているのが、
ついでにオレ、
そして、オレが自分自身を馬鹿代表だと思う由縁。それは――。
頻繁に繰り返す、同期たちへのイタズラのせいであった。
◆ ◆ ◆
ことの発端は、食堂の空いていない休日に、外に飯を調達に行くのが面倒で、配達を頼んだこと。その時は牛丼だった。
オレはふと、思ったのだ。
(この牛丼、届け先他人の家にも出来るんだよな)
ネットでも、悪質なイタズラとして一時期騒がれた。金は注文した人間が払うのだから、完璧な愉快犯である。
見知らぬ相手なら迷惑千万だが、知り合いならば馬鹿なイタズラで済むだろう。要するに、奢ってやろうというだけだ。腹一杯。
ポチリ、注文を確定させた品は、そうして隣人である晃が受けとることになった。その数、四人前の牛丼。
てっきり文句を言ってくるか、笑い飛ばすか―――「なにやってんの?」とか、そう言うのを期待していたのだが。
特に反応のないスマートフォンを眺める。受け取ってはいるようだ。
(うむ。さすがに、空気読めてなかったか。まあ、同期っていってもな)
この時は、社会人になってこんなアホなことをしている、馬鹿なヤツだと思われて、スルーされたのだろうと思っていた。
晃とは比較的仲が良いが、就職してから仲良くなった程度で、そこまでの関係じゃなかったと言うことだ。
なんだか自分が恥ずかしくなる。
そう思っていたところで、不意にスマートフォンに通知が入った。
『ご注文の商品がまもなく届きます。しばらくお待ち下さい』
その通知に、一瞬(は?)と思考が停止した。
(まさか)
既に答えの正解を、半分くらい解っていた気がする。ワクワクが止まらない。
五分ほど待って、到着の通知が鳴る。玄関前に出て、オレは荷物を受け取った。
(チーズ牛丼、十個www)
意趣返しとして、満点の返信。
オレは笑いながら牛丼の袋を抱えて、晃の部屋に乱入した。
「おい、おまっw チー牛十個はやってるって!」
「ごちー」
「ごちー、じゃねえのよ。お前のが払ってんのよ」
部屋に入ると、晃は大口を開けて三つ目の牛丼を食べている最中だった。
「あー、笑った。あ、一個交換しよ」
「おけ」
勝手に居座り、オレも一緒になって食べ始める。結局、二人で十四個の牛丼を完食するのは無理で、宮脇と久我にも手伝って貰った。
こんな感じで、オレたちのイタズラ合戦は始まったのである。