リミェラが呪いの聖女となったきっかけの記憶。その中に出てきた女の声。エンジェリア達は、その声に聞き覚えがあった。
「……あれって」
「間違いないだろうね。でも、どうして……」
フォルが否定しなかったという事は、女の声は、ローシェジェラで間違いないだろう。
「……あの、大事な話中申し訳ないけど、その、フォル。ずっと、エレの事を、好き放題していたって本当? ノーズが怪しんでいた時も、子供だから、甘えっ子だからじゃなくて、そういう他意があった? 」
リミェラが、恐る恐る聞いている。まだ信じたくないのだろう。
フォルは、少し間を置き、瞳に涙を溜めた。
「なんの事? 僕、エレがだいすきで、リミェラねぇ様は優しいから、ついつい、甘えちゃっていたけど、だめ、だった? 」
「う、ううん! だめじゃないよ! 嬉しいよ。けど、ゼロが言っていたのと、ノーズが疑っていたのが気になっただけ。ごめんね? こんな事聞いて」
リミェラは、本当にフォルを可愛い弟のように思っているのだろう。フォルの演技に騙されている。
「お前さ、こんなに可愛がってくれてるリミェラねぇを騙してなんとも思わねぇのか? 」
「何言ってんの? 騙してるとか人聞きの悪い事言わないでくれる? 僕は、エレが大好きで、エレが僕だけを見てくれれば良いなぁって思って、少しずつきょうちょ……教育をしているだけだよ? 僕がエレを好き放題してるなんて、そんなわけないじゃん」
エンジェリアは、フォルに頭を撫でてもらうため、意味分かっていないが、とりあえずこくこくと頷いて同意する。
「リミェラねぇ、賢いリミェラねぇなら見て分かるよな? あれ、エレ、頭撫でて欲しければ同意しろって言ってるようなもんだ。そろそろ、自分の義弟が真っ黒い事を知った方が良い」
「ていうか、なんで裏切るの! 君だって一緒になってやってたじゃん! 」
「最近エレと一緒の時間奪われるから。仕返し。エレをくれるなら、言い訳してやる」
「もう遅いでしょ。今更言い訳しても誰も信じないって」
エンジェリアは、話の内容は理解していない。だが、フォルに頭を撫でてもらうため、ずっとこくこくと頷いている。
「エレ、なでしてあげるから。それしなくて良いよ」
「みゅ。クロはリミェラねぇを助けたかった。でも、助けられないからエレ達に頼った……クロは悪い子じゃないの。いなくなったのは理由あるの。それはきっと、誰かのためなの」
「うん。そうだね。きっとそうだよ。僕も、詳しい事情は知らないんだ。あの子を拾った時、神獣達に追われていた。それは知っているけど、あの子がしようとしている事が復讐だって事も。でも、どうしてなんて事は知らない。昔のあの子の事も」
フォルはローシェジェラに戻ってきて欲しいのだろう。ローシェジェラの話をするフォルの表情が、悲しげに見えた。
「ぷみゅ。そうだと思うの。フォルが言うならそうなの。でも、考えても分からない事は、いっぱい調べるとか、本人に直接会うとかして知るの。今は、リミェラねぇと会えたの喜ぶの。あと、エレへのご褒美も忘れちゃだめなの」
「そういえば、デートとかは要求しないんだ。わたしも、そこまで詳しくないけど、好きな相手にもらいたいものって言えば、デートも入っている気がするけど」
「エレはデートを買い物程度にしか認識しれないから。それに、一緒にいるから、そんな事考えないんじゃないかな」
「ふみゅ? エレはお部屋で一緒にいる派なの。その方がすきなの」
エンジェリアは、フォルの腕に顔を擦り寄せながらそう言った。
「君は、こういう事ができればどこでも良いんじゃないの? 」
「……フォルだけなの。エレはフォル以外……ふみゅ。どこでも良いの」
僕以外でも良いんじゃないと言われたと勘違いし、エンジェリアは、否定したが、途中で気付いた。
勘違いした恥ずかしさで、顔を真っ赤にする。
「可愛い」
「……リミェラ、俺も聞きたい事がいくつかある。後で聞きたいと思うが予定は? 」
「ない。オルベアと二人で話なら、話が終わった後は」
「用意しておく。話さえ聞ければ、飲みながらでも」
「本当に⁉︎ 呪いの聖女の間は一度も飲めなかったから、楽しみにしておくよ」
リミェラが嬉しそうにしている。エンジェリアは、飲み物という事しか理解していない。きっと甘い飲み物なんだろうと思っている。
「これ以上は僕の仕事じゃないから、話に関しては任せるよ。でも、リミェラねぇ様の身柄はこっちに渡してよ。エクリシェで、ノーズとヴィジェと一緒にエレの世話させるから。エレの世話は何人いても足りないんだ」
「リミェラ次第だ」
「わたしは良いよ。あの時、何もしてあげられなかったから。それに、今回も迷惑かけているから。世話でもなんでもさせて欲しい。ノーズとヴィジェと一緒に」
「ふみゅ。ノーズねぇとヴィジェにぃを必ず助けるの。伝言あったけど、今のリミェラねぇには必要なさそうだから言わないね」
エンジェリアは、そう言って、手を後ろに組んだ。
「リミェラねぇは必ずノーズねぇとヴィジェにぃに会えるよ。エレ達が、会わせてあげるの。だから、信じてね? ノーズねぇとヴィジェにぃに会えた時、笑顔をあげてね? エレとゼロからのお願いなの」
そう言って、笑顔を見せた。
「うん。ありがとう。こんなにしてもらって、どうやってお礼すれば良いんだろう」
「ふみゅ。エレとゼロはあまい……甘やかせば良いの。フォルも甘やかせば良いの。フィルに作ってもらった魔法具がなかったら、記憶を視るのできなかったから、珍味をあげれば良いの。ピュオねぇとノヴェにぃは、いっぱいお話すれば良いと思うの」
「ドクグリクッキーおすすめだよ。フィル、それが一番好きみたいなんだ」
「ドクグリ……あの硬いの? あれなら、有名店知ってる。今度買ってくるよ」
「ほんと⁉︎ ありがと。フィルが絶対に喜ぶよ」
フィルが喜ぶ事は、フォルも嬉しいのだろう。とても嬉しそうに言っている。
「本当に仲良い兄弟だよな。フィルが喜ぶってだけでそんなに喜ぶなんて」
「君の方こそ。ゼムが喜んでいると嬉しいって思ってるの知ってるよ? 」
「……エレ……」
「エレが喜ぶのも嬉しい。エレは俺の妹だ」
「ぷみゅぅ。エレも嬉しいの」
兄弟会話を羨ましそうに聞いていたのに気付いたのだろう。ゼーシェリオンが、エンジェリアを妹と言い、エンジェリアは、喜んで、ゼーシェリオンに飛びついた。
「危ねぇからやめろ」
「ぷみゅぅ……やなの! 」
「やなのじゃねぇよ。怪我するからやめろ」
「……ぴゅぅ」
エンジェリアは、悲しげな表情を浮かべる。
「ゼロ、エレいじめちゃだめ」
「みゅぅ」
エンジェリアは、フォルに抱き寄せられ、笑顔になった。
「ご覧ください。あれがリミェラねぇの義弟です。ひどいでしょう。俺は、エレを心配して言っていただけなのに。それでエレが悲しんだからって、それを良い事にこんな事するんです。泣きます」
「ふぇ⁉︎ それはだめなの! ゼロになんでもして良いのはエレだけなの! 」
「……エレ? なんでもして良いとは言った事ねぇからな? 」
「ふぇ⁉︎ ……なんでもして良いの。ゼロはエレの持ち物なんだから」
「エレの方が持ち物っぽいけどな。すぐに疲れた抱っことか言うし」
「……そういえば、リミェラねぇの事が終わったら、休戦は無くなるの」
「そうだな」
ここへくる前の喧嘩は、同じ目的のために一度休戦しただけ。その目的が達成された今、休戦理由などない。
エンジェリアとゼーシェリオンが睨み合う。互いに自分を大きく見せるかのように両手を上げる。
「しゃぁー! 」
「きしゃぁー! 」
エンジェリアとゼーシェリオンが威嚇し合う。
「……エレ、ゼロ、置いてって良い? 」
「ぷみゃ⁉︎ だめなの! 」
「だめなの! 」
「オルにぃ様、エクリシェ帰るよ」
「ああ」
「みゅ? だめなの! 魔物化した達助けないと」
「術者が超えてるんだから、自然と元に戻ってる。戻れば、転移魔法で帰れるでしょ」
「……みゅ。なら良いの」
フォルが、転移魔法を使い、エクリシェへ戻った。