真っ白い景色。エンジェリア達が今いる世界のどこかに存在している神殿の中。
意識のない神獣達がエンジェリアとゼーシェリオンの周囲に倒れている。だが、エンジェリアもゼーシェリオンも、何もしていない。
二人がここへ来た時点ですでにこうなっていた。
「どうして……どうしてこんな事をしたの! 」
その回、エンジェリアとゼーシェリオンが兄妹のように一緒にいた御巫候補、ノーズとヴィジェ。
エンジェリアとゼーシェリオンは何もしていないが、ノーズとヴィジェは、この現状をエンジェリアとゼーシェリオンがやったのだと勘違いしている。
その理由は、御巫候補であれば、仕方がないと言えるのかもしれない。
ノーズは、この世界の声が聞こえる。その声が、エンジェリアとゼーシェリオンに罪をなすりつけているのだろう。
「エレ達は何もしてない」
「何もしてないって、それなら、世界様が嘘を吐いているっていう事になるんだよ! そんなわけないでしょ! 」
ノーズとヴィジェは、世界の声というものを信じている。その声は、全て真実。見ていたものを報告しているだけのような存在だと思っているのだろう。
だが、エンジェリアとゼーシェリオンは知っている。その世界の声というものは、偽りだらけだと。
「エレ、間違った事をしたら、そんな言い訳せずに、ちゃんと認めないと。話聞くから」
「そうだよ。どうしてこんな事をしたのか、ちゃんと教えて。何も教えてくれないと、分からないよ」
「だから、俺らは何もしてねぇんだって」
「ゼロ、世界様が見ていたんだから、嘘つかない」
何年も一緒に暮らしてきたエンジェリアとゼーシェリオンではなく、世界の声を信じて疑わない。
エンジェリアを妹のように接してくれていた相手だからこそ、その疑いが、裏切られたという想いが溢れ出す。
どうして信じてくれないのか。どうしてこんなふうに裏切るのか。そんな想いは、エンジェリアにあってはならないもの。
「……じゃないのに。嘘なんかじゃないのに。酷いの」
エンジェリアがその感情に支配されると、魔力が暴走する。そうなれば、この世界は滅びだろう。
「エレ。お前が望んでいるなら何も言わねぇよ。けど、望んでねぇだろ。やりたくねぇだろ。なら、そんな事させねぇよ」
ゼーシェリオンが、エンジェリアの変化にいち早く気づいた。エンジェリアを抱き寄せ、安心させてくれる。
ゼーシェリオンの声が、エンジェリアの暴走を抑えた。
「世界様が、エレは危険な存在だからすぐに排除しないとって言っていた。それでも、守りたかったけど、世界を守るためなら」
「俺らは世界を滅ぼすつもりなんてねぇよ。世界なんてどうでも良い。大事なのはエレだけだ」
「……ぷみゅ」
「二人は俺らに優しくしてくれるから、この先も一緒にいれると思ってたが、それはできねぇな。俺らはもう二人に関わらない。ある件が解決し次第、この世界からも消える、だから、二人も俺らに関わるな」
ゼーシェリオンが、エンジェリアを守るためにそう言った。もう、本気で会うつもりなどない。
ゼーシェリオンが、転移魔法を使った。
**********
ノーズとヴィジェと決別してから数日。エンジェリアとゼーシェリオンは、追っていた件について進展があった。
「ここに溜まっているの」
「溜まってるつぅか、集まってるだろ」
エンジェリアとゼーシェリオンが追っていたのは、魔力。最近、この世界で起きている、魔力が異常に増える現象。
その調査をしていたところ、今は使われているか怪しい神殿のどこかにあるようだった。
「ぷみゅ。普通なの。異常なんてないの」
「そう見せてるだけかもしれねぇだろ。何かあるかもしれねぇからな。隅々まで調べるぞ」
「ふみゅ」
一見何もなさそうに見えるが、エンジェリアはゼーシェリオンに言われ、壁を調べた。
エンジェリアの中では、何もなければ壁に何か仕掛けがある。壁を触れば何かが起こる。という事になっている。
**********
エンジェリアが壁を触っていると、突然、壁が動いた。
エンジェリアは、動いた壁に驚いて転んだ。
「みゅ? 地下通路なの」
「良く見つけたな」
「壁に何かある。エレの考えは間違ってないの」
「だからって、危険だからあんま触んなよ。ここは大丈夫だと思うが、洞窟とかで壁を触りまくってたら、巨大な岩が転がってくるとか良く聞く話だ。お前ならやりそうだからな」
「やらないの。それより、先に進もうよ。この先に何かあるかもしれないの。それを見つければ……」
この世界ともお別れ。
エンジェリアは、この世界を気に入っていた。自然豊かで、空気が美味しい。
「……また、ここみたいに綺麗な世界が見つかる。俺が探してやる」
「みゅ。そういえば、フォルにも伝えないと。もうこの世界にいないって事。何も知らずに探しに来ちゃうかもしれないから」
エンジェリアは、ゼーシェリオンを困らせないように、笑顔を作った。
「そうだな。後で連絡しとく。この件の結果もついでにやった方が、一度で済んでらくだからな」
「ふみゅ。よろしくなの……みゅ。この扉なんだか見覚えが……気のせいなの? 」
氷の蛇が描かれている扉。エンジェリアは、記憶を辿るが思い出せない。
「……この先で間違いなさそうだな。これって、明らかに神獣絡みだよな? 」
「みゅ。エレもそんな気はするの。ゼロは、この絵を見た事あるの? 見た事ある気がするが、どこで見た事あったか思い出せない」
ゼーシェリオンも思い出す事ができないとなれば、エンジェリアが思い出す事はないだろう。エンジェリアは、そういう事にして悩むのをやめた。
「神獣の何かであるのは間違いないと思うんだが、それ以外に、何か思いつくのがあれば良いんだが」
「ふみゅぅ? ゼロが頼りなの。エレは、思い出すのを諦めたの。エレは何も考えたくないの。だから、エレのためにゼロが思い出すの」
エンジェリアは、そう言って「がんばれー」とゼーシェリオンの隣で応援する。
「なぁ、思い出して欲しいなら黙ってくれねぇか? 気が散って思い出そうにも思い出せない。エレに黙れなんて難しいとは思うが、少しで良いから。二十秒くらいで良いから」
「……ふみゅ。いーち、にーい、さーん」
エンジェリアは、応援をやめて、秒数を数える。エンジェリアは、真面目にやっているが、ゼーシェリオンが、それを見て呆れている。
「はぁ……もう思い出すの諦めるか。神獣絡みなら、フォルに聞けば何か分かるだろ。これを覚えてさえいれば。それより、原因だ原因。早く、原因を探って止めねぇと、被害が出んのはこの世界だけじゃねぇぞ」
エンジェリアとゼーシェリオンの調査では、魔力が増えている原因は、他の世界から魔力を吸収している事が原因のようだ。
このまま放っておけば、他の世界に影響が出るだろう。もしかしたら、もうすでに出ているのかもしれない。
「ふみゅ。これどうやって開けるんだろう。開かないの」
「お前は学習能力無さすぎんだろ。神獣の紋が描かれてる扉は基本普通の方法じゃ開かねぇからな。フォルから貰ったペンダントをかざせば開く」
「ふぇ? でも、神獣の紋が描かれてる扉は、その種の神獣の証を持っていないと開かないんじゃないの? 」
「なぁ、なんでそれ知ってて力づくで開けようとしてんだ? 」
エンジェリアは、一生懸命扉を押して開けようとしている。だが、扉はびくりとも動かない。
「ぷみゅ? だって、これしか方法」
「フォルからもらったのは、全ての神獣の紋が描かれている扉でも開くんだよ」
ゼーシェリオンがそう言って、ペンダントをかざした。エンジェリアも、その真似をする。
「ふみゃ⁉︎ あ、あいたの! 」
「そうだな。早く行くぞ」
エンジェリアとゼーシェリオンは、扉を開け、中へ入った。