エリクルフィアを訪れたフォルとフィルは、人里離れた場所にいた。
エリクルフィアは、空中に浮かぶいくつかの大陸の総称だ。
「行きたくない。ていうか、僕らが行っても協力してくれないでしょ」
「そうだな。どうする? 上が上だ。上の圧力で、協力してくれそうな相手なんていないだろう」
「そうなんだよね……とりあえず、リプセグに会ってこない? ここへ来たなら、会いたいから」
原初の樹リプセグ。エンジェリアの持つ魔原書リプセグを通して、今もエンジェリアを手助けしている原初の樹だ。
フォルとフィルも、原初の樹リプセグには、かなり世話になっている。
「行ってみよう」
「うん。あそこなら、人に見つかる事もないだろうから、隠れるのにもちょうど良いよ」
フォルとフィルは、原初の樹リプセグのある森へ向かった。
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大陸一つが森。この森には、誰も近づかない。
「道が開いてないと、あそこには行けないけど……」
「気づいていれば、開いてくれるだろうけど……」
「まぁ、その前に、僕らが暮らしてきた場所があるから、そこで気づくでしょ」
フォル達が過ごしてきた森の家。植物達と一緒に、そこで何年も過ごした回がある。
その場所は、今も残っている。そこで、今も植物達が暮らしている。
「フォルー、フィルー、ひさー」
「久しぶり」
「うん。久しぶりだね。元気にしてた? 何か困った事はない? 少ししか時間取れないけど、できる事ならするよ」
妖精のような姿の植物達。この姿は、ここの植物達が、自由に動き回るために得た身体だ。
「大丈夫だよー。みんなが作ってくれた道具がいっぱいだからー、困ってないよー」
「それなら良かった。あのさ、リプセグに会いたいんだけど、道を繋いでくれないかな? 久しぶりに話がしたいんだ」
「繋げてあるー。だから、ちょっと休んでいくー。フォルを休ませ隊ー」
植物達は、楽しそうに言っているが、心配しているのだろう。
「うん。そうさせてもらおうかな。ここで寝ると良く寝れるんだ」
「お家繋げたー」
「ありがと。フィル、もう遅いから、ここで休んでから、リプセグに会いに行こう」
フォルとフィルは、森の家に入った。
全て植物でできている。懐かしい場所。ベッドは、エンジェリアが拘っているため、高級ベッドと大差ない、それどころか、上回っているのではないかと思うほどの寝心地だ。
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フォルとフィルは、森の家で一晩明かした。
起きてしばらくすると、エンジェリアからの協力要請があり、それに協力した後に朝食にした。
その後、森の家を出て、原初の樹リプセグのある場所へ向かった。
「ねぇ、気になる事があるんだけど」
「おれも気になってる」
「ここって、こんな宝石みたいな花咲いてた? 」
「咲いてない」
歩いていると、宝石のように綺麗で輝く花が咲いている。フォルとフィルがいた時にはなかった花だ。
「これはー、チェリドって人からー、頼んでー、もらったお花ー」
「お気に入りー」
「そうだったんだ。あの種、まだ育ててるのか」
フォルが魔法で作った種。魔法の媒介になり、成長魔法さえ使いこなす事ができれば、様々なものを作る事ができる。
もう育ててないだろうと思っていたが、まだ育ててくれている。それが嬉しく、口角が上がった。
「でも、宝石みたいな花って、あの子どう使う予定だったんだろう」
「贈り物ー」
「そう言ってたー」
「お世話になったお礼をしたいからーって言ってたー。それにー、こういう花がー薬になるかもーって言ってたー」
「なるよ。この花は、珍しい花でね。ある世界に、少しだけ咲いてるのを見た事がある。それに、この花は伝説の調合師が残したレシピに載っているんだ。調合できれば、見た事ないような薬が作れるんじゃないかな? 」
その調合をできる調合師など多くはないが。だが、いないというわけではない。
「どこで知ったか分からないけど、こんな貴重な花を作るなんて」
「……フォル、その、調合の方が気になる」
「ああ、伝説の調合師と呼ばれている人が残したレシピにあったんだ。調合師ヴィティス。エレの調合の師匠だよ」
「……フォルの本名を逆にして、一文字ずつ取ればそうなるのは関係ある? それに、エレの師匠って」
「……なんですぐに気づくかなぁ。あれは僕が作ろうとしていたけど、可愛いエレにやらせてみるのも面白そうって思って、あげたんだ。レシピは全て暗号。それに、それだけで作る事はできない。もし、外に漏れた時を考えて、そのくらいはしているよ」
エンジェリアにあげるためとはいえ、どこかからその情報が漏れないとも限らない。調合師を目指してる以上、この程度の暗号は解けるだろうという挑戦状の意味もある。
「僕が成功してなくて実験段階だったって事もあるんだけどね」
「この花を使う薬が、どんな効果の薬になる予定だったかも、聞いて答えてくれる? 」
「その効果が出るとは分からないよ。貧血防止薬。ゼロのために、作っていたんだ。でも、成功しないままエレにレシピあげた。その後も、時間があればやっていたけど、成功しなくて」
「……エレにレシピをあげたのは、エレと一緒なら成功できると思ったから? 」
「そこまで気づいたか。フィルにこういう嘘は通じないね」
表情に出していない。フォルの性格から、それに気づいたのだろう。
「あっ、そろそろ、道に入る。みんなは、今日はついてきてくれるの? 」
「今日は我慢するー。きっと、リプセグ様とつもりお話しあるー」
植物達と別れ、フォルとフィルは、植物達に繋げてもらった、原初の樹リプセグのいる道へ入った。
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原初の樹リプセグの周囲には木がない。特殊な結界が張られているため、目立つ樹だが、見つけられる事はない。
『お久しぶりですね。フォル様、フィル様』
穏やかで、温かい風が吹く。ゆったりとした声がフォルとフィルを歓迎する。
「うん。久しぶり。今日きたのは、言わなくても知ってるかな? 」
『ええ。ずっと、見ておりました。本当に、本当に良かったです。あなた方が、何も諦めなくて良い道を選んでくださって。その決断は、きっと悩んだのでしょう。それでも、選んでくださって、感謝しております。また、ここで会える未来をくださって、感謝しております』
「うん。そう、だね。僕も、リプセグに、みんなに会える未来で良かった。あれがエレとゼロを考えると一番だと思うけど、二人の想いを無視する事なんて、もう、僕にはできないよ」
この先、どんな事があろうと、フォルがあの選択を再びする事はないだろう。エンジェリアとゼーシェリオンが望まない限りは。
『そうですね。それは、良かったです。呪いの件は、植物達に任せてください。必ず、黄金蝶の子が救われると信じております。ずっと、ここで見ております』
「うん。ありがと。あっ、そういえば、アウィティリメナから何か預かり物とかない? 昔あそこに置いておいた武器とか」
『ええ。ありますよ。フォル様とフィル様の、愛用していた、特殊武器でしたら』
「それが欲しかったんだ。管理者の仕事が楽できるから」
特定の魔法を使えなくする魔法がかかっている武器。禁呪を取り締まる時に便利で愛用していた。
「それに、万が一の時のためにも持っておいた方が良いから。これがあれば、邪魔変魔法にかからないようにできる。広範囲ではないけど」
「そうだな。エレ達を守る事ができなかったら、救いなんてできない。あの二人を守るために、これは使える」
フォルとフィルは、原初の樹リプセグから、特殊武器を受け取った。
「ありがと。お礼と言うわけじゃないけど、道が繋がって、招いてない魔物が来たみたいだ。全部、片付ける」
魔物が、原初の樹を狙っている。フォルは、広範囲に浄化魔法を使った。
「普通の魔物相手だと、これで良いから楽なんだよね」
「フォル、そろそろ」
「うん。そうだね。あまり長い時間繋げてると、また魔物が来るから、今日はこの辺で。また、会いに来るよ。エレとゼロと一緒に。それに、僕、友人がいるんだ。その友人を紹介したい。リプセグは、僕らをずっと面倒見てくれた、大事な人だから」
『ええ。楽しみに待っております』
フォルとフィルは、魔物がこれ以上来ないうちに、結界の外へ出た。
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「フィル、管理者の拠点によっても良い? 外の様子も見ておきたい」
「ああ」
フォルは、転移魔法を使い、管理者の拠点のある世界へ転移した。