フォルは、フィルと一緒に、管理者の拠点の外を一通り見て回ろうとしていたが、エンジェリアの事が気になって、連絡魔法具を取り出した。
――出ない。何かあったのかな? それとも、気づいてないだけ? あの子がやった方法でも試してみようかな。って、流石に何度も使えないか。何かあった時のためにそれは使わないとして、花にでも頼るか。
連絡しても出ないエンジェリアを心配して、フォルは、追跡の花を創った。
――エレの魔力ならすぐに見つかるかな。念のため、認識阻害魔法と隠密魔法もかけておくか。
認識阻害魔法で、花をエンジェリア以外には認識させないようにする。隠密魔法で、花に込められている魔力を感じ取れなくする。
「そこまでする必要あるか? 」
「念のため。エレは狙われやすいんだ。もし、誰かがエレを狙っていた時、この花でエレの居場所を知られるなんて事にならないように、できる限り対策しておく」
エンジェリアを守るためであれば、努力を惜しまない。フォルは、花をエンジェリアに届けた。
「エレなら、これだけで連絡が取れる」
「その間に、少し見て回る? 」
「そうだね」
フォルとフィルは、エンジェリアに花が届くまでの間、管理者の拠点の周囲に異常がないか調べる。
**********
一通り調べ終わった頃、時間で言えば、朝になった頃、エンジェリアに花が届いたようだ。
――ぷみゅ。フォルの声、ずっと聞きたかったの。
――どうしたの? 何かあった?
エンジェリアは、フォルの創る花でエンジェリアに渡すものには必ずつけている効果を知っている。その効果は、意思疎通。これで、エンジェリアと話ができる。
エンジェリアは、不安そうだ。それで心配になり、どうしたのか聞いた。
――エレ、がんばったのに……魔物さん以外、見れなくて……エレが一番適任だからって。魔物さん一体で、人が誰もいなければ、討伐もできなくはないから。でも、でも……
――エレ、あんまり気にしないで。上手くできないとか、自分でできるって思って結局誰かの手を借りる事になるとか、そんなの良くある事だよ。
――でも、エレがちゃんと、魔物さん以外にも警戒してたら
――……エレ、さっきから、魔物さん以外とか言ってるけど、どういう事なの?
――ふぇ……ぷみゅ……急に、お水さんがびゅぅってなって、溺れかけて、びりびりさんで……神獣さんの気配気づいてれば、そんな事ならなかったのに……エレ、みんなに迷惑かけてばかりなの。回復魔法効かないし、ずっと、痛くて、痺れて、動けないで……
エンジェリアと一緒にイールグとゼムレーグもいる。アディとイヴィとも一緒だ。
エンジェリアだけでなく、その一緒にいるゼムレーグ達が気づかないのであれば、エンジェリアでは気付けないだろう。
――その花に魔力を少しだけ送って。そうしたら、僕が転移魔法を使う。
――みゅ。
エンジェリアが、花から魔力を送ってくれた。フォルは、その魔力で居場所を正確に把握し、転移魔法を使った。
「後で服を変えよう」
――この汚れは違うの。宴で、地面にねむねむしてたから。
「楽しかった? 」
――みゅ。
「そっか」
フォルは、しゃがんで、エンジェリアの頬に触れた。
「かなり複雑だ。解呪は難しい」
「……おれならできるかも。こういうのは得意分野だから」
「頼める? 僕は癒し魔法を使うよ」
フォルは癒し魔法でエンジェリアの傷を治し、フィルが解呪魔法を使った。
「ぷみゅ」
「君の説明だと、こんな傷らだけになってるのはおかしい気がするんだけど」
「……転んだの」
エンジェリアが、座って、フォルから視線を逸らして答える。
「ああ。それでごろごろと転がったと」
「……みゅ」
「エレ、花ならイールグにも持たせてるから、一緒にいてくれる? 」
エンジェリアを目に届くところへ置いておきたい。
「ぷみゅ」
エンジェリアも、フォルの声を聞きたいと言っていたくらいだ。離れたくなかったのだろう。フォルに抱きついて、こくりと頷いていた。
「これからどこ行くの? 」
「箱庭の方を見ておこうかなって。こっちは一通り見れたから」
「ぷみゅ。どうだったの? 」
「目立った異常はない。でも、若干魔力が少ない。気にするほどの量ではないんだけど」
エンジェリアが神獣に襲われたというのがあり、何か関係がないかと疑っている。エンジェリアの意見を聞きたいところだが、危険な目に遭った後だ。それに関係するかもしれない話題を振るのを躊躇う。
「良いの。エレ気にしてないから……気にしてなくはないけど、それは、エレが何もできない事を気にしてるだけなの。だから、聞いて良いの」
「……エレ、魔力が減っているのと、君が襲われたの。関係あると思う? 」
「分からない。エレを襲ったのは、エレに魔物さんを倒させないためだったの。多分、見定め。リグにぃとリオねぇの。でも、エレの直感は関係ないとは思えないの」
エンジェリアの直感は良く当たる。エンジェリアの意見で、この魔力の現象が、神獣と関係あると仮定する。
――でも、それならなんの目的で?
「……フォル、とりあえず、箱庭の中行きたいの。ベッドでねむねむしたい」
「うん。そうだよね。フィル、箱庭の中に行こうか。エレはのためにも」
「そうだな」
エンジェリアが、早くベッドの上で寝たそうにしているため、フォル達は、管理者の拠点の中へ入った。
**********
管理者の拠点に入ると、いつも誰かしらいるはずの場所に誰もいない。それに、荒らされている。
「……普段なら誰かサボってるのに……真面目にやってる? 」
「それはないと思うの」
「だよね。なら……地下に行ってみよう。あそこなら、ジュリンとジュリアがいるはずだ」
「ふみゅ」
前回、エンジェリアとゼーシェリオンが、フォルを探すために向かった場所。世界の映像が見れる魔法機械のある地下の部屋へ向かった。
**********
地下の階段を降り、部屋への扉を開ける。
部屋の中は、血まみれの地面に、倒れているジュリンとジュリア。
フォルは、走って二人の側へ行き、癒し魔法を使った。
「……エレ」
「分かってるの。もうやってる」
管理者の拠点には、映像記録魔法具が各所に設置されている。エンジェリアが、魔法機械を使い、映像記録魔法具を確認している。
「ぷみゅ。侵入者。これ……エリクフィアなの。でも、どうして……ふみゃ⁉︎ 神獣さんもいるの。隠れてるけど」
エンジェリアが、見つけたものをフォルに報告している。フォルは、その間に、後で会議室に集まるように書き置きをしておく。
「主犯は神獣で間違いないだろうね。傷は癒した。伝言を書いた紙も置いたから、他の場所を見て回ろう」
「ぷみゅ。それなら、エレは、記憶の書庫が良いと思うの。あそこはサボりポイントだから」
エンジェリアは、ここへ来てサボり場所を聞いているのだろう。なぜか、管理者達のサボり事情に詳しい。
「でも、ここ上がるのは大変なの」
「急ぎたいから、おとなしくしてて」
フィルがエンジェリアを抱っこする。
「こっちの方が早いからね」
「ぷみゅ。エレはおとなしくしておくの」
フォル達は、階段を登り、急いで記憶の書庫へ向かった。
**********
見渡す限り本。歴史書から娯楽本まで、様々な本がここにある。
普段は、本が綺麗に並べられているが、散らかっている。
血まみれの床には、三人倒れている。まだ見つけていない管理者は、残り三人だ。
フォルは、癒し魔法を使った。
「これで残りはルノとレイとエクー」
「執務室が怪しいと思うの」
「おれも、エレと同じ。三人で一緒にいる可能性が高い。あそこには、結界魔法具があるから」
管理者の拠点は結界魔法で守られている。襲撃されたという事は、その結界魔法に何かあったという事だろう。
その結界魔法は、魔法具によるもの。そして、その魔法具は、フォルの執務室に置いてある。
それを知っている三人は、執務室へ向かった可能性が高いだろう。
フォルは、書き置きを置いた。
「執務室に行こう」
「みゅ。何かあった時のために、エレを降ろしてくの」
「分かった」
フィルがエンジェリアを床に降ろす。
「エレを気にせずに行くの」
「迷子になられたら困るから、手を繋いで行こ」
「ぷみゅ」
フォルは、エンジェリアと手を繋いで、急いで執務室へ向かった。